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イレギュラーな魔術師  作者: 常高院於初


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伍拾玖話

こちらの手違いで投稿する話を一話先の話を投稿しておりました。

一話前から読んで頂けると嬉しいです。

 浩明に対して、「やれるものならやってみろ」と啖呵を切った小早川は、教室に入って驚きに後退りした。

 大谷慶が授業に出ていたからだ。

 小早川のなかでは、追い詰められ、家に引き籠もり現実逃避か悲嘆に暮れている筈だ。

 解職請求を突き付けた時の様子を見れば、簡単に想像が付く。それがどうして、平然と学校に来ているのであろう。

 先週の金曜日、結城康秀の起こした暴行事件の責任を問われ解職請求を出されたのは、学内ニュースで配信されており、学校全てに行き渡っている。だが、どういう訳か、生徒会予算の私的利用の疑いの方が大々的に記事にされており、そちらの方が噂の的となっているが、とにかく、そこまで疑いの掛けられている人間が何事も無かったように授業を受けている姿は、周りの学生達からも好奇と疑惑の視線が向けられている。

 まさかあの生徒会長達が……、という疑惑や、あれだけ噂になっていれば、来づらい筈であろう学校に来ているという驚きと好奇の視線。

 各々のそれを彼女は気にする事もなく慶は、そんな視線など柳に風とばかりに授業の準備を済ませて携帯端末を操作し続けている。

 それも鼻歌交じりにやっているのだから恐ろしい。

 大胆不敵と言うべきかふてぶてしいと言うべきか、それとも何か意図があるからなのか、或いは開き直りか、頭の中で思案を纏めているが、始業のチャイムが鳴った事で、慌ててそれを中断させ、空いてる席に着いた。

 どういうつもりか問い詰めてやりたいが、流石に授業を中断してまでそれをやるのは憚られた。


「会長」

 授業が終わり、机に据え置きされた端末の操作を終えて立ち上がる慶に小早川が声を掛けると、彼女は「あれ、小早川君?」と普段と変わらない表情で応じた。

「どうかしたの?」

「ど、どうかしたって……」

 先日、あれだけ糾弾されておきながら何事も無いかのような態度に小早川はどころか、事態をニュースで知っている周りの学生達も言葉が継げない。同じ授業を選択している橘明美も固唾を飲んで二人を見ている。何かあればいつでも止めに入る態勢だ。

 内心、慶の言動に戸惑いながらも、漸く小早川は切り出した。

「お、驚きましたねぇ。あれだけの事をやっておきながら平然とと学校に来るなんて……」

 驚きと呆れの交じった皮肉の言葉、蔑みも交じえた言葉をぶつけてくる。

「やっておきながらって……どういう意味かな?」

 それに対する慶の言葉は、小早川や周囲の学生達の予想を裏切る言葉。それも悪い意味でだ。

 それを機敏に感じた慶だが、次に口に出した言葉は更なる爆弾だった。

「学校側から処分も何もされてないのに休む理由は無いんじゃないかな。それに、私、何も悪い事してないよね?」

 小早川は絶句し、顔を引きつらせ後退りした。

 開き直り、それも罪の意識の欠片すら感じさせない程の笑顔でだ。

 しかし、それもすぐに表情を戻すと、慶に切り込む。

「か、会長、それは本気で言ってるんですか?」

「まさかと思うけど、無実の人間に対して解職請求が通ると本気で思ってる?」

「な、何を言ってるんですか。会長が原因で今回の騒ぎが起こったんですよ。分かっているのですか?」

「原因は天統君と星野君による確執でしょ。私物の入れ間違いだけで全責任を負わせようとするのはおかしいと思うんだけどな」

 小早川は言い返せずに顔を歪めた。

 ここに来て教室中にいた全員が、漸く気付いた。

 小早川と慶の責任に対する捉え方が違う事をだ。

 慶は、広域型魔法による集団被害の責任は、あくまでも行った康秀、そして、浩明の冤罪事件の責任は総一郎達、自分はただの入れ間違いだとして、個人に対しての責任を求め、小早川は慶が生徒会長という立場での責任を求めようとしていた事だ。

 個人に対しての責任の追及と、組織の上に立つ者としての責任の追及、どちらも筋が通っているだけに小早川は反論の言葉を失ったのだ。

 だが、何れにせよ分かった事がひとつだけある。

 大谷慶は小早川に対して、宣戦布告をしたと言う事だ。

「分かりました。つまり会長は私に対して敵に回ると言う事ですね」

「身の潔白を証明したいだけだよ」

「やれやれ、会長には呆れますよ。大人しく責任を認めて身を引けばいいものを……」

「そう言われて簡単に引くと思う?」

 諦めの悪さを揶揄した軽蔑の言葉に対してあくまで笑みを浮かべて返すと、周囲の学生達が息を飲んだ。

 この状況で何故、彼女は笑みを浮かべていられるんだ?

 絶対に自分が無実であるという自信の現れか、それとも何か秘策があるのか?

