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イレギュラーな魔術師  作者: 常高院於初


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39/83

参拾玖話

「あいたたた……」

 着地と同時に飛び降りた先から吹き出続ける煙を確認していると、隣でへたり込んでいる凪の悲鳴が聞こえてきた。

「君、大丈夫……」

 飛び降りた衝撃を緩和させようと腰をさする凪に思わず言葉が途切れる。

 着地した拍子にスカートが乱れ、黒のニーソックスで隠し切れない部分の生足が露になり無防備な姿を晒してしまっている。それに加えて、普段から胸元が苦しいからとシャツの第一ボタンを外しているせいで、自慢の北半球の谷間が浩明の視界に入ってきたのだ。その絶景に言葉を失っていると、飛び降りた時の衝撃で涙を滲ませていた凪が睨み付けてきたので慌てて視線を逸らし手で顔を隠した。

「アンタねぇ……」

 そこで、浩明がばつが悪そうに視線を逸らしているのに気付き、言葉を途切れさせた。

 普段から平常心の塊みたいな浩明が、ここまで取り乱しているのは極めて珍しい光景だ。

 気になって自分の姿を改めて見直すと、「ッ!!」と声にならない悲鳴と同時に顔を真っ赤にさせ、胸元を両手で隠し、背を向ける事で視線を完全に絶つと、慌ててスカートを直す。彼女にとって唯一の救いはその痴態を見られたのが浩明一人だけだった事だろう。

「まぁ、なんと言いますか……、なかなか刺激的な光景でしたよ」

「死ね変態!」

 褒めたつもりの感想の返事は、ゴミを見るかのような蔑みの視線と共に返される。普段なら反論する浩明だったが、これ以上の発言は凪の機嫌を完全に損ねそうなので肩を竦めるだけにしておく。女心に疎い唐変木でもそこまで分からない訳ではない。

「アンタねえ……、飛び降りるなら先に言っておきなさいよ」

「申し訳有りません。あの状況で咄嗟に最優先すべきものを考えた結果、こうするしか有りませんでした」

「最優先?」

 立ち上がろうとする凪に手を貸しながら説明を始める。

「灯明寺も気付いていたと思いますが、結城の御嫡男殿が発動させようとした、いえ発動させたのは広域殲滅型の爆裂魔法でした」

 途中、訂正を入れつつ続ける。

「あの狭い廊下でそんな魔法を放てばどうなるか、気付いた学生は我先に逃げ出し始めていました」

「えぇ、そうだったわね」

「廊下は細長く、巻き込まれるのを恐れ逃げても足を取られて逃げ遅れる可能性がかなり高い。それに隠れる場所は無く、巻き込まれる可能性がかなり高い。その場で最優先すべきはひとつ、君の安全確保を選ぶべきだと判断したまでです」

「え?」

 思ってもいなかった理由に凪の表情が固まった。しかし、浩明はそれに気付く事なく続けた。

「成り行きで手伝ってもらっているとはいえ、私は君の事をかなり気に入っていますし、相棒として側にいて貰うには申し訳ない位に素敵な女性だと思っています。それにその綺麗な顔に怪我でもされては困りますからねえ」

 凪の頬が熱に浮かされたようにみるみる赤くなっていく。

「それに、君に何かあっては夕姉さん達に何を言われるかたまったものではあり……、君、どうかしましたか?」

「!!」

 その変化が、最高潮に達して漸くその変化に気付いた浩明が、心配するようにその紅く染まった頬に手を触れた瞬間、びくりと全身を震わせると、その手から逃れるように勢いよく後ずさりをしようとして浩明が吹き飛ばした瓦礫に足を取られて地面に臀部をぶつけて座り込んだ。

 その際にスカートがめくれて中の薄布を晒してしまっているが、そんな事を気にする事無くそのままの体勢で後ずさりながら二メートル以上離れた壁に背中をぶつけて止まる。

「あ、ああああんた、な、なななんて事、い、いい言ってんのよ!」

 頬どころか顔全体を紅く染め、しどろもどろの呂律の回らない口調で口をパクパクとさせて、動揺を隠せない態度で、文句にならない文句をぶつける。

 不意討ちで異性に「君の事を気に入っている」、更に「申し訳ない位に素敵」、「綺麗な顔」と言われて、恋愛経験が未熟な凪には平静を保てる訳がない。

 アプローチをかけても暖簾に腕押し、余りの鈍感に歯噛みしているだけに、不意にそんな事を言われては恋愛経験皆無の凪には耐えられたものではない。

 そのせいで先程以上の痴態を晒してしまっているが、それを責めれる人間はおそらくいない筈だ。

「君、何かおかしな事でも言いましたか?」

「うっさいこの唐変木!」

 おまけに、なぜ凪がこのような反応をしたのか分かっていないのだから始末が悪い。

 -別の意味でとんでもない破壊力だわ

 頭に?マークを浮かべているのが丸見えの浩明の言動に、理不尽な罵声を浴びせるも、浩明には柳に風……というより、身に覚えが無いだけに全く気にするそぶりもなく言い返す。

「それのよりも早く立ってもらえませんか? 目のやり場に困るのですがねえ……」

「み、見るなバカーーーー!」

 視線を逸らし、平静を促す対応がまた彼女の羞恥心を煽る。

 慌てて両手でスカートを掴んでそれを隠すと同時に悲鳴が響き渡ったのだった。


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