1-3.魔王城へご招待!
村の村長には丁寧にお礼をして
村をあとにした。
指名手配の情報は来ていても穏やかな気性の村民たちは
明らかに不審だった私に宿と食事を提供してくれた。
最初は騙されているのではと警戒していたが
それでも親切にしてくれるのでそのうち警戒心も薄れていった。
機会があればきちんとお礼をしたいと思う。
「挨拶は済んだかい?」
「えぇ、おかげさまで」
村はずれの森に隠れていたらしい魔王、グレンはこちらに近づいてきた。
現状、追手が来る心配がない中で最も警戒すべきはこいつだ。
助けるふりをして王に私を引き渡すつもりかもしれない。
だけどこの村にずっと隠れているわけにもいかないし
次に行くアテも特にない。
今までもそうだったけど何か起こったらその時考えれば良いか。
あきらめにも似た境地に至った、というわけだ。
芽生えた希望に縋ってみてもいいじゃないか。
「さぁ、では魔王城にご招待といこうか」
グレンは私の肩に手をまわすと扉を開けるように何もない空間を押した。
1歩ずつ進むといつのまにやら樹木だらけだった周囲の風景は一変して、
いつかにみた魔王城と化していた。
ただし禍々しい雰囲気は一掃され、王宮にも似た清涼感が漂っている。
大理石の階段は美しく磨かれ、天井はどこまで伸びているか見当もつかないほど高くドームのようになっていることがかろうじてうかがえる。
窓からは魔王城とは到底思えないような明るい陽光がさしていた。
さっきまで夕暮れだったというのにこちらは昼間だ。
魔王城も人間世界にあるはずなのにここは時間の流れが違うのだろうか。
「君をお迎えするからなるべく明るくするように、って城の物に言っておいたんだけどお気に召したかな?」
「え?」
「魔王城だから君にとっては因縁の場所だろ?少しでも楽しんでほしいからね」
「そうだったの…」
「ここに君を害するものは誰もいないよ。みんな事情は知っているしたとえ人間たちの軍が乗り込んできても君の視界にが一瞬も入れないうちに全滅している」
「なんでそこまで…」
グレンがあまりに甘く優しく微笑むので勘違いしてしまいそうになるのだ。
最悪の失恋をしてさらに心すさんだ私にこの微笑みはまずい。
「おっと、窓が昼間のままだね。体内時計が狂ってしまうから正しい時間に直そうか」
グレンはさっき魔法を使った時と同じように指をぱちん、と鳴らすと窓から見える陽光はたちまち夜の藍色へと溶けていった。
「魔法だったんだ…」
「あぁ。ほかにも春の庭とか冬景色なんてのもあるよ」
「そのままの風景が一番きれいよ」
「ルチアがそういうならそうしよう」
グレンに肩を抱かれたままだけどそこに意見することにも疲労感を感じ何も言わずにそのままにしていた。
それをいいようにとらえたのかグレンはそのままずんずんと城の奥へ進んでいった。
「ここが君の部屋。家具とかそろえてあるから好きに使って。あとから食事を運ばせるからお風呂でも入っていなよ」
「は、はぁ…」
グレンはそう言い残して部屋を後にした。
溜息しか出ない。
さっきまで回廊を歩いていたと思っていたのに扉を開けたらもう私の部屋だという。
王宮とかにおいてありそうな天蓋付きベットはふかふかに整えられ、奥にはバスルームまであるようだ。
部屋自体はそれほど大きいわけではないが、掃除が行き届いており花が飾られセンスの良い家具で整えられたちょうどよい広さの部屋だ。
ベットが異常に大きいので存在感があるが寝るぶんには広くて困ることはない。
バスルームにはすでに湯がはられいつでも入ってくださいと言わんばかりの状態にされていた。
ネグリジェまで用意されていたのでこれはもうあきらめて風呂に入るしかないと諦め言い訳をしてありがたく湯を頂戴した。
久しぶりに入る広い風呂は気持ちが良い以外何の言葉もなくたまりにたまった疲労が落とされていくようだった。
もうこれ罠でもいいかな…。