参拾参話
「意外ね」
「はい?」
「里中先輩への対応よ」
一般解放されている屋上に移動して昼食を取りながら携帯端末を操作して情報の整理をしていると、隣に座り、購買で買ってきたフルーツサンドイッチを片手に凪が口を開いた。
「星野の事だから、里中先輩の事を徹底的に糾弾するって思ってたわよ」
部員勧誘の時とは正反対の大人しい対応はある意味、浩明らしからぬ対応だった。
「君、私をどういう人間だと思って見てるんですか?」
「聞きたい?」
「いえ、結構」
断ってから、凪に買ってきてもらったペットボトルのお茶を流し込む。聞いたら多少ならずとも凹みそうな気配がする。
「で、どうして何も言わなかったの?」
「君、私に被害者をいたぶる趣味は有りませんよ」
持ってきた弁当をつつきながら凪を見た。
「自分の意志でやったのならともかく、脅されて無理矢理書かされたのならば彼女は被害者です。ならば、これ以上言うのは酷ですよ。それに……」
浩明が一呼吸置いてから切り出した
「謝罪の言葉はいただきました。それで充分です」
「あぁ~、納得したわ」
誠意には誠意でもって、悪意には悪意でもって返す。この男、捻くれてはいるが、単純な律儀さも持ち合わせいるのを知っているからこそ、凪は納得した。
「ところで、さっきから何を調べてんのよ?」
空いてる手で携帯端末を操作して、空間ディスプレイを何枚も立ち上げて、その全てに目を通していってる。何枚かを覗いてみるとWebニュースのようだった。
「動機を調べようと思いまして」
「動機? 犯人が分かったの!?」
驚いて凪が浩明に詰め寄った。
「君、近いですよ」
凪が詰め寄った結果、胸にある年相応以上の物が浩明の腕に押し付けられていた。その結果、浩明からは、彼女のシャツの隙間から覗くそれが圧迫されて強調された谷間が丸見えだった。
「うわぁ!」
言われて気付いた途端、小さく悲鳴をあげ、顔を真っ赤に染めて後ずさりして離れた。
「時折思うのですが、君は露出性癖でも持ってるのですか?」
「んなわけあるか!」
その姿を茶化すと、罵倒の言葉が返ってきた。そんな認識などされてはたまったものではない。
「ま、冗談はさておき」と一息つける。
「気になる点は多々ありますが、大体の目星は付いてます」
「気になる点?」
「この情報を里中部長に流した犯人は何の目的でこの記事を配信させたのでしょうかねえ?」
「星野と天統先輩達、若しくは彼の取り巻きとを争わせる為……とか?」
恐る恐る凪が答えた。
「目的はそうでしょう。それで、問題はその後です」
「その後って……それが目的じゃないの?」
意味が分からず聞き返した。
「あくまでもそれは犯人にとって最終目的の為の過程である筈、つまり、私とあの脳内ラフレシア軍団が全面戦争やった後に犯人は何をするのか、その手がかりが無いかと調べてるんです」
「成程。それが、どうして生徒会の事を調べてるのよ?」
浩明が見ている記事は過去数年分の生徒会関係の資料だった。
「あの脳内ラフレシアが生徒会室で言ったタイミングでこの記事が配信されたのなら、生徒会関係に原因がある筈です。
それとも、情報が洩れた理由が、灯明寺、君が誰かに口を滑らせたからとは考えたくもないんだけど?」
「あ、それは考えなくていいわ」
即答で凪は否定した。
仮にそんな事態になっていたら、浩明の隣に座って昼食など取れる筈がない。
「それで何か分かったの?」
「残念ながら、今のところは何も……といった所でしょうか」
「はい?」
浩明の答えに肩すかしを受けた凪の声が半オクターブあがった。
「ちょっとちょっと、ここまで言っといて出た結論が分かりませんって……冗談でしょ!?」
「入学して間もない私が、生徒会役員同士の確執なんか分かると思いますか」
浩明の言い分も最だ。この学校に天統家の一族がいるのすら知らなず、魔術専攻科の学生ともあまり関わるつもりの無かったのだ。そんなきな臭い所まで知る必要が有るわけがない。むしろ、そこまで知っていたら間違いなくストーカーと呼ばれてもおかしくないだろう。
「分かったのは生徒会が去年まで予算を湯水のように使い込んでいたって事くらいですよ」
生徒会のインタビュー記事に掲載されている写真を拡大して凪に見せる。
「これが三年前、こっちが二年前、そしてこれが去年、見て何か気付きませんか?」
「何か……って役員?」
「君、ふざけてるんですか!」
古典的なボケが通じず、凪は視線を逸らして黙り込んだ。
「背景に写っている備品、前年度と違うのが多く有りませんか?」
「本当だ」
「まぁ、この件には関係ないと思いますが、まともな予算運用をしてないって事だけは確かですよ」
年度末に増える道路工事のようなものだと切り捨てた。
「じゃあ、どうするのよ? 行き詰まってるって事じゃない」
「そうですねえ……、ここは関係者に話を聞いてみますか」
「関係者って生徒会のメンバー?」
「いえ、いきなり本丸は無理でしょうから、外堀から埋めていきましょう」
生徒会の外部メンバーのリストを見ながら言った。




