第弐部鉢話
爆破事件が連続する可能性も有ると分かり、関係者が気を引き締める事になった事情聴取の後、酒井は引き継ぎをして、そのまま第一発見者に話を聞きに行くと言って現場を離れ、同じく紫桜も、理事長に報告したいと、酒井について行った。因みに、連続爆破の可能性も有ると報告を受けた理事長は、目眩を訴えてソファに倒れ込んだそうだ。
そして、残った浩明、凪、慶の三人は、警察の好意により、爆発の有った教室を見ていた。本来ならば許されない事なのだが、犯行声明が有った事を見抜いた浩明の姿を見せられて、自分達にはない何かを見つけるのではと言う考えもあっての事だろう。もっとも、警官の方々はもう引き上げるそうで、現場を荒らさない事を念頭に置かれてであるが。
「灯明寺さん」
「なんです、会長」
「あれは……、何をしてるのかな?」
一通り見た後、浩明の邪魔にならないよう廊下に移動した慶は浩明を見ながら、凪に聞いた。
「考え事してんじゃないですか?」
無言で床や壁を叩いたり、空いた穴から外壁を見たり、衝撃で吹き飛ばされた机や椅子に、窓ガラスの破片を掴んでみたりを交互に繰り返している。
端で見ている二人には何を見ているのか分からない。
「まぁ、納得するまで好きにさせとけばいいですよ」
結果、行き着く結論は納得するまで放っておくに限る。
「心配しなくても、事件に関する何かを見つけてくれますよ」
「随分と星野君の事を信頼してるのね」
「それは当然ですよ。相棒ですから」
「相棒ねぇ……」
得意気に胸を張る凪に慶は困惑の視線を送る。
灯明寺凪の知名度は、今や魔術専攻科で知らない人間は殆どいない。普通科の魔術師であり、魔術専攻科で余り良い印象を抱かれていない星野浩明の相棒だと、自慢げに公言している。
何よりも浩明本人が、総一郎に対して凪の事を相棒と言ったのだから、その言葉に嘘は無いだろう。
灯明寺凪は星野浩明のお気に入り。危害を加えようものならば星野浩明を敵に回す。
魔術専攻科で新たに生まれた不文律は、なまじ浩明の実力を目の当たりにしている学生にとって恐怖の代名詞となっており、決して彼女には手を出さない。自ら好き好んで虎の尾を踏みに行く馬鹿はいないと言う事だ。
最も、浩明は姉代わりの雨田夕が彼女を気に入ってるから、信頼していると言っているがそれだけではないだろう。
「それで……最近はどうなの?」
「どうって?」
「星野君と何か進展はあったのかな?」
「進展、進展……進展……ですか」
「あ……、全然、上手くいってないのね」
途端に声のトーンが下がった事で慶は答えを悟った。
浩明の相棒と名乗っているが、浩明にとっての相棒は、あくまで浩明が騒動に巻き込まれた時に一緒に動くいわば公私の「公」の関係でしかみていない。
凪の目指す相棒は公私の「私」に至る相棒だ。
横領事件後も、それを目指して行動しているが結果は芳しく、毎回、地団駄と八つ当たりしている。
事件が切欠で仲良くなった慶や絵里から助言をもらっているが、相変わらず暖簾に腕押し、糠に釘状態だ。
「それもこれも、全部あいつの師匠が悪いんですよ」
「師匠って、星野君を鍛えた言うあの師匠?」
幼い頃の環境が故に、異性からの好意が自分に向けられるわけがないと思い込んでいる浩明だが、自分から動くのかと言われれば動く素振りが全くない。
誰かと付き合いたい、恋人を作りたいとか思った事は無いのかと凪は勇気を出して聞いた事があるが、「魔術師としてそして、人として未熟と思っている間は色恋などもっての他です」と、殊勝な言葉を返してきた。
年に数度会うという師匠から未だ未熟者と言われているそうで、師匠から認めてもらえるまでは色恋などしないと決めているとも答えていた。
「それ……、絶望的じゃないの?」
「そうなんですよねぇ……」
学生相手に負けなし、独自の術式解除魔法も修得している。
実力は学内でも間違いなく上位の筈だ。
比べる相手が悪過ぎる。
