第九十話 牛くん、おいしいのだ!
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「はぁ~、喰った食ったのじゃ。久しぶりにデーモン肉以外の肉を食ったので大満足じゃ。……そんな分けあるか! 肉以外のものを食わせろ!!」
肉鍋を速攻で山ほど食べたグウェンちゃんがうるさい。いいじゃないか、牛モツを何度も煮こぼして作った煮込みはおいしかったでしょう? いわゆるモツ鍋という奴を作った。鍋ものは簡単で楽だと思ったけど、牛モツを丁寧に洗う作業を含めて、すごく手間がかかったから、しばらくは作りたくないな。
「うん、枝肉は熟成させた方がいいけど、内臓は新鮮な方が美味しいね。タローがよくわからない草と内臓を煮込み始めて、その鍋を何度もこぼしてた時はびっくりしちゃったけど、この味が味わえるならいいね! うーん、塩と砂糖、それに味噌で味付けされてて、美味しいよぉ」
クーは気に入ってくれたようだ。俺が知っている料理法で作っているだけだが、この世界では珍しいのかもしれない。ミズーリでは家畜の牛の内臓はどうしていたのだろうか。昔の日本みたいにホルモンという扱いだと勿体ないね。ホルモン=放るもの(捨てるもの)ね。
「はぐはぐ、おかわりであります! どんどん食べるであります。軍人たる者、食べられる時に食べるのであります!」
アテナさんもモツ鍋を気に入ってくれたようだ。一緒に煮込んだその辺に自生していた、よくわからない草もどんどん食べてね。俺が齧ってみたけど、毒はなさそうだったよ。
俺の作ったモツ鍋は、夏にも関わらず山の上だからか冷えるので、暖まると軍人さん達にも好評だ。初めは恐る恐る口をつけていたけど、臭いにつられて今では齧り付きだ。
ロス帝国は一年中寒いのだったな。それも、大氷河が海に戻った影響で気温も上昇するかもしれないな。そうすれば農耕が可能になるだろうから、食生活も豊かになるかもしれない。
「私が解体した牛を使ったステーキもどんどん焼けますよ、ほら、ミュゼもどんどん食べてください。完全栄養ペレットとは違って、味わって食べてくださいね」
鉄板で肉をひたすら焼いているシュリさん。軍人さん達にもどんどんステーキを配布している。姫様に肉を焼かせていいのだろうか。別にいいか。俺はステーキの焼き方に拘りがあるのだけど、こんな時にそれを言うほど無粋ではないよ。
「むぐむぐ、肉を焼いて塩をふっただけだが、もぐもぐ、美味い。シュリが料理を覚えたと聞いたが、この程度なら予想通りだな。むしゃむしゃ。肉を焼くだけなら私でも出来る。」
ミュゼっちはぶつぶつ言いながらも、肉を必死で咀嚼している。シュリさんのことを意識しているのだろうか。うーむ、どんな関係なのか今一計りかねる。
あの完全栄養ペレットばかり食べていたのなら、最初はおかゆか何かにしたほうがいいかと思ったけど、まあ大丈夫かな。絶食していた分けじゃないから、消化器や他の臓器が弱っている分けではないだろう。
料理もある程度落ちついたので、食べながら話をするとしよう。
「もぐもぐ、そうだな。ほぐむぐ、時間が貴重だかなら。むちゃむちゃ、それならシュリとアテナから話をしてもらえると助かる。くちゃくちゃ、モズタローの話は理解し難い部分が多かったからな。ズズッ、同郷の君達からの情報の方が理解しやすいだろう。ゴクンッ」
しゃべるか食べるか、どちらかにしてほしい。そう言えばシュリさんやアテナさんも初めは食事マナーなど存在していないかのような食事方法をしていた。
食事を完全栄養ペレットに頼りきりだったせいで、そういう文化が廃れたのだろうか。それにしては、ミュゼっちからはマナーを知りながら敢えて無視している気配がする。この女には恥じらいと言うものが無いのだろうか。
「分かりました。私が話します。それでは、何から話しましょうか……」