 少なくとも、この状況下で笑みを浮かべていられる慶に恐れに近い感情を抱くのも無理は無い。

 それは小早川も同様だったようで「こ、後悔するなよ!」と捨て台詞を吐いた。そして、その勢いで出ていこうとドアに手をかけようとした瞬間、勢い良くドアが開けられた。

「新聞部で~す。会長います~……あれ、副会長?」

 ドアを開けたであろう里中絵里の首を傾げた疑問形に、重い雰囲気が軽く緩んだ。

「あれ、なんか修羅場っぽい?」

 ドアを開けて小早川と鉢合わせした絵里だが、室内の異様な空気を感じたのか、室内を見回してから慶と小早川を交互に見ると、小早川から「お前には関係ない!」と睨み付けてくる。

「何よ、怒鳴る事無いでしょ」

 理不尽な対応に絵里は顔を顰めてから睨み返す。

 単に教室に入ろうとして鉢合わせし、室内の様子を伺っただけで八つ当たりに近い事をされて気分の良いわけがない。

「す、すまない。つい感情的になってたようだ」

 流石に対応を誤った事を悟った小早川は、ばつが悪そうに視線を背ける。

 一応の謝罪の言葉を受け取ると、絵里は睨みを解いた。ここで小早川と口論をするつもりは絵里にも無い。目的から外れているからだ。

「全く……なんなのよ」と、一人愚痴を洩らした所で本来の目的に戻ろうとした所で、慶が小走りで寄ってきた。

「あ、絵里ちゃん。来てくれたんだ~」

「ついでにですよ。通り道ですから」

 胸の所で小さくハイタッチを求めてくる慶に、絵里はあくまでも面倒臭そうに同様のハイタッチで返す。

「里中、会長に何の用だ?」

「何って……取材に決まってるじゃない」

「取材だと?」

 小早川の表情が再び歪んだ。

 新聞部の絵里が会長に対して取材。平時なら何の問題も無い話だ。だが、今は状況が違う。解職請求中の慶に対して取材に来るなど小早川には見過ごせる話では無かった。

 小早川の過剰な反応は承知の上だったのだろう、絵里は小早川の言葉に応じた。

「会長から取材してほしいって頼まれちゃってね。今回の解職請求、自分は悪くないからちゃんと取材してほしいって」

「成程、既に動いていると言う事ですか」

 小早川から向けられた視線に、慶は満面の、それも挑発的な笑みで返すと、小早川は更に表情を歪めた。

「いや、新聞部としてもこんな面白い話、取材しないわけないじゃん? きっちり真相解明するつもりなんでよろしくお願いしますね」

 カラカラと絵里が軽快に笑う姿が、更に小早川を煽らせた。

「どうぞ、好きなだけされればいいですよ。まぁ、どんだけ聞こうが無駄だと思いますがね」

「まるで、自分の出した資料が全て正しいみたいな言い方ね?」

「勿論。解職請求の資料に全て書いてあった筈ですよ」

 小早川が出した解職請求の内容には、請求内容の他にも現生徒会役員の素行等も記載されている。

 内容としては、慶が生徒会室に私物を持ち込んでいる事や、役員としての作業内容等が記載されていた。

「一方が書いた内容だけ見たって全て分かるだけないでしょ。ちゃんとお互いの話を聞かないと……、どんだけ会長を悪人にしたいんですか。あ、もしかして、選挙で負けた仕返し?」

