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第八話

 な、なんだこれは……

 食堂中の誰もが現実に思考が追い付かない。

 確か、彼は普通科一年と名乗っていた筈だ。

 それが何故、魔法を使っている?

 魔術師ならば魔術専攻科にいて当然だ。何故、普通科にいるのだ?

 それに、あの魔法は何だ。炎の弾を光へと代える魔法なんか見た事も聞いた事も無い。

 次々と浮かぶ疑問符を頭に浮かべている最中、騒ぎを聞きつけた教師達が、食堂に駆け込んできた。




教師達が駆け付けた当初、倒れた学生二人を前にして無傷の浩明、状況を説明しようが信じてもらえず、浩明が録音した音声を聞いてやっと、状況を理解したという流れだ。

 場所を会議室に移しての聞き取りであるが、その第一歩から難航していた。

「食堂で魔術師二人を相手に大立ち回り。入学二日目で中々な事をやってくれるじゃないか。何か言う事はあるか?」

「先に手を出したのは向こうですが」

 額に手を当て、今にも机に突っ伏しかねないのを、ギリギリのところで踏みとどまらせている橘教諭に対して、向かい側に立つ浩明は反省の色を見せる事なく答えた。

「よもやと思いますが、先に手を出しておいて向こうは悪くないと言うつもりはありませんよね」

 橘教諭の隣では明美が額に青筋を立てて、額に手を当てている。

 もう一方の当事者二人は、両方とも失神していた為に担架に乗せられて保健室に直行。先に浩明に話を聞いているが頑として被害者を言ってのける浩明に二人ともが頭を抱えていた。

 話を整理すれば、先に手を出したのは魔術専攻科の学生二人の方、危害を加えようとしたのも二人、多少煽っていた感もあるが、どう考えても非は二人にある。やむなく応戦したと言われては返す言葉もない。

「だ、だからと言ってやり過ぎだとは思わんのか」

「向こうは魔術専攻科の上級生、私は普通科、せめてもの反抗のつもりでしたが、まさかあのような実力だったとは思わなかったものですからねえ」

「ふざけるな!」

 彼等の実力の低さを見誤ったと平然と言ってのけた事が、引鉄となり、とうとう耐えきれずに明美が立ちあがり怒鳴った。

「明美、落ち着け」

「姉さん!」

 隣に座っていた橘教諭が落ち着くように促した。

「おや、あなた方は姉妹だったのですか?」

「あぁ、そうだけど」

 この場で的外れな質問に、橘教諭があっけらかんと答える。確かに顔立ちがよく似ているなと

「その質問は、関係あるのか?」

 明美は声を片眉を引くつかせた。

「関係ないとは思えませんね。そもそも、先輩は何故そちら側にいるのですか?」

「何?」

「注意だけをして隠蔽をしろと言ってきたのは他でもない先輩ですよ。まずは何故、隠蔽をしようとしたのかを話すべきではないのですか。その場にいると言う事は、妹の行おうとした事の隠蔽を姉である橘先生が企てている。そう思われてもおかしく有りませんよ」

「私はただ君に怪我は無かった。だから注意だけで充分だと判断したんだ」

「怪我さえなかったら注意のみ。その理屈を取るなら殺人未遂に暴行、脅迫は罪にならないとそう言いますか?」

「そ、そうは言ってないだろ。私は……」

 痛いところを的確に突かれて反論の言葉に迷う。そこを浩明は歯に衣着せぬ言葉で追い詰める。

「私は何ですか。納得のいく答えを聞かせてもらえませんか」

「星野、余り明美をいじめないでくれ」

 たまらず橘教諭が苦笑交じりで止めに入ると、「それで」と話を戻した。

「話は分かった。今回の件だが、君についてはやむなく応戦したと言う事で厳重注意、まぁ、この場の注意だけで充分だろ、二人には……数日の謹慎でいいだろ」

「ちょっと姉さん、その処分はおかしいだろ」

 余りにも軽い処分に明美が姉に噛みついた。壁を丸焼きにした二人にもであるが、その二人を保健室送りにしておきながらお咎め無しでは当然納得いくわけがない。

「保健の稲木先生に聞いたが、あの二人、軽い火傷程度で治癒魔法を受ければすぐ回復するそうだ。落とし処としては妥当だろ」

「だけど!」

「納得いかないならお前の言った提案についても処分にかける事になるがいいのか?」

 尚も食い下がらない明美に橘教諭は釘を刺した。処分になるかならないかの紙一重の立場を理解させる為の脅しだ。

「そう言う事で、星野も納得して貰えるかな」

「分かりました」

「おい、それでいいのか?」

 自分の時には納得いかない、社会問題に取り上げると、録音し、通報までしようとしただけに、呆気ない位に納得した浩明の態度には、少なからず明美は目を白黒させた。

「正当防衛とはいえ、本来なら処分も覚悟していたのを不問にしてもらえれば十分ですよ」

 相手の非を認め処分をし、正当防衛を認めて貰えば納得する。押すところは押し引くところは引かせる。

 明美は姉の交渉術に舌を巻いた。

「さて、話はここまでにして、次の件だが」

 橘教諭は改めて浩明を見据えた。

「星野、君は……魔術師だったのか」

「えぇ、そうですが」

 あっさりと答え、ポケットの中からコンバーターを取り出して見せた。

「あっさりと認めるんだな。なんで普通科にいるんだ?」

「仰る意味が分かりませんがどう言った意味でしょうか。魔術師は魔術専攻科に入れという校則は無かった筈ですよ」

 最初から魔術専攻科に入る予定が無かったと返された事に、質問の仕方を代える。

「成程、質問の仕方が悪かったな。なんで魔術専攻科には入らなかったんだ?」

「理由は色々と有りますが、既に師と仰ぐ方から教えを乞いてますので、今更、同じ事を教わってもと言ったところでしょう」

「それが、食堂で放った魔法か」

「えぇ、師匠から教えて貰ったものですが」

 その言葉に明美が眼を光らせた。

「そうだ、あの魔法術式は何なんだ。炎を叩き落とすのではなく光へと変換させる魔法なんか聞いた事もないぞ。一体何をしたんだ?」

「教えるとでも思いますか?」

 返ってきたのは拒絶の言葉、余りにも取りつく島もない言葉だが明美も食い下がらない。

 浩明は師から教わったと言っていた。うまくいけば自分達にも扱えるかも知れない。もし、自分の身に危険が及んだ時に不意を突く事も容易になる筈だ。好奇心から出た言葉だが、浩明の使った魔法はそれほど魅力的だった。

「構わないだろ。良い魔法術式は世に広めるべきだ。それこそが魔術師の……」

「お断りします。知りたいのでしたら、自分の人生を捨てると見なして相手しますよ」

 浩明の静かな口調に明美は言いかけていた言葉を失う。そこへ橘教諭が口を挟んだ。

「星野、教師の前で物騒な事を口にするな。明美も魔術師の魔法に対する姿勢なんて人それぞれなんだ。星野に無理強いをするなよ。とにかく、この話はここまでだ。後は此方で処理しておくから、星野はもう行けばいいぞ」

「分かりました」

 強引に話をまとめたな、と浩明は思ったが胸の中に留めて退出した。

 得たい結果は得られた。納得いかないと喚くであろう学生二人への対応は、明美達に丸投げを決めた浩明を責める人間はいないだろう。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 過剰防衛ではなく正当防衛と認めたのに、被害者にも厳重注意と処分が付くのは訳が分からない…。何を注意するのだろうか。 その癖、大勢の前で堂々と隠蔽を謀った風紀委員長にお咎め無しなのも意味…
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