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イレギュラーな魔術師  作者: 常高院於初


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第弐部拾話

 斯波かなでの事が知りたい。

 そう決めた翌日、浩明と凪、慶の三人は新聞部の部室に来ていた。事前に連絡を受けていた里中絵里は満面の笑みと、こめかみに立てた青筋を隠すことなく三人を迎えた。

「星野君、それに二人とも、新聞部をなんだと思っているか聞いていい?」

 喫茶店での話し合いの後、浩明達は斯波かなでの情報収集を絵里に頼んだ。

 当初、「前回、あれだけ協力したのに今回は蚊帳の外、利用だけされるのはごめんよ」と、にべもなく断ったのだが、同席していた慶と酒井にも頼まれれば断るのは無理と、渋々だが協力を約束してくれた。紫桜が「これ、いいんですか?」と、やり方に疑問を浮かべたが柳に風で流し、凪が諦めるように言った。目的の為ならなんでも利用する。それが他人の肩書きだろうとだ。

 抗議の言葉を無視して、浩明達は絵里から受け取った資料に目を通していく。

「ねぇ聞いてるの?」

「申し訳ありませんが、少し黙っていてもらえませんか」

「ちょっと!」

「まぁまぁ落ち着いて」

「仲間外れにしたのは謝りますから」

 抗議の言葉を、言っても無駄だと慶と凪が止めに入る。

 二人が浩明に付いた目的は殆どが浩明に対するフォロー、というより浩明に対する敵意の防波堤だ。

 二人に止められて、言っても無駄と悟って諦めの溜め息を洩らした。その代わりに話題を変えて凪と慶に話を振った。

「それにしても、噂は本当だったのね」

「噂?」

「生徒会長、風紀委員長と星野君達が一緒に行動しているって話よ」

「あ、あぁ、それ?」

 言われてから、何が言いたかったのか気付いてはっとするように答えた。

「もう、噂になってんだ」

 一緒に行動を始めた昨日の今日で、学校中の噂に発展している。浩明の生徒会、風紀委員会に対する態度を考えれば魔術専攻科の学生には正しく驚天動地のありえない光景だ。

「それで、どんな経緯で一緒に行動する事になったのよ?」

「どんなって……なりゆき?」

「理事長の指示でしょ」

 凪の疑問符を慶が苦笑をもらして答える。苦笑が入ったのは当たらからずも遠からずだからだ。

「ところで、残りの二人は?」

「酒井君と京極さんは理事長のところに行ってるわ」

 一日一度の経過報告をする事を守れば、自由に動けば良いと言われている。昨日、行った話し合いについて行っている事を告げると、絵里は納得するように相槌をうった。

「それはまた……、酒井君、喜んで付いていったんでしょうね」

 ただでさえ、風紀委員会の信用をどん底に叩き落とした浩明だ。一緒にいると思う所も有るだろう。紫桜に同行する事に、内心、安堵の溜息を吐いているのが容易に想像できた。

 データを読み耽る浩明を見ながら、三人は苦笑を漏らした。



「つまり、斯波さんがサボるのに旧校舎を使わなかっただけで、彼女を疑っているわけね」

「えぇ、気になるところが有りまして」

 一通り資料を読み終えた浩明は、絵里からの問いにそう答えた。新聞部部長として、爆破事件の事を聞いてきたので答えれる範囲で応じた。

「それだけで疑うのは暴論過ぎない?」

「勿論、疑おうと思えば疑える事は他にも有りますが、確信を得るためにも、彼女の事を知る必要が有りましてねえ」

 彼女の情報を纏めたデータを指して答える。

「それで、その結果はどうだったの?」

 口角を軽くつり上げて聞いてくるのを、そうですねえ……と一拍おいてから、浩明は答えた。

「正直に言えば、まだ分からない事だらけですからなんとも、といったところでしょうか」

「何よ、少し位は分かってる事が有るんじゃないの?」

 お茶を濁したような答えに、絵里は口を尖らせた。

 少しでも聞ければ儲けもの、そう思って聞いたら全く効果無しではわざわざ資料を集めた労力が報われない。

「そもそも、部長に話して大丈夫なのでしょうかねえ」

「どういう意味よ。私にだって知る権利は有るでしょ?」

 絵里の反論に答えたのは慶だ。協力を頼まれたのだから、聞く権利はある。利用だけされて蚊帳の外では納得出来ない。

「里中さん、この件は理事長の指示で動いてるから、安易に話す訳にはいかないのよ」

「え、マジで……」

 理事長が出てこられては反論のしようがなく、項垂れて頭を落とす。

「そんなぁ……せっかくの特ダネなのに」

「部長、貴女はゴシップ誌の記者ですか?」

 突っ伏した絵里に、浩明は呆れ顔だ。そこに凪も加わる。

「そんなに、知りたいなら理事長に直接交渉したらどうです? 会長に情報収集を頼まれたんですけどって」

 凪の出した提案は直談判、自分達にではなく、理事長への直接交渉だ。

「そうねぇ、そうするしかないわよねぇ……」

 それを聞いた絵里はゆらりと立ち上がると、不気味な笑みを洩らし出した。顔が下を向いたままなので表情を読み取る事が出来ないが、人に見られたくない顔をしているのだけは確かだろう。

「ちょっと行ってくるわ」

 ぽつりと呟くように、だけど、三人に確実に聞こえるようにそう言うと、ゆらりと身体を揺らしながら、部室から出ていった。

 その不気味な雰囲気に耐えきれず、凪と慶が「ヒィッ!」と短く悲鳴をあげて後退りした。

「か、会長、あれ、本当に直談判に行くつもりなんですか?」

「さ、さぁ……?」

 先輩である絵里に対して「あれ」呼ばわり、普通なら、目上の人相手になんて言い方だと注意されてしかるべき言動だが、注意すべき慶も、同意見だったので、曖昧に返事を返した。

 凪の疑問だが直ぐに答えが出た。なぜなら、理事長室の方向から、怒号と悲鳴が聞こえてきたからだ。

「うわぁ……、本当に直談判やっちゃってるよ」

「まぁ、部長も、私と灯明寺同様、前回の実績が有りますからねえ」

 一緒に行動し、事件解決に貢献していたのだ。筋は通っている。

 浩明と凪が参加するなら、自分にも参加する権利が有ると押し通す算段なのだろう。

「良かったですねえ。これで情報収集が捗りますよ」

「いや、この後の事、考えたら全然良くないわよ」

 酒井と紫桜も巻き込まれているのだろう。ひと悶着が起こるのは確実だ。酒井と紫桜が血相を変えて戻ってくるのが目に見えてる。

「……会長、どうします?」

 止めに行くか留まるか、凪に問われた慶の出した結論は……

「そうねぇ……とりあえず、みんなが戻ってくるまでに、絵里ちゃんが用意してくれた資料に目を通しておきましょ」

「………そっすね」

 浩明から受け取った資料片手に出した現実逃避の結論に、凪も応じるのだった。

 

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