シュリさんが、ロス帝国を出発してからのことを話し始めた。旅路は順調だったこと、魔物に襲われる都市を観察していたら実行犯と勘違いされてタイタニックを撃墜されたこと、その後ダンジョン『オリアブ島』に囚われたこと、ダフダールブの裏切り、俺達との出会い、始めてのサバイバル生活、決死の脱出、マッドスキッパーでの生活、大氷河までの旅路など。
おそらく、彼女が体験したこと全てを吐露したのだと思う。ミュゼっちは黙って彼女の語ることを一言一句逃さない様に聞いている様だった。
「……そうか。生還できたのはシュリとアテナの二人だけか。後はダフダールブに寄って殺害されたか。直接は知らないが権力欲が強い男だと資料で見ていた。それが最悪のタイミングで表面化したというわけか。いや、ある意味で当然のことか。ロストアヴァロン帝国を離れたことで色々なタガが外れるのは想定可能な事態だった」
それほどロス帝国の支配体制は不満が鬱積しやすい、そう言うミュゼっちは疲れた顔をしていた。
「ミュゼ様、部下達の家族はどこかで無事にいるのでしょうか。彼らの訃報を伝える義務が私にはあります……。この状況では難しいと思いますが、何かわかっていたら教えてほしいであります」
アテナさんが必死の形相で懇願する。彼女が命懸けでの帰路を選らんだ、その目的を果たしたいのだろう。
「すまない……」
そう返すミュゼっちの表情は苦虫を噛み潰した様だ。
「その偽シュリがここのトップなの? 洪水が起こった時の避難はどうなってたの? 周囲には軍人とかそんなのしかいないみたいだけど、一般市民はどこにいるの?」
クーがそう聞いた。偽シュリって。まあ、似ていると言えば似ているかな? 2Pカラーと言ったところだろうか。白色の2Pカラーといえば黒色だよね。
「今度は私達の話をするべきだな」
ミュゼっちから語られた内容はなんとも言い難いものだった。
「なんとまぁ……、都市の力を過信したものじゃな」
「私はダンジョンに飲み込まれ、滅んだマッドスキッパーのことを聞きました。その原因は、……我が国に有りました。その報いを受けたのかもしれませんね」
どうだろう? 原因はひとつではなく、複数の要因が複雑に絡み合った結果だと思うけどね。
「周囲の地形ごとまとめて消滅する自体は避けられたでありますから、むしろ被害は少なかったと考えるべきなのでありますが、上層部がもう少しマシな対応をしてくれていれば、と思うであります……」
え゛!? どういうこと……。
「タロー、あのね……」
はぁ? 中枢ちゃん? 運担当が喰った? クー達は不思議体験をして来たのか。そうかそうか、この洪水が発生した原因は俺にもあるのか。ふむ、これはある程度生活が立ち行くまで協力せざるを得ないだろうか。
まあ、相手が望むなら手伝うのも吝かでは無い! くらいの気持ちで構えていこう。絶対、卑屈になんてならないんだからね!! 下手に出てつけ上がられるのは勘弁勘弁。やっちゃったぜ……。
「まあ、あの妖精……、疑似生命はうそを言えないから、本当のことだけをしゃべっていたと思うよ。いくらか、隠していたことはあると思うけど。例えば、クー達を無限回廊に閉じ込めていたとかね」
そうか、クー達の体を求めたのもその辺に理由があるのかな。それにしても、無限回廊ね。あの二カ月、俺達は無限ループ的な場所で彷徨っていたと言うことか。あのままだったら、死んでいたな。
「あのうねうねした装置で何をされるのじゃったか、今考えると恐ろしいのぅ。脳味噌を摘出されたりしたのじゃろうか。ふむ、モズタローも無事に合流できたことじゃし、無事なことを喜びあうべきじゃな。今回は危ない橋を渡ったのじゃ。最近、いつも危ない橋を渡っている気がするのぅ」
旅とはいくらかの危険は付き物だが、想像以上に危険な道を通って来たようだ。危険だと意識していなかったことが問題だな。うーん、危機的状況に陥っていてもそれが理解できていないことほど怖いものは無いな。
ところで、運担当、変なもの食べったって本当? 大丈夫? お腹壊したりしていない?
