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イレギュラーな魔術師  作者: 常高院於初


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陸拾話

「星野、帳簿を確認したいって言ってたわよね」

「えぇ、言いましたよ」

 俯きこめかみに掌を当てて回しながら聞いてくる凪に、浩明は答える。

「まぁ確かに真正面からお願いしても無理ってのは分かるわ」

「副会長が素直に応じるわけが有りませんからねえ」

 続けて聞いてくる慶の問にも、浩明は淡々と答える。

 最近、よく見せるようになった慶の笑顔が苦笑混じりとなっているが浩明は、全く気付いていない。

「だからって……なんで男子更衣室のロッカーをあさる事になってんのよ!」

 躊躇なくロッカーを開けて、中身を確認しての動作を何度も繰り返していた浩明を、遠巻きに見ていた凪は一呼吸置いてから、ロッカーを力一杯叩くも、浩明は気にする事なくロッカーの物色を続けながら答える。

 慶が小早川に対して、宣戦布告をした日から五日の金曜日、「帳簿を回収する」と言った浩明は、絵里と慶の手引きで再び学校に来ていた。

 目的の資料が有る可能性が高いと案内したのは、まさかの男子更衣室だった。

「女子更衣室では無いのですから問題は無いかと思うですのがねえ」

「ある意味で大問題だと思うけど……」

 男が男の制服を物色、特殊な趣味を持つ女性なら垂涎ものであるが、浩明の行動はそれを期待させることの無い事務的なものだ。素早くブレザーを取り出し、誰のかを確認している。

「その前に男子更衣室に女子がいる時点で大問題よ!」

 因みに凪達、三人も更衣室内に入っていたりする。

 理由は誰か来ないか、室内から外を確認してもらう為だ。

 実質、見張りは一人で良い筈なのだが、全員で来たり理由は、当初、一緒に探すよう、促したのであるが断られたからだ。その為、凪と絵里は現在、手持無沙汰。事前の段取りを忘れた浩明の粗忽だ。

「大体なんで資料を探すのに男子更衣室に来る必要があるのよ? 副会長の自宅に忍び込めば良いじゃないの」

「灯明寺さん、それ犯罪だからね」

 平然と不法侵入を促すのを慶が窘める。

 学校への不法侵入で、すっかり罪の意識が薄れてしまっているようだ。 

「副会長の家に資料が有る可能性はかなり低いと思いますよ」

 目的の人間、小早川のロッカーを見つけた浩明は、制服のポケットやロッカーの中を確認しながら答える。

「この五日間、会長と部長に動いて頂いたおかげで、副会長はかなり疑心暗鬼に陥っていた筈です」

「確かに……目に見えて焦ってたわね」

 思い出すように絵里が上を向いてあおぐと、慶も「本当よ」と続ける。

「まさか、小早川君が目を離した隙に私物を少し動かしたりぐちゃぐちゃにするだけで、あそこまで感情的になるなんて……」

 慶と絵里が、小早川と教室で話をしてから今日まで、二人は浩明の指示された行動を取っていた。

 それは小早川を焦らせる為の謀略であった。



「追い詰める?」

 生徒会室の帳簿と領収書を照合し終えた日の夕食の席(仮眠のつもりが全員、夕方まで寝ていた)、豪華な夕食の並んだ星野家の居間で、凪、絵里、慶の三人は、浩明の言った言葉が分からずに聞き返した。

「書き換えられる帳簿を手に入れる為には、副会長を疑心暗鬼に陥らせて追い詰める必要が有ります」

 今後の方針を決める事となったのであるが、そのなかでまず決められたのが、小早川への対応だった。

「現状、事態は副会長の思惑通りに進んでいます。私と灯明寺は退学、会長にはどうする事も出来ず暴行事件等、生徒会の不祥事の全責任を追わせて追放、その後釜には正義の味方の副会長が就任、それが彼の描いている筋書きなのでしょう」

