第九十三話 お馴染みのスキル登場
93.
「ヘケッ、ヘケケケケケケケェェェェ!!!!」
うるさいよ! 何なのこの馬魚! 何て声で鳴くんだよ! それと、その歯茎剥き出しで叫び散らすのをやめろ!? 口から泡の様な唾液が飛び散っているんだよ! くっせ、これめちゃくっせ! 生臭いよ!! この魚やろぉーーー!
なぜだ、このアヴァ山の魔物は喧しい連中ばかりだ。いや、魔物はどいつもこいつもある程度喧しいのだけれど、それでも隔絶した何かを感じさせる。はっきり言って不快だ、俺の心をかき乱す何かが存在している。
「モズタロー、それはきっと、狂気なのじゃ。この魔物どもからは明確な狂気を感じるのじゃ! 頭がパーになっておるのじゃ!?」
頭がパァーッとな? 焦点が定まらず小刻みに動き続ける瞳、口からあふれ出る唾液と泡、そして、こちらに向けている感情は殺意や食欲では無い何か。これが狂気なのか? ひどく混沌とした動きの中でまるで戯れる様に人を弄んでいる。
「タロー、あのケルピー達が殺すつもりで襲いかかってたら、あそこにいる人達はとっくに全滅してるんじゃない?」
そうか。あのケルピーどもは遊んでいるだけなのか、違和感の原因はそれなのだろう。人を、人の命を何だと思ってやがるんだ! ……俺は言える立場じゃないな。わざとじゃないけど、洪水か消滅かの二択だったかも知れないけど、俺が責任を感じる必要もあるのだろう。
実際、あまり悪いことをした気がしていないので、アテナさんを怒らせてしまったのだろう。なぜだろう、おっさんには人の心というものが無いのだろうか。おっさんは鬼畜生なのかな? どうでもいいか。
「今は採土場に立てこもる人達の救出を優先してくれ! あの魔物についての考察は後にしよう。私も気になりはするが、優先順位は低いだろ?」
ミュゼっちの言う通りだな。さっさと殲滅してしまおう。こうなると、別行動させた三羽スズメが心配だ。妙な魔物に迫られたり、変な草を食べたりしてなければいいけど。目の前の人命よりも親しいスズメが気になるのは仕方がないよね。
「空中を走り回りおって! 喰らうのじゃ、連風刃!」
グウェンちゃんが風の刃を幾重にも放つ。それはケルピー達に吸い込まれるように斬って行くが、打ち落とすまでには至らないようだ。
「タロー、痛みを感じてないみたいだよ」
傷だらけになりながらも笑いような声を上げながら、空を駆けまわっている。
「ケケケケケケェェェ!!」
笑うような、威嚇するような、猛るような声を上げるケルピー。
「うぐっ、何て気持ち悪い雄叫びなんだ。昨晩見た奴らと比べると、明らかに知性が欠落しているぞ」
致命傷を負うまでは遮二無二動き続けている。まるで、ゾンビを相手にしているようだ。こいつらどうやって飛んでいるの? 風魔術ですか、そうですか。それは頭を潰さない限り浮き続けそうですね。
「タローが有効な攻撃手段がないね! のじゃロリと偽シュリは魔術が主体だし、クーは飛べるし、タローだけ役立たずだね」
クーさん! 辛辣ぅ~。いつのまに飛べるようになったの? カロちゃんの『天駆』を見取ったのかな? すごいなぁ、尊敬しちゃうなぁ。
それに、俺は必死に石を拾って投げているでしょ! 別に無能じゃないよ!? 俺だってがんばっているのだ。必死に石を拾う姿に、運動会の玉入れを思いだしてしまった。玉入れ何て競技したことないけど。
「だあ! もう、有効打がないのじゃ! クーよ、あの火魔術で薙ぎ払えんのか?」
「うーん、どうだろ? タロー、試しに魔力ちょうだい!」
試しで魔力を分け与える俺の気持ちにもなってほしい。あれ結構な性的快感を伴うから、人前でするのは恥ずかしいのぉ。
「キモい。……何かあるなら、さっさとしてくれ。私はもう、あの馬魚の相手をしたくないぞ」
それでは、『魔力譲渡』開始。あふーん、ヂュルヂュルするぅ。体液が抜け出ていくような、そんな一種の快楽が脳を焦がす。
「うーキタキタ! それじゃ、拡散破壊光線!」
ビャ!