「何だと!」

「あら失礼。でも、さっきのでおあいこですよ」

 小早川の口調に隠しようの無い怒気を感じた絵里は、直ぐ様、謝罪の言葉を返すが、全然、反省してる様子が無い。ここぞとばかりにさっき怒鳴られた意趣返しだ。

「大体、こちらから出された解職請求内容を見て横領事件扱いした君にまともな取材が出来るのか?」

「解職請求内容から一番、重そうな内容を選んだだけよ。ほら、そっちの方がインパクト強いでしょ」

 受け取り方はひとそれぞれだと返されて反論に詰まる。そこから更に絵里は畳み掛ける。

「大体、横領って言うけど資料見て初めて知ったわよ。おまけに、資料が有るかと思ったら予算の一覧表だけだし」

「資料が間に合わなかったんだよ。証拠の資料はちゃんと出来てるよ

「だったら見せてくださいよ」

「これから会長と話をしようとする人間に見せれるか」

 絵理の頼みを即答で断る。

「人が苦労して集めた資料を書き換えられたら困るんでね。此方で生徒総会まで保管させてもらうよ」

「あっそ、んじゃいいわ」

 あっさりと手を引かれた事に小早川は面食らった。

「い、意外ですね。もっと食い下がるかと思ったんですが」

「御生憎様」

 新聞部の絵理なら欲しがるであろう最重要資料だ。

 思わぬ肩すかしに小早川は警戒心を高めた。

 何か裏があるのかと構えてしまう。

「こう見えても、無駄な努力はしない主義なの。会長、行きましょ」

 言いたい事と聞きたい事は言った。

 後は退散だと、会長に促すと慶も「そうね」と応じる。

 そして、教室から出ようとして「あ、そうだった」と何かを思い出したのか、振り向いた。

「副会長、資料は副会長が保管してるんですよね?」

「それがなんだ?」

 やっぱり見たいのかと、小早川は呆れぎみに返すが、絵里から返ってきた返事は思わぬものだった。

「だったら、星野君には気を付けてくださいね。彼、絶対に副会長を狙ってくる筈ですから」

「何だと?」

 予想外の名前に、小早川は首を傾げる。

 それは、他の学生達も同様みたいで、脳内で疑問詞を浮かべる。

「どうして僕が星野に狙われるんだ?」

「なんでって……それ本気で言ってる?」

 心底、分かっていないようで絵里は聞き返してしまう。

「あなた、解職請求の理由に結城君の暴行事件を挙げてたわよね。あの直後に解職請求なんかしたら利用されてたって疑われてもおかしくないわよ。あの星野が利用されたなんて分かったらどんな報復されるかしら?」

「馬鹿馬鹿しい。そんな事する訳がないだろ」

 小早川は吐き捨てて一蹴するが、表情には落ち着きが無い。

 先程、浩明に詰め寄られた時の事を思い出しているのだろう。

「だ、大体、星野はもうすぐ退学するんだ。もう関係……」

「無いわけないでしょ」

 大丈夫だと、自分に言い聞かせている言葉を言い終わる前に、絵里に否定された。

「退学されたら、あの星野が自由になるって事よ。学校生活中にされた事、全て洗いざらい公表するわよ。証拠の音声やデータ、必ず保管してるだろうし」

 誰かの息を呑む声が聞こえる。

 やられたらとことんやり返すを実践してきた男だ。否定しきれない。

 それどころか、「殺す気満々の学生に殴られたので、やむを得ず応戦したら退学になりました」と平然と言ってのけるだろう。事実、その手の報復行為で魔術専攻科の学生を何人も退学寸前に追い詰めて、保護者と一緒に謝らせるという事をやってのけた男だ。

 恐らく学校ごと糾弾し、社会的立場を徹底的に落とす事位、簡単にするだろう。

 それだけの証拠を浩明は持っている。

「そこに、副会長の横領の証拠が星野君の手に渡ればどうなるかしら……」

 天下に名高い名門魔法学校で起きたいじめ事件、おまけに学生による横領。その横領を暴く為、評判の余り良くない学生を利用し、退学に追い詰める。

 それが公になれば、事件の主犯は自分、社会的に終わりである。

「そ、そんな事出来る訳が!」

「分かんないわよ。だって、星野君は、あの星野英二さんの弟よ」

 ほとんど強がりで出した言葉も、英二の名前を聞くと言葉を継げなくなった。

 星野英二、義と情に熱く、一度、懐に入れればどこまでも味方になり、向けられた敵意にはとことん容赦の無い男だ。

 そして、かつて虐待の限りを尽くされた浩明の為、時の天統家を崩壊寸前まで追い詰めた男。

 その星野浩明を私利私欲の為に手玉に取り、切り捨てて退学するよう追い詰める……星野英二にとって見過ごせる事態ではないだろう。

「そ、それはお前が横領を記事にしなければここまで話が大きくならなかった筈だろ!」

「人聞き悪いなぁ。私は副会長がくれた資料を見て記事を書いただけよ」

 最早、支離滅裂に唾混じりの言いがかりに、絵里は肩を竦めて涼しい顔で流す。

「まぁ、今のは私の憶測だし、副会長が星野君の事を利用してないって言うなら堂々としてれば良いんじゃない……あ、もうこんな時間だ」

 全く説得の無い気休めをしながら、時間を確認すると授業開始まで後僅かだった。

「それじゃ会長、行きましょ」

 早く出ようと促す絵里を、「あ、待って」と言って慶が止めた。そして、小早川に笑顔を向けた。

「小早川君、来週の臨時総会が終わるまで、私、生徒会の業務、一切やらないから……頑張ってね」

「な!?」

 慶の業務放棄宣言に、小早川も、周りの学生達も驚きを隠せなかった。

 自由な校風の青海高校において、生徒会の行う業務に関しても

「ど、どういうつもりだ!?」

「どういうつもりって……横領の疑いかけといて、予算に関わる仕事しろって、それは都合良過ぎない?」

 至極、全うな意見である。辞めさせようとしながら、業務だけは全うしろと言われる筋合いはない。

「天統君達はしばらく休むって言ってたし、他にやれる人いないから、溜まってる案件、宜しくね」

「おい待て!」

 小早川が言い終わる前に絵里と慶は教室から出ていった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しいです。 [気になる点] 浩明に対して、「やれるものならやってみろ」と啖呵を切った小早川は、教室に入って驚きに後退りした。 と、小早川は言ってたみたいですけど何話で言ってましたか? …
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