「聞いてて虫酸の走る筋書きね」

「勿論、そんな筋書きを認めるつもりは有りませんよ」

 凪が洩らした言葉に、浩明も同意すると慶も頷いて続く。

「それで、どうするつもりよ?」

「筋書きを狂わせればいいんですよ」

 方針について納得したところで、絵里が方法を問うと浩明は、淡々と答える。

「私と灯明寺は月曜日に学校に来るように言われています。内容は橘先生と結城の御嫡男殿との騒動の処分について話をするそうですが、その際に副会長を捕まえて、徹底的に脅しに掛かります」

「ただで済むと思うなよって感じ?」

「まぁ、そんな感じです」と聞いてきた凪に答える。

「食堂、部員勧誘の時の対応を知っているなら、それだけでも恐怖を抱きます。何せ私はやられたら徹底的にやり返すと思われてますからねえ」

「まぁ、そうよね」

 にべもなく絵里が同意する。

 敵意と悪意を持って接する相手は、加害者に仕立てて被害者としての立場で弁解の余地すら与えず糾弾し、家族ごとまとめて

追い詰める。

 一連の騒動の際、保護者の抗議すら返り討ちにし、結城康秀に対しては再起不能寸前にしてのけた男だ。

 それを目の当たりにしている学生達にとって、効果は絶大だろう。

「そこで会長、週明けですが何事も無かったように学校に行き、いつものように授業を受けてください。恐らく副会長が声を掛けてくるでしょうから、出来るだけ挑発するように自分は悪くないと言ってください」

「宣戦布告って事ね」

「そして、来週の臨時総会まで、一切の業務放棄を宣言して、副会長に業務を丸投げしてください」

「ちょっと、そんな事を言ったら会長の立場が悪くなるだけでしょ」

 余りにも無責任かつ無茶な指示に絵里が反対だと声を挙げる。

「心配せずとも、結城の御嫡男殿のおかげで会長の信用は著しく低下してます。そこにきて解職請求、今更、立場だ信用だと気にする必要は無いと思いますがねえ」

 一連の騒動の経緯は学校中の誰もがもう耳にしている。これ以上、立場が悪くなろうが今更、気にする事ではない。

「信用が落ちきっているのでしたら、その立ち位置を利用して、副会長を追い詰めるんです」

「わ、分かったわ」

 慶が頷くと、次に絵里に対して指示を始める。

「部長には、月曜日の朝一に解職請求の事を書いた記事の配信を、請求内容の横領が原因だと大々的に、それも読んだ読者が信憑性を抱くように書いて配信してください」

「無茶苦茶な要求するわね。副会長が何か言ってきたらどうするのよ」

 まだ曖昧な段階で記事にする事の危険性は十二分に知っている。絵里としては他の部員を巻き込む訳にいかない。

「暴行と横領、事件の重さを判断した結果の優先順位と言えば筋は通ります。何より解職請求を派手に出したのです。ならばこちらも大々的に取り上げたのだと言えば、反論の言葉は無いと思いますよ」

「…分かったわ」

 相手の思惑に乗ったうえで戦う。意図を察した絵里は頷いた。

「その際には副会長が持っている帳簿を私が狙っているのではとひと声かけて下さい。更に副会長の目を盗んで私物を動かすか、生徒会室を露骨に荒らしてください」

「帳簿が狙われてるって思わせるわけね」

「最初は軽く動かす程度で、一日ずつ範囲を広げ、最終的には生徒会室中の全ての資料を散乱させるようにする。それも会長が授業に出ている時を見計らい、顔を隠して誰がやっているか分からないようにして下さい」

「どうして?」

「最初は開き直った会長が無実の証拠を探していると思っているでしょう。ところが会長には鉄壁のアリバイがあり、やっていたのは全くの別人だった。そうする事で、副会長は初めて部長の言葉を信じ、勝手に疑心暗鬼に陥るでしょう」

