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語り部さんのアフターワールド  作者: めるこ
1.ナンパかな、いいえ違うよ勧誘だよ
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1-5.ご招待のヒミツ

「さて、昨晩はよく眠れたようでなによりだ」



中庭、ていうか庭園。

ここが魔王城というおどろおどろしい場所であることをすっかり忘れさせるような季節の花が咲き誇る庭園に設置されたテーブルでナゼか私と魔王ことグレンはお茶をしていた。


「えぇ・・・おかげさまで・・・」


一瞬確かに、ここは魔王の本拠地な訳だから熟睡はしないでおこうとか考えた気がするが、

そんなものはふかふかのベットに包まれた瞬間霧散した。

魔王城おそろしや・・・



「きみよくそれで逃亡生活やってこれたよね」

「うっさいわね」

「まぁルチアの名誉のために言っておくとあのベットにはポリッシュが安眠の魔法をかけていた」

「そ、そうなの?」

「よほどルチアが心配だったようだ。年頃のお嬢さんがあんなボロボロになられて、と涙ながらに語っていたよ」

「・・・」


あまり名誉を回復してもらえた気がしない。


「さて、ルチアが気にしているであろうことを一つ一つ解決していこうか」



「まず、なぜあなたは私をここへ連れてきたの?一応いっておくけど私は魔法使いとしては下の下もいいところよ」

「そんなこと知ってるよ。だからきみの時空間魔法を俺が鍛えてあげようと思ってね」

「そんな話信じられないわ・・・」

「まぁ考えてもみてよ。俺ってこう見えて魔王だよ。魔王というのは魔法使い、魔族の頂点にたつ者だ。

そんな魔王が貴重な魔法の使い手を育成して後世に残そうと思っても不思議はないよ」


「でも私はあなたを殺そうとした」

「魔界に生きていればそれくらいよくある話さ。あのときはまさかそんなちからを持ってるなんて思わなかったから食らっちゃったけど別に反撃しようと思えばいつだってできたし、今だって負ける気はしない。貴重な魔法だけど俺に使えない魔法ではないしね。それにね・・・きみに殺されるなら本望かもしれない」


「はっ?!?!?!?!?」


グレンはその鋭い瞳をそらすことなくこちらへ向けた。

それは明らかに恋愛だとかと絡められるような視線。


「時空間魔法の件とかは建前でもあってね、本当はこれが理由だよ」

その視線をすぐにかくしてにっこりと人好きする微笑みを被せた。


「ななな・・・なんのことよ・・・」

「だから、俺はきみに恋をした。理由なんてなんだっていい。魔王城で撃たれたあの一撃だったかもしれないし逃亡中のきみを見て心動かされたのかもしれない。

でもルチアが危機にあるとき、助けに現れるのは勇者でも誰でもなく俺でありたい」


「急に言われても・・・」

「返事急がないから考えておいてよ。でも俺は我慢するつもりはないからね」


「は、はぁ・・・」



久しぶりに恋愛に関する思考を働かせたせいでしばらく頭は正常に機能していない。

冗談を言っているという感じでもないし一体何を言っているのか理解しがたい。


飲んでも飲んでも暖かいお茶が沸いてくるポットを傾け何杯目かわからなくなった紅茶を飲み干した。


「で、昨日村で言っていた王様と結託していたってどういうこと?」

「そこか・・・まぁ経緯は昨日話した通りだけど・・・」



魔王・グレンは昨日語っていた内容をさらにかみ砕いて説明してくれた。



「君も覚えているだろう?何年か前にお隣の軍事国家・カヨウ国に新しい王様が立ったというのは聞いているだろう?」

「えぇ…確か若いのに優秀な方とかなんとか…」

「まぁあそこが軍事国家でいられるのも徹底的に実力主義だからね。まぁカヨウ国についてはそれほど掘り下げなくていいよ。問題はこの新しい王様が戦争を仕掛けていること。このアナスタシアには手を出す前に防いだけどほかの国は結構やられている」

「そうなの…」

初めて聞く話だ。なにせアナスタシア帝国は閉鎖的な領土なため外部の情報が少ない。

情報統制がされているらしいが、それに気づいている人は少ないのだろう。


「アナスタシアはもともと海と高山に囲まれた領土だか攻めにくいんだ。転移魔法に対する防御も完璧だし長年自然災害以外たいして起きたことはなかった。だからすぐ隣にあるはずのカヨウはここだけ全く落とせずにいた。ところが、近年アナスタシアとカヨウの境界に小さいがなだらかな谷地がみつかったんだ」


「それって…カヨウから攻めやすくなっていたってこと…?」

「あぁ。まだ幸いカヨウにはみつかっていないが時間の問題だろうと。なにせ過去にないレベルでカヨウは山越えの方法を探していたから」

「…」

「そこでアナスタシア帝国前王は考えた。今のアナスタシアの軍事力ではカヨウに勝てない。ならばもっと強い勇者を召喚しよう。そして軍事力を強化しようとね」

「なんとも他人頼みな方法ね…」

「アナスタシアは良くも悪くも平和な国だから国を守るための兵士を集めることはかなり難しかったんだ。だからといってカヨウ国が攻めてきますって言っても信じない。そこで俺の登場」


