弐拾玖話
動くのは状況を見極めてからと決めていた浩明だが、その状況は翌日すぐに動いた。否、動かざるを得なかった。
前日、拷問器具扱いをした元一族への対応を赤の他人相手の無関心でいこうと決めた浩明は人目を気にする事無く堂々と通学していた。
例え、校門の前で天統総一郎と結城康秀が立っていたとしても堂々とだ。
天統総一郎と結城康秀は目立つ存在だ。二人がツーショットで立っていると、当然の如く目立つ。彼等のファンや「康×総……ハァハァ」と呟いている一部の女子生徒には、朝から目の保養が出来てよかったかもしれないが、浩明にとっては関係ない。ただ、悪目立ちしてるなぁと無関心に思うだけだ。
朝から校門の前で立つ理由など「誰かを待っている」以外ありえない。その待ち人が自分でない事を祈りつつ、無視を決め込んで、無言でその二人の横を通り過ぎようとすると、総一郎に肩を掴まれた。
「おい、浩明」
無言で振り返った。分かってはいたが、祈るだけ無駄だったようだ。
総一郎は切羽詰まったような真剣な顔で浩明を見据えてきた。
周りにいた彼等の取り巻きが興味津々に見守っている。
「あぁ、天統家の御嫡男殿に結城の御嫡男殿」
肩を掴んでいた手を払い、触られた箇所を手で払いながら肩書きで応えると、二人の表情がわずかにくもった。
もとより無視と決めていたが、接触してきたなら仕方ない。先手を取って切り出した。
「先日は、大変失礼な事をしてしまいすいませんでした」
「何?」
いきなり、頭を下げて謝った事に、総一郎と康秀は戸惑う。
「昔、お世話になった方々に、あのような態度を取ってしまい申し訳ありませんでした。昔の事を思い出してしまうとついつい感情的になってしまう。師匠から常に冷静でいるよう感情のコントロールを身に付けるように指導を受けていたのですが、まだまだ未熟さを痛感しましたよ」
「そ、そうか……」
まくし立てての弁解に、二人は返答に詰まらせる。お世話になったと痛烈な皮肉を込めて、ここまで礼儀正しく謝罪されて反応に窮したのだ。
「それでは失礼します。もうすぐ授業が始まりますので」
早々に切り上げるよう持っていた浩明は、一礼するとその場を去ろうと校舎の方を向こうとして、「待て」と総一郎に再び止められた。
「お前に聞きたい事があるんだ」
用件を切り出すと平静を装って口を開いた。
「昨日の夜八時、どこにいた?」
「どこ……って、何故、御当主殿にそんな事を言わなくてはならないんでしょうか。かつてはお世話になった主ですが、今は赤の他人ですよ」
「いいから答えろ」
康秀が冷静にだが、高圧的に聞いてきた。様子がおかしい事に違和感を感じる。
「その時間でしたら友人と食事をしていましたが、その時間に何か有ったのでしょうか?」
「雅が襲われた」
総一郎の一言に周囲からざわめきが起こった。「雅様が!?」、「嘘でしょ」と言う声がちらほらと聞こえてくる。
「おや、それは大変ですねえ。それでお通夜はいつですか?」
ざわめきが消えた。それと同時に浩明に殺気が向けられた。最低極まりない対応に総一朗は言葉を失った。
「あれ、違うんですか? 一応、世話にはなった方ですから参列
……いえ、落ちこぼれが伺うのは恥になりましょうから、送り香典位はさせてもらいますよ」
「お前!」
余りにも酷い言葉に、胸ぐらを掴もうとする康秀を総一郎が制する。
「ひ、浩明、どうしてそんな酷い事を言うんだ! 雅はな!」
「酷い? 御令嬢暴行の罪を擦り付けようとしといて、どの口がそれをいいますか?」
「何!?」
浩明の反撃に、二人は言葉を詰まらせた。そこに浩明は追撃をかける。
「天統家の御令嬢が襲われたのに、傍にいる事無く校門の前で客寄せパンダをやっている。その理由は疑わしい人物がこの学校の関係者であり、ここを通ると分かっていたからです。そして襲われていながら、警察関係者が来る気配も無い。つまり、未だに被害届を出していない。そう考えれば、襲った人間が顔見知りの犯行、その心当たりの人間は、御二方、並びに天統家、結城家に強い恨みを抱いていると思っている人間。脳内ラフレシアにそう思われているのは私だけでは有りませんかねえ」
総一郎と康秀は言葉を失った。「雅が襲われた」と言う言葉と、自分達が今ここにいるというだけで、そこまで言い当てられた事にだ。
反論が無い事を肯定と受け取り、浩明は続けた。
「……目撃者が居るんだ」
「はい?」
総一郎が口を開いた。押し殺すように平静を装った口調で続ける。
「現場からお前が走り去るのを見ていた人間がいるんだ」
「そうですか……でしたら、その方の目をくり抜いて、銀紙でも貼っといてください」
浩明にも凪という証人がいる(尾行犯もいるが証言を求めた所で応じないだろう)。聞くだけムダと肩をすくめた。
「それは勘弁してほしいな。目撃者は俺達なんだよ」
「はい?」
総一郎の言葉に続けて康秀が事件の事を話し始めた。
事件は昨夜、学校からの帰宅時間に起こった。浩明が生徒会室を出た後、事務作業に取りかかったのであるが、いかんせんあのような騒ぎの後であった事もあり、作業効率は最悪で普段なら起こさないミスも連発、やむを得ず副会長である小早川秀俊の提案で八時過ぎに作業を切り上げたそうだ。
青海高校には食堂はあっても寮はなく、当然、泊まり込むわけにもいかず、遅い下校となった。
その帰り道、会長の慶と小早川と別れた四人だったが、その途中、雅の鞄に間違えて慶の音楽プレイヤーが入っていたそうで、まだ近くにいるはずだと渡しに行ったのだが、そこから総一郎達の所に戻る最中に襲われたらしく、戻ってくるのが遅いのを心配に思い、総一郎達三人が駆けつけると、頭から血を流し横たわる雅とそこから走り去る浩明の姿があったそうだ。
「成程……」
「分かってくれたか?」
康秀の説明を聞き終えた浩明は顎に手を当て頷く事、数回
「つまり、やったのはお前だと分かっている、隠蔽してやるから認めろと、御二人は仰ってるわけですね?」
なんでそうなる!?
総一郎、康秀、そして、その場にいた全員の意見が一致した。