「うわ怖い」

 凪が茶化してくる。

「追い詰めるならここまでやるものですよ。思惑から外れ、内外に敵を抱えればどんな人間であろうとも正常でいられるわけがありません。追い詰められれば焦りが生じ、疑心暗鬼に陥った時が動く時です」

「お、鬼だ……」

 凪が洩らした言葉は、そのまま絵里と慶が抱いたものと同じだった。

 それと同時に、二人は内心で安堵した。

 もし自分達が浩明を敵にまわしたままだったら、同等の事をやってきたのだろうと。

 敵にまわせばとことん容赦のない男。

 改めて、二人は浩明の腹黒さを理解した。

 そして浩明の指示のもと動いた結果、小早川は目に見えて追い詰められていた。

 初日は虚勢を張っていたようだが、生徒会室を荒らし始めてから挙動不審になっていった。私物が動かされれば「動かしたのは誰だ!」と騒ぎ、誰かが声をかけるだけでも驚きに震え、生徒会室が荒らされた直後には慶のもとに「お前がやったのだろう」と顔を赤くして詰め寄ってくるが、周りに止められて慶がやっていないと分かると「嘘だ!」と喚き散らし手が付けられない。

 その話を聞いた浩明は、作戦が実を結んだと見て帳簿の回収に動いた。

 その行き先が男子更衣室だったのだ。

「それで、なんで男子更衣室と帳簿が結び付くわけよ?」

 未だに何故か分からない三人に浩明は「簡単な事ですよ」と答える。

「帳簿が狙われてるのは誰が見ても明らかです。改竄前の帳簿は会長を糾弾する武器にもなりますが、一歩間違えれば自分を追い詰める諸刃の剣にもなりかねないでしょう」

 文書偽造は犯罪だ。自分の首を絞めかねない話だ。

「追い詰められて疑心暗鬼に陥っている副会長には学校に安全な場所は無いに等しいでしょう。。さて、最初の質問の答えですが、そんな危ない帳簿のデータを毎日のように荒らされた生徒会室に置いとくわけがない。自宅に保管しておくのも危険です。生徒会室を荒らされているなら自宅に忍び込むのはもっと容易ですからねえ。そのような不安にかられる位ならば手許に置いといたほうが賢明です。そう考えると帳簿を隠せて、紛失する可能性が最も低いもの。そう……」

 三人に見せるようにブレザーのポケットの中から取り出した物、それは

「携帯端末……」

 納得したように、絵里がぽつりと呟くと同時に浩明の一連の行動を察する。

 常に手許に置いといく携帯端末であるが、唯一、手離す時、それは体育の授業だ。だからこそ小早川が体育の授業に出席している最中に狙いを定めて男子更衣室に乗り込んだという事だと。

 漸く納得した三人を見届けると、浩明は携帯端末を操作しだした。

「おや、ロックが掛かってますねえ」

「そりゃ、掛けられてるんじゃない?」

 浩明の仮説通りなら、その位は当然だろうと凪が茶々を入れる。

 しかし、それも想定内とだと自分の携帯端末とケーブルを取り出し、小早川のそれに繋ぐと空間投影を展開し、「暗号解読アプリはこっちのでしたかね……」と確認しながら操作を始める。

「ほ、星野君、ちょっと手馴れ過ぎてない?」

 手際の良さに絵里が思わず問いただす。浩明の行いは念を押すまでもなくハッキングだ。そもそも自身の端末に暗号解読ツールを入れている事自体がおかしい。

 日常的に行っているのかと、疑問の眼差しを向けてくる三人に、浩明は操作を続けながら応じる。

「まぁ、師匠にひと通り教えてもらいましたからねえ」

 ―また師匠!?

