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語り部さんのアフターワールド  作者: めるこ
1.ナンパかな、いいえ違うよ勧誘だよ
8/43

1-8.拳とこぶしの熱い語り合いとか女の子に必要なのか

3日目。

予言通りコースを変えたアスレチックゾーンを駆けずり回った。

昨日と違うことと言えば昨日よりも難しいコースに変わって、問題も難易度が上がっていた。

そして今までは座学的な問題ばかりだったことに対して実技的な問題が増え、アスレチックを燃やしたり吹き飛ばす回数が格段に増えた。




「とりゃ!」

ブぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!

ドラゴンが吐いたかのような柱状の赤い炎が目の前を焼き払った。

たちまちアスレチックは真っ黒な消し炭となる。

周囲に焦げた臭いが充満して、煤が舞い上がった。

何も事情を知らない人がみたら魔獣の被害にあったのだろうと心配すること間違いない。


「おぉ!飛ばしたねぇ」

「う、うん…なんかごめん…」

アスレチック自体は魔法で時間を逆回しにしたように元に戻っていく。

実技的な内容が増えて魔法を使う頻度が増えた。

小規模な魔法からこんな感じで大規模な魔法まで。

今回は火の魔法を使ったが、地割れを起こす魔法とか、水を出す魔法とか、いくつかの魔法を組み合わせて熱湯を作る魔法だってある。

頭で理屈はわかっていても実際に使ってみると加減が難しくこのあような失敗は日常茶飯事となっていた。


「魔法はただ力任せに飛ばせばいいってもんじゃない。今回の問題は直線で細い火の道を作ること。力加減を想像力で補うんだ。細く細くでも強い炎を。もっと具体的にイメージしてみて」

「わかった」


グレンはひとさし指をピンとはり、指先に炎の筋を作ってお手本を作ってくれた。

魔法で発生させた炎特有のキラキラとした光彩が炎の周りを舞う。

高精度の魔力で作られた現象が纏う魔法の光だ。グレンはこれがとても美しい。

使う人や、使っている魔法によってこの色は変化するそうだが、グレンの光は虹色のキラキラした光だ。

私はその光彩を目に焼き付け炎の道をイメージする。

スっと指先に集中した。


「ほら、きれいだ」

「ほっ…」


少々の揺らぎはあるものの、炎の筋は天に向かってアスレチックを焼くことなくまっすぐと伸びた。




アスレチックを使った修行は日を追うごとに難易度が増して、

ただ問題を解くだけの内容から、対魔族や、対人間への戦いかたへと発展した。

慣れないこぶしを交えることもあれば魔法を使って応戦することもある。

暇をしているという魔王城の兵士の皆さんは喜んで私の修行に付き合ってくれた。



「すみません、お忙しいでしょうに…」

今回の相手は魔王城の人間の姿をした魔族さんだ。

手加減を相当にしてもらって何とか白星を取ることができた。

「全然かまいませんよ。最近は同じ訓練ばかりで飽きていましたし」

「ほぉ。飽きているというならより厳しーく訓練をするよう言っておこうかな」

音もなく背後に現れたグレンは面白いものを見つけたようないたずらな笑みを浮かべていた。


「いえ!!!そのようなご配慮全く不要にございます!!!!」


綺麗な敬礼をして兵士さんは走り去っていった。

その速度がとてつもなく速いのでやはり魔王城の兵士ってすごいんだな、と思ってしまった。


「だいぶ慣れてきたね」

「えぇ。最初は魔法使いが白兵戦の訓練かと思ったけど…」

「何が起こるかわからないから戦う修行も必要だよ。それに強い魔法は強い肉体と精神を好む。防衛の意味もあるけど、どちらかというとそっちの意味合いが強いな」

「…そうね」


ふと逃亡生活時代を思い出した。

あのころ追ってくる城の兵士と戦うってことが出来たらちょっとは変わっていたかなと思ってしまう。


「さて、かなり体力も知恵もついてきたことだし少しずつ時空間魔法のことも増やしていこう。ルチアの場合これが扱えるアベレージを生かさない手はないからね」


「うん…わかった」







魔王城。

魔王の執務室、の手前にあるハクトが主に使っている部屋。

グレンは以前からさぼり癖があり魔王の仕事を適当にするところがあった。

それも相まって各部署による権限が拡大し、大昔のような魔王による独裁とは遠くかけ離れた状況になっている。

魔王の権力の低下につながるとの懸念もあったがグレンはそれでいいんだ、と一蹴した。


実際、以前ほど魔界における魔王の権力を感じることはないが、そもそも魔王が権力を誇示する存在ではないとの定義の見直しや、ドラゴンの暴走だとか人間たちの襲撃だとか、有事の多い魔界において率先して前線に立つ魔王を悪く言うものはほとんどいなかった。



それどころか魔界において籍を持つ者にとって権利が増えるということは歓迎されたようで「自分たちで行う民主的かつ平和的な統治体制」はここ数年で安定して運営されつつある。


ちなみに議会も設けられているものの揉めた場合は拳を交え血沸き肉躍る議会になることもあり、また魔界における人気職業は人間の国への遠征とか、兵士というところで根本的なところは変わっていない。




そんなこんなで、ここ数日グレンが全く仕事をしていなくても魔王城は恙なく機能していた。


ハクトは自室の窓からグレンが数日前に作り出したアスレチックを眺めた。

今日から時空間魔法の修行をするらしい。

使えること自体が貴重な魔法。

存在すら疑われ、発見すること自体が困難。


過去に時空間魔法を使ったことがある魔法使いは、グレンを除けば一緒に魔法を確率したアナスタシア嬢くらいだった。


そもそも、魔法事態に素質は必要ない。

持っている魔力や、取り込める魔力がどの程度あるかの違いだ。

後は今やっているような身体的な強度の問題とか、魔法に関する知識の問題。




「でも彼女は確かに使っていた」


逃亡生活中、ルチアは確かに何度も時間を止める魔法を使っていた。

本人にその自覚は全くなく、緊急時に無意識で発動したのだ。


さらに、魔王討伐中も張り巡らせた魔王城の罠を解いたのも彼女だった。


ただそれは賢者の知恵があったからこそできたと思っているようだが全く違う。

彼女は罠が張られる前の状態に戻していたのだ。

こちらも全く自覚なく。


ただの魔法使いにそんなことが可能なのか?

否。

時空間魔法は普通の魔法使いや魔族なら関わることもない魔法。

なぜなら時空間魔法を必要とする機会はめったにないし、あったとしてもそのほかの魔法で補える。せいぜい過去に戻ったり、世界を渡る時くらいだが、そんな機会があるほうが珍しい。


「これは調べてみる必要がありそうですね…」


魔王の秘書として悪名高いハクトは1人つぶやいたのだった。

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