「プルルン」
なんだ、大丈夫なのか。運担当はベラベラしゃべくるキャラかと思わせるけど、結構無口な奴なのだ。大抵のことは震えるだけで返答にするから、何言っているのか全然わかんねぇや。俺が適当に推察しているだけだ。まあ、何か言う時も表面に文字が浮かぶだけでしゃべっている分けでは無いよ。
「ソコハワカレヨッ」
!?
「ちゅーん」「ちゅちゅーん」「ヴぁー、ダメダコリャ」
「はぁ、シュリとアテナはすまないが、私と一緒にオリンピックまで来てくれるか? うるさい連中に一応報告しておかなければ、後で余計に喧しいことになる」
二人は頷いてミュゼっちに追従していった。これから、権力者達に会うのだろう。もしかしたら、シュリさんの家族もいるのかもしれない。美しい家族愛となればいいのだけど、そんな雰囲気ではなかったな。
俺達だけになったところで、クーが俺に話しかけてきた。
「タロー、もし、タローを害しようとしてきたらどうするの?」
え? 戦うけど?
「それがミュゼってあの女や、シュリやアテナでも?」
うん。敵対すると言うのなら誰とでも戦うつもりだよ。俺だけじゃなくて、クーもグウェンちゃんも三羽スズメもいるからね。
「ぷるるるん」
ああ、運担当もいたね。俺の仲間を傷つけようとするなら誰とでも戦う覚悟がある。
「そっかそっか。仲間同士が戦うのを止める! とか言わないんだね。安心した~、タローが躊躇するんじゃないかと思ったよ。ここは敵地だと思った方がいい場所だしね」
「……そうじゃな~。少なくとも、命令系統に属さず、強い力を持つ私達は異分子いいところじゃから、濡れ衣、暗殺、何でもありじゃろうな。友誼を結んだものも多いわけではないのじゃ、距離を置くのが正解だと思うのじゃ」
非常時だと言うことで、鬱憤晴らしを俺達でされるかもしれないということだな。全ての責任をなすりつけられるかも知れないとは考えておこう。その時は、暴れるけど、それはもう暴れまくるけど。
万が一、魔法など反則技が出てくる可能性も無くは無いから、警戒をしておくのに越したことは無いだろう。リンさんという実例が存在したわけだしね。
それにしても、水が引かないな。完全に日が昇り、眼下の都市があったと思われる場所は完全に水没している。というか、このングラネェーク山以外は全て水没している様に見える。山の名前はングラネェーク山でいいのかな? そういえばミュゼっちがアバ山とか言っていたかな? あんまり聞いていなかった。
水が流れてきた方向を考えると、オスアナア大陸方向へとかなりの距離を進めば陸地が見えるのではないだろうか。これはさすがに異常だろう。
「あの優雅に泳いでる巨大魚が怪しいね。あいつからはすごい力を感じるよ。ドラゴンゾンビどころか、海蜘蛛より強いよ」
あのウナギか。クーもそう思うんだな。俺も怪しいと思う。海の魔物とは規格外の存在だからな。自分の周囲に水を引き付けていてもなんら不思議ではないな。
ちなみに、俺が今まで戦った魔物で一番強いのはぶっちぎりで海蜘蛛だ。
ドラゴンゾンビと海蜘蛛が戦えばドラゴンゾンビの攻撃など海蜘蛛には一切通用しなかっただろう。反対に海蜘蛛はドラゴンゾンビをズタズタできる。海蜘蛛の素材でズタズタにできたのだから間違いないだろう。その海蜘蛛を越えるかもしれない相手とは、正面からやり合うのは不可能だろうな。
次回、永久に美しく