クーの手に生まれた火球が空にフワフワ浮かんだと思うと、猫が尻尾を踏まれた時にあげる叫び声の様な音が響いた。火球が弾け飛び、その破片が俺達の周囲を避け、辺り一面を隈なく攻める。なんだろう? 破片手榴弾の光線バージョンといったところだろうか。
「派手な魔術だ。それに魔力消費が半端ではないようだ。ふむ、モズタローは魔術を使えずとも、他者へと魔力供与ができるのか。始めて見るぞ、普通は拒絶反応が起こるはずなのだが」
そうなのか。やっぱり、魔力循環に他者を巻き込むのは危険な行為だったのか。直観はある意味正しかったのだな。
「ヘケッ、公! ヘケケケ~」
クーの攻撃を受けて何体かは地面へと墜落したが、生き残りは多数いる。しかし、残りの連中は逃げていった。
「ううむ、何匹かは死んだようじゃが、残りは逃げたか……。逃げるとは珍しいのじゃ、それだけの知性があったようには見えんかったのじゃが」
魔物が逃げ出すのは非常に珍しい。普通は命尽きるまで、こちらに襲いかかり続けるのだが、あいつらは少し違ったようだ。
「狂ってるように見えて、命令を下す上位存在がいるのかも知れないね。そいつに支配されているから、あんな風になっているのかも」
クーの推察が正しいかもしれないな。魔素が激しく乱れ、発生が大々的に起こったばかりだ、上位の魔物が生まれている可能性が十分に考えられる。
「行っちゃったのじゃ、速いのぅ。追跡できれば良かったのじゃろうが、今は無理そうじゃな」
それよりも、ここにいる人達と接触して見ようか。ミュゼっち、お願いね。
「任されよう。はぁ、どんな罵詈雑言が来るかと思うと、気が重いぞ。」
暴言を吐かれるような可能性があるの? うーん、避難するにあたって何かあったのかも知れない。あんまり聞いていなかったけど、気を引き締めた方が良さそうだな。
「わたしがミュゼと一緒に話をしに行くのじゃ。モズタローは済まぬが、このケルピーを解体してくれるかのう?胃の内容物を調べてほしいのじゃ」
了解です。パッパラパーになるお薬が胃に残っていないか調べればいいわけか。うへぇ、胃は何処にあるのだか、魚の部分? それとも、馬の部分? まあ、いいや。薬物が体内で凝縮されていることも考えると、食糧にはしないほうが良いだろう。バラバラにしてやるよ!
グウェンちゃんとミュゼっちが代表者らしき男性と話を始めたようだ。俺とクーは二人でケルピーをバラバラにしている。
この馬の部分は不思議な素材で出来ているな、鬣は海藻のような触り心地で、体はびっしりと緑の鱗で覆われている。魚の部分も緑の鱗で覆われているが、普通の魚と思っていいだろう。消化器系は馬に近そうだけど、肺がある。水中で生活するのではなく、あくまで水辺で暮らす魔物みたいだ。
「タロー、胃はこれじゃない?」
そう言ってクーが胃を切除してくれた。胃はひとつだけで助かった。牛くんみたいに四つも持たれていると大変だったな。随分とパンパンだな。お腹いっぱいだったのかな?
パカッと開いてみよう。
「うげぇあ、びっしりだよ! 小さなキノコ? 斑点? わからないけど、胃の中にびっしりと詰まってるよ!」
まるで、胃の中で繁殖したようだな。噛み砕かれたものではなく、キノコがそのままの形で存在しているのが異様だった。気持ちが悪い……。自分の体内がいつのまにか未知の菌類に侵食されているかと考えると、怖気が走る。
他の臓器も開いてみよう。
うっ、大腸、小腸、食道、消化器にびっしりとキノコが繁茂している。赤い、真赤だ、まるで血を吸って育つかのような深紅のキノコだ。
肝臓までか……。体内でキノコがこれだけ繁殖すると、命が危ういだろう。だけど、このケルピー達は狂ったように遊び戯れていた。痛みを感じないに加えて、快楽や高揚感なども付加されていたのだろうか。
ぐちゃ、ぬちゃ、スッ
「タロー!? 何する気なの? まさか……、そのキノコを食べるの!?」
そうだ。このキノコがどんな影響があるかは、身を持って調べて見るべきだろう。魔物の体内で育つキノコなど、人の体内で育つことも十分に考えられる。どのようなものか判別するには、男識別をしてみるしかないだろう。
最近、男識別のやり過ぎで、様々な効果を識別できるようになった。異世界ファンタジー定番の鑑定技能という奴だな。やったぜ。こんな鑑定やだ! 誰か何とかしてくれ!
新たなスキルを獲得できたのだろうなぁ~。スズメ語とか、こんなスキルばかり増えている実感があるよ。
「タロー! 錯乱したら、クーが取り押さえるからね!!」
ああ、頼んだぞクー。さぁ、始めようか。
パクリッ
次回、幻の中で見た物は。おっさんの男識別ならぬ、男鑑定はどこまで通用するのだろうか。