 それを声に出さなかった自分を、三人は自画自賛した。

「まぁ、必要になった時以外はやってませんよ」と、言い訳になっているのか分からない言葉に「へ、へぇ、そう」と曖昧に答える。

「どうやら解読が完了したようです、番号は……「7150」と……」

 三人が師匠とやらの人間性を疑う間の僅か数分で、小早川の携帯端末の暗証番号を解除すると、直ぐ様、保存フォルダを展開し、項目をひとつづつ確認していく。

「有りました。これさえ有れば横領が有ったのかどうかもはっきりします」

 ポケットから記録媒体を取り出すと、携帯端末に差してコピーを始める。

「念の為です。端末本体ごとコピーしておきましょうか」

 余裕を見て容量の大きい記録媒体を持ってきた為か、随分な念の入れようだ。

 凪が横から端末を除き込むと、十数分とメッセージが表示されている。

 終わるまでは待機。三人は完全に手持無沙汰だ。

 慶は誰も来ないか外を確認し、凪はロッカーに背を預けて寄りかかり、絵里は所在無さげに室内を見回しす。

 お互い無言のまま、男子更衣室に静寂が包む。

「ねぇ星野」

 静寂を破って凪が声を掛けると、「なんですか?」と返してくる。

「前から聞きたかったんだけど……星野って何で魔術師やってんの?」

「はい?」

 出た言葉は凪が浩明と出会った時から彼女のなかに生まれた疑問、恐らく浩明が捻くれていると思わせる根本的な質問だ。

 虚を突かれた問いに、怪訝な表情を凪に向けてきた。

 慶と絵里も表情を息を呑んで凪を見た。

 二人としても、聞いてみたい事だったが、聞けば浩明の逆鱗に触れかねないと思っていたからだ。

「だってさ、私が星野の立場だったら、絶対に魔術師なんかならないわよ」

 浩明の天統家で受けてた扱いを英二から聞いている凪には、浩明の行動は理解し難い所がある。

 浩明は魔法のせいで居場所をなくし、魔法のせいで人生を無くしかけた。二度と関わりあいたくないと考えて可笑しくないはずだ。

 しかし、それほどの扱いを受けていた浩明は魔術師としてここにいる。それも天統家の人間と対等、いや、間違いなく上をいく魔術師として大成している。その理由が知りたかったのだ。

 凪の言葉に、浩明は「そうですねぇ……」とおもむろに語り出した。

「魔法は、事を成す為の便利な道具であり手段だと言う事です」

「ど、道具?」

 うわぁ、と三人が引きつる。考え方が数多の魔術師とは正反対だ。

 魔術師は魔法を使える事に誇りを持っている。魔法を使えない人間とは違うという思いと、責務を背負っているからであり、道具として扱う魔術師はまずいないだろう。

 凪の態度から、彼女の思っている事が筒抜けだったようで、浩明は溜め息をつくと

「正直、あの拷問器具が憎いから魔法も嫌いなどと、坊主憎ければ袈裟までで損はしたくはありませんからねえ。魔法はどこまでいっても魔法。便利な道具を利用しない理由は無いのでは有りませんかねえ」

 魔法は道具、あくまで便利な物扱い、選民主義に感化された魔術科の学生には思いつかない考え方だ。

「それも師匠とやらの影響かしら?」

「えぇ」と自慢気に答える浩明に、三人は呆れて溜め息を漏らした。

 師匠とやらに相当、染まりきっているようだと。

 そうこうしていると、端末のコピーを終わらせた事を知らせる通知音が鳴った。

「終わったようです」と、繋いでいたケーブルを端末から外して片付ける。そして、小早川の携帯端末をブレザーのポケットに戻し、ロッカーに入れてあったように痕跡を無くすようにして戻すと、回収した帳簿に軽く目を通し始める。

「……思った通りです。確かに書類上では浮いた予算があるようですねえ」

「て事は……会長の無実が証明されたって事?」

「そのようですねえ」と、凪の言葉に答えると、女性陣三人は破顔して見合せる。

 予算が有るという事は横領は全くの事実無根と言う事だ。

 三人は小さく手を叩き合って喜びを噛みしめている。

「喜ぶのはまだ早いですよ。まだ重大な問題が残っているではないですか」

「何よ?」

 水を差された事に眉を顰めながら凪が返す。

「動機ですよ」

「動機って、会長を解職させる為でしょ?」

 何を今更と、凪が呆れたように返すと、浩明は深くため息をついた。

「解職請求するなら、理由は拷問器具のやった事だけで充分です。それを何故、横領まで加える必要が有ったのでしょうか。会長の言葉を信じるなら、有りもしない冤罪をでっち上げる必要は無いはずですよ」