「アナスタシアは魔物の被害はあったから、魔王がアナスタシアを狙っているっていったほうが信ぴょう性は高かった」

「でも魔王は基本的に人間社会には不干渉のはずでしょう?」

「あぁ。魔王というのは魔物側の統治者という意味ではないんだ。魔の最高に立つ者ってこと」

「ってことは魔王は魔族の王様ではないの?」

「そういうこと。魔法を極めた頂点に立つ者に与えられる称号みたいなものだ。まぁ昔は統治者だった時代もあるけど今は民主的に魔界に暮らす魔族から政治家を募って政治ををしている。意外と民主的だよ」

「なんか魔族が民主的って言われるととても違和感があるわ…」

「他国では異世界から来た来訪者の影響で議会政治を取り入れえているところもあるから珍しい話ではないよ」

「…」


「まぁ、そうはいっても魔王の影響力はとても高いしもし魔界に脅威が迫ったら率先して指揮をとる立場だからいいもんじゃないけどね…」

「それで今回も魔王として人間側の敵になった?」

「察しがいい生徒は好きだよ」

単なるリップサービスとして流しておく。


「まぁ、そんな魔界にアナスタシア帝国の王様から依頼が来たんだ。例の谷地を魔族たちの領域として分け与えるからカヨウ国の脅威からアナスタシアを守り、来る勇者の敵として茶番を演じてほしいとね」

「そんなバレそうな嘘…」

「そうだね。君たちの認識からいくと今の魔王を倒したところで新しい魔王が立てば同じだ。でもたとえ魔王が立っても我々が力を合わせて戦えば勝てる、そのためにも日ごろから軍備は重要である、という建前を作ることができるし民衆の支持も得られる」

「それが目的ってこと?」

「そのとおり。つまり勇者召喚も魔王討伐も茶番ってこと。俺はわざわざ人間界に俺が魔王ですって言わなければ存在は隠せるし人間界に拠点の土地を持てるというのは人間界に住む魔族や魔術師たちにとってメリットが大きいからね」


現在、魔族がどこから現れるかははっきりしていない。

地の底ともいわれているし空から降ってくるというものもいる。


「真相は各地のゲートからコッソリ侵入しているんだ。ただ危険が大きいからこの方法はいまいちだったんだよ。いきなり人間界のど真ん中に放り出されても生きにくいからね。拠点が持てるということは人間界への入り口をここにしてある程度人間界の知識を与えることもできる」


「それで王様の提案に乗ったと…」

「そう。結果作戦は順調に進んだ。魔王は無事勇者に討伐されあとは姫様と勇者の結婚式をしてめでたしめでたし。だったはずなんだよ」


「それを私がぶち壊したと…」

「正確には違うけど結果的にそうなった」


「彼らの認識では勇者への恋に破れた魔女が姫君と勇者を殺した、ということになっているが真相は全く違う」

「…」

「真相は、魔女を操った姫君が勇者を連れて異世界に逃亡をはかった。それだけのことさ」


「…」


「姫君はね、神々に愛されすぎていたんだ。だから他者を意のままに操る魔法が使えた。君以外にも例えば兄王とか、賢者とかは特に操られていただろうね。しかも誰もそれに気づいていない。それが神々から愛された、いわば愛され姫の特権ともいえる稀有な能力」


「つまり君は文字通り都合のいいように使われただけだった」


「そのために私は…魔女として未熟だから騙しやすいと思われていただけってこと…」


「…」


グレンは否定も肯定もしなかったが、その沈黙を私は肯定と受け取った。


焦燥、悲しみ、後悔、どんな感情で表していいかわからなかった。

ただただ、悲しかった。

だけれども何が悲しいのかすらわからない。

魔王討伐には私たち以外にも多くの人が関わっている。

当然、お城の兵士や、ほかにもわずかながら魔王討伐に乗り出たパーティはいたし、魔族に村を襲われた子供たちだっていた。

それらの全ての人たちは無傷ではない。中には亡くなった人も大勢いた。

それらの全ての犠牲は無駄だったということ?


私は昔から魔法がまともに使えなくて級友からは馬鹿にされてきた。

そのうち諦めるようになっていたけれど魔王討伐パーティに選ばれて誇らしかった。

でも結局都合のいいように扱われ最後は切り捨てられて終わっただけだった。


「ルチア様、悲しまないでください」

どこからともなく現れたメイドは私の手をそっと握ってくれた。


「ポリッシュさん…」

「知らないことは学べばよいのです。だれしも最初から何もかもできるわけではありません。あなたはこの半年人間の王様から命を守り生き抜いた。誰にでもできることではありませんよ。誇ってよいのです」

「ポリッシュの言う通りだ。ルチア1人ではできなくても俺がいる。俺は愛する人がこんな風に扱われて平然としていられる程優しい魔王ではないからね。

ここにルチアをさんざん虐げてきた連中への報復を宣言する」

「魔王様らしいですねぇ」


ポリッシュさんの手は暖かかった。優しい手で握ってもらえるだけで心が温かくなる。魔法とも違う人のぬくもりというやつだ。


「報復…?」


せっかくポリッシュさんがイイ感じに慰めてくれたのになにやら不穏な言葉が聞こえてきたような…。


「あぁ。まずはルチアの魔法を鍛えなおす。時空間魔法は究めれば世界にまたとない至宝だから。そして勇者と姫を連れ戻し兄王の前ですべてを白状させ政治の世界から引きずり下ろす」


「そんな簡単にできるの…?」

「俺は魔王だよ。できるできないの問題じゃない。やるんだよ」


魔王のその目はキラキラと不穏な輝きに満ちていた。

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