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イレギュラーな魔術師  作者: 常高院於初


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伍拾壱話

 学校に到着した三人は、目立たないように学校に入る為に外周部に面する住宅地の裏道を歩いていた。堂々と校門や裏門から入るわけにもいかず、かといって女性陣がいるため外周部のフェンスを乗り越えるわけにもいかず、絵里の手引きで外周部に面する住宅地のなかに案内された。

「あの……里中先輩、ここは?」

「青海高校旧校門よ。新校舎が出来るまではここが使われたのよ」

 人目を避けるように来たそこには確かに校門が有った。長年の役目を終えたそこには、立ち入り禁止と書かれた看板と、家長年、使われていたであろう門が申し訳程度に鎖で封鎖されていた。

 最も、すぐ隣の金属製のフェンスが長年の腐食で腐っていて大きい穴が出来ており意味をなしていないのだが

「生徒会室からはちょっと離れてるけど、ここから入れば見つかる可能性は低いわ。学校内にはもう残ってる学生はいないだろうし」

「成程、これ以上無い侵入ルートですねえ」

 説明をしている横で、通りやすくなるよう金網を広げる。女性陣二人への配慮だ。

「部長、すいませんが先頭をお願いします」

「え、なんでよ?」

「放課後とはいえ人が居ないわけではありません。何より停学中の我々が堂々と校内を歩くわけにはいかない。先を行って誰も居ないか見てもらいたいのですがねえ」

「分かったわ」

「なんかこれ、スパイ映画みたいよね?」

「……灯明寺さん、みたいじゃなくスパイ行為だからね」

 興奮気味の凪に諦め切った絵里の声が届いたのかは不明だった。



 凪の興奮とは裏腹に、生徒会室への移動は呆気ない程に円滑に済んだ。

 監視カメラの映らない道を選び(位置は何故か浩明が把握していた)、絵里が先々を確認して誰も居ないか確認してという、慎重な移動の結果、時間はかかったものの誰にも遭遇する事なく生徒会室前まで着く事が出来た。

「なんか呆気ないわねぇ。壁を登って潜入とか、ダクトの中をほふく前進とか有ったら面白かったのに」

「君、そんな手間の掛かることすると思うのですか?」

「スパイ映画の見過ぎよ」

「冗談よ。そこ位はちゃんと分かってますって」

 派手に動けば当然目立つ。現実とはえてしてそういうものである。

「それよりも早く入りましょ。誰が来るか分からないわ」

 ドアに手を掛けた凪を、絵里が「待って」と止める。

「まだ誰か残っているかもしれないでしょ」

「あ、そうか……」

 誰も居ないからといって、室内にもいないとは限らない。

 確認の為にノックして反応が無いか確認する。

「返事は……無いわね」

 今度は、音がならないように少しだけドアを開けて中を伺う。

「……誰もいないみたいよ」

 時刻は既に夕方を超えた日没、カーテンが閉じきられた暗い室内を目を凝らし誰もいないのを確認すると、三人は素早く室内に入った。

「領収書は……」

「どこかに保管されてる筈よ」

 やむを得ぬ不法侵入、当然、電気を点けるわけにいかない。携帯端末に付けられた明かりを頼りに机や棚を開けて見ていく。

「中々、見つからないわねぇ……」

 引き出しを開けて、目的の資料でないのを確認して戻しながら凪がぼやいた。

「会計資料は重要機密扱いなのでしょう。見られないよう鍵でも掛けられるようなものの中かも知れませんねえ」

「鍵って、生徒会室にそんなの……」

 棚に並べられたファイルに目を通していた絵里が、無いと答えかけて言葉を止めた。

「どうしたんです?」

「ある。鍵を掛けられるもの」

「え、どこにですか?」

「机よ。生徒会室の机は鍵付の引き出しになっていた筈よ」

 はっとして、近くの机の一番上の引き出しを開けようとして、開かないのを確認する。

「そんじゃ、この中にどれかに領収書が有るって事ね」

「あくまで可能性としてはだけどね」

 やったと凪が笑みをこぼす。目的のモノが手の届くところに有るのを実感してだ。

 しかし、そこで絵里が水を差した。

「喜ぶのもいいんだけど、肝心の鍵が無いのよね」

「あ……」

 途端に凪の笑みが止まった。

 部外者の三人だ。鍵を持っているわけがない。

 ここで、浩明が動いた。

「灯明寺、ちょっと見せてもらえませんか」

 凪から場所を譲ってもらうと、鍵穴を覗き込み形状をひとしきり確認する。

「これならなんとかなりそうです」

「は?」

 呆気に取られる二人を尻目に、ポケットから鍵の束を取り出して、目的の形状の鍵を、机の鍵穴に差し込み、耳を当てながら鍵を左右に回し、引き出しを何度か軽く叩く。

 その行動を数回繰り返していると、カチリと言う音と共に、左右に回していた鍵が時計回りに百八十度回った。

 そして、引き出しを引くとなんの抵抗もなく開いた。

「有りました。どうやら当たりのようです」

「ちょい待ち!」

 引き出しの中身が目当ての領収書だったと取り出した浩明に、凪から抗議の声が返された。

「星野、今のって……ピッキングよね?」

「えぇ、この程度なら身近に有るもので簡単に出来ると聞いて勉強しておいたのが役に立ったようです」

「なんの勉強してんのよ……」

 凪と絵里、二人して頭を抱える。

 勉強するにもピッキングが日常生活のどこに必要なのか?

 とりあえず浩明には、勉強する方向の修正が必要だとこんこんと説き伏せたい。特に道徳と恋愛方面では必須科目だ。

 しかし、当の本人はそんな二人の胸中を全く気にする事なく、開けた机の中の領収書を確認している。

「どうやら、クラブ活動で使われた経費関係の領収書も一緒に保管されてるようですねえ……。折角ですから全ての領収書と、資料を照合しますか」

 手早く領収書を取り出して並べ始める。

「え、全部!?」

 膨大な量に、凪の声が半音上がった

「朝までコース確定ね」

「おや、形振り構ってられないと言った筈ですよ」

 頭を抱える絵里に、浩明が分かっていただろうと返すと「分かってるわよ!」と凪が投げやりに返した。

「やるにしても、ここでやる訳にはいかないわ。どっか別の所でやらないと」

 絵里の懸念に浩明は「確かに」と応じる。

 謹慎中の学生が生徒会室で物色。

 見つかれば弁明のしようもない話だ。

「んじゃ領収書どうすんの?」

「持ってく訳にはいきませんよ。窃盗は不味いですからねえ」

「それじゃ調べようないじゃない」

「持ち出しは無理でも控える事は可能ですよ。これを使えば……」

 携帯端末を二人に向けると、「そうか、写真だ」と、絵里が意図を汲んで答えた。

「そうか、それなら早く済むわ」

 凪も続けて携帯端末を取り出した。

「数がかなり有ります。分担をして早く済ませましょう」

机から細かく分けられた領収書を取り出し、並べ始めたその時だった。

 がたんと何かが動く音に三人が身を固めて反応し、音のした

方へと振り向いた。

「誰?」

 続けて聞こえてくるか細く気怠げな女性の声に、「ひっ!」と凪と絵里が恐怖にかられたのか短い悲鳴をあげて、浩明に抱き付いた。暗闇のなか、寝起きで無意識なのか、ゆらりゆらりと頭を揺らし、もぞもぞと動く気配に、抱き付く二人はより強く浩明にしがみつく。

 それを無視して、浩明が点灯中の携帯端末のライトを向ける。

「会長?」

「ほ……星野君?」

 そこにいたのは、目を真っ赤にした大谷慶だった。


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