 言われて初めて浩明の言わんとしている事に気付いた。

 会長が無実と証明されれば、逆に自分に対して糾弾の矛先が向いてしまう。

 余りにも危険な行動だ。

「だ、だったら小早川君はなんで横領しているって言ってるの?」

「会長に対する風評被害を煽る為とか?」

「それは無いでしょ」

 慶の問いに凪が推論を出すと、それを絵里が否定した。

「確かに、文書偽造までして手間のかかる事をする必要は無いでしょう。廊下での一件を出せば充分な筈です。それなのに、やったのかどうか分からない横領の疑いをかける理由はひとつです。横領が本当に行われていた可能性が有るという事です」

「う、嘘でしょ?」

「会長がやるわけないって言ってたじゃない!」

 浩明の言葉に絵里が確認を返すと、凪が反論した。

 浩明自身も会長がやる理由なんか無いと断言していたからだ。ここに来て手のひら返しをされては納得がいかない。

「あぁ勿論、会長がやったとは思っていませんよ」

「それじゃ副会長がやったって事?」

 自分の行った横領の罪を慶に擦り付ける。学校側から支給された額を越えた金額の食事をしていた事を出せば信じられかねないはなしだ。

「それもどうでしょうかねえ」

 絵里の疑問に前置きをしてから続ける。

「書き換えた後の金額の差から考えると、副会長がやったとは思えないんですよ」

 書き換えられる前の帳簿の金額と、徹夜で調べた帳簿の金額を見直すと、その差額は数十万にまでなっている。流石にいち学生がやっていたとは思えない。

 新たに沸き上がった疑問に頭を悩ませていると「あぁ、もうやめやめ」と凪が手を叩いて中断させた。

「ここで悩んでいてもしょうがないわ。場所も場所だし」

「それもそうね。もうすぐ授業も終わる時間だし」

 凪の言葉に慶が答え、絵里も頷く。

 授業が終われば男子学生が大挙して着替えに来るのだ。やる事が終わった以上、急いで離れる必要が有る。

「でしたら、場所を移動して、帳簿とこの端末のデータも合わせて見直しましょう。何か新しい事実が出てくる筈です」

「その前に息抜きしましょ。ずっと事件の事ばかり考えてたんじゃ息が詰まるわ」

「君、状況が分かってるんですか?」

 凪の提案に、浩明はため息をついた。

 生徒総会は来週の水曜日、既に一週間を切っている。

 一分一秒でも時間が惜しい状況で、そんな悠長な提案をしてくる凪に浩明は呆れてものも言えない。

「時間が無いのも分かるわ。でも、気分転換の娯楽も大切よ」

「確かに、少し空気を抜く必要が有るんじゃないかしら」

「一旦、頭を切り換えれば、新しい発見もあるんじゃないかしら?」

 張りつめていた緊張を解すのも必要だと言い返すと、絵里と慶も凪の援護に加わった。

「……お二人共、まだ授業が有るのではありませんか?」

「今日はもう終わりよ」

 絵里が答えると慶も「私もよ」と答える。

 単位制の青海高校では、選択した科目によっては空き時間が出来てくる。一限目に授業を受けて帰る学生もいれば、昼から出席する学生もいる。

「……分かりました。それで何をするつもりですか?」

 ここで反論しても勝てないのは分かっている。それなら大人しく従っておく方が上分別だ。

 女性の連携というのは厄介だ。余程の事が無い限り、此方が悪人にされる。

「それは…着いてからのお楽しみよ」

 挑発的な凪の笑みに、浩明はこの件とは別の厄介事の予感を感じた。


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