認められた時には三十路越えしている可能性も有る。
「おまけに、あんだけ凄い魔法を使えるのに、星野は魔法を便利な道具としてしか見てないんですよ」
「それは確かに、私達とは大違いね」
魔法を扱える事に誇りを持つ魔法至上主義を真っ向から否定する浩明の考えに慶は苦笑を洩らした。
「それも全部、師匠の教えだそうですよ」
「すっかり染まりきってるわけね」
「えぇ、星野曰く、自分の常識を全て壊した世界を見せてくれた尊敬する方だそうよ」
星野浩明が尊敬し、自らそうありたいとしている人が二人いる。
天統家という牢獄から自分を救い出し、自由と笑顔と家族をくれた義兄、星野英二。
もう一人は、魔術師、星野浩明を作ったと言っても過言ではない男、浩明からは師匠としか聞いた事はないが、聞く限りでは色々とぶっ飛んだ考えの人だろう。星野浩明に多大過ぎる影響を与え、臍曲がりの謀略使いの魔術師へと育てた魔術師。曰く魔術師らしからぬ魔術師、曰く人外、曰く常識がない、曰く失敗すれば死、身の毛も凍りつくような事を、さも普通のやり取りみたいな感じで楽しげに話す浩明に、凪が突っ込むのは二人の御約束だ。正直、どこを尊敬しているのか全く理解出来ない。
「実際、どんな事してたのかは詳しく聞けないんですけどね」
「それは……聞きたくないの間違いじゃないのかな?」
慶が苦笑を浮かべる。
「話はもう終わりましたか?」
「うわぁ!」
いつの間にか戻ってきていた浩明に、いきなり声を掛けられ、ふたりは驚いて、腕を掴みあい後退りした。
「おや、仲がよろしいですねえ」
驚きの余り、二人で抱きしめあうような形となってしまい、頭ひとつ低い凪は慶の胸元におさまっている状態で、結果的に同性カップルを思わせる百合色空間が形成されかけていた。自分も怖いけど、彼女は私が守らなきゃ的な保護欲を掻き立てる。そんな空気が彼女達から感じられる。これで腰でも抜けてへたり込んでくれればライトノベルの挿絵に間違いなく使われる構図になるだろうな、と浩明は頭のなかだけで留めておく。
「折角ですので、写真でも撮っておきますか?」
「やるな馬鹿!」
慌てて慶から離れると、浩明が取り出した携帯端末を奪い取る。
「うわ、本当に撮るつもりだったの?」
画面を見ると本当にカメラモードになっていたので、呆れつつもカメラモードを終了させてから返した。
「おや、残念」
「うっさいわ。それで、何か分かったの?」
心底、残念がる浩明の頭を、話題を変える事で元に戻した。
「分かったというわけではないのですが、気になった事がひとつ、何故、旧校舎だったのかと思いまして」
「何故って?」
「犯人はどういった目的で旧校舎を爆破したのでしょうか。無差別を狙ったテロ行為なら授業中の校舎を狙うでしょうし、殆ど使われていない旧校舎を狙う理由がなんだったかのかと思いまして」
「さらりと怖い事言うわね」
校舎内でこのレベルの爆発がもし起こっていたらと、身の毛もよだつ想像をしてしまい、慶は腕を抱いて震える。
「旧校舎のほうが狙いやすかったんじゃないの?」
「狙いやすい。そう言う理由が爆破する理由になりますかねえ。見た所、物置としてしか使われていなかったみたいですが」
瓦礫と化した机や椅子、辛うじて燃え残ったものの、熱風で飛ばされバラバラに散った生徒会の資料など、もう使う事の無さそうなものを見ながら聞く。
「確かに、サボりの溜まり場としては結構良いとこなんだけどね」
「灯明寺さん、授業をサボった事が有るの?」
「へ……あ、いや、授業が空いた時にですよ。ほら、選択してない授業とか有るじゃないですか」
「……まぁ、そう言う事にしといてあげるわ」
慶の肩書きを思い出して慌てて訂正すると、一応、慶は納得してくれた。納得していないのが丸分かりだったが。
「そうですか……、ここはサボタージュには良いところですか」
教室内を見渡しながら、浩明は呟いた。




