第九話 そのときメロスは激怒プンプン丸した
9.
俺は自分のステータスとスキルに激しく動揺していたようだ。そうだ、他人と比較すれば異常な結果かどうか判断できるはずだ。遅かった、みんなはオーク紙を食べて処分した後だった。食べられるらしい。
俺も食べてみたが、昔駄菓子屋にあった食べられる紙みたいな味がした。商品名を知っているかな、紙ニッキっていうんだよ。
ステータスとスキルは基本的には他人に秘匿するべきものだ。孤児院でも厳しく言い含められている。これらを教えることは自らの弱みを晒すことに等しい。俺が結果を聞いたところで誰も教えてはくれないだろう。
まあ、相手が子供だから、教えてくれる可能性もあるとは思う。しかし、俺は誰にも聞くことはしなかった。
万が一に、俺がみんなに嫌われていて、聞いた瞬間に言葉のナイフが俺の胸を抉ることを心配したわけではない。断じて違うよ。
やはり、ここは牛乳に相談するべきだろう。いつか以来の雑談タイムに臨むとしよう。
「なぁおばちゃん。俺嫌われてんのかな」
給食のおばちゃんに馴れ馴れしく声をかける。
「そうだよ」
うん、すごいばっさり。思った通りの素晴らしい返答だ。挫けずにもう少しおしゃべりを楽しもう。なぜか異世界に来てから他人と会話する機会が、某最終幻想三作目のフェニックスの尾くらい貴重になっている気がするし、このままではコミュニケーション障害を患いかねないものね。
どうして、この冷酷なBBAを話し相手に選んだかというと、理由は簡単。俺が食事している時は、このだだっ広い食堂に俺と!おばちゃん!しかいないからに他ならない。
なぜかって? ……どうも俺が匂うらしい。あ、違った。俺が臭うらしい。以前おばちゃんからいただいた毛皮は、今現在も俺の夜具として活躍しているよ。だからかな、みんな俺がいると食堂にはいって来たがらないんだって。
そんな分けで、食堂の利用時間に俺専用の時間ができたよ。いらない気遣いは迅速に行われるから困ったものだ。
朝は早くて、夜は遅い。つらい。今の気分は、友達百人できたけど、富士山の上に連れて行ってもらえなかった奴みたいだ。百人でぱっくんちょしたあまりが俺ってことだな。
だから、仕方なく。仕方なくだよ? おばちゃんと和やかにお話でもして、食事に色取りを添えたいと思っているのだ。今日のご飯はゴブ肉のいり鳥風だ。ポトフともいう。調味料が酢と塩しか使われてないから似たようなものだよね。イロドリとイリドリって似てるよね。似てない?うふふ……。
「でも、神様たちも俺のステータスにひどいことしなくてもいいと思わない?」
同意を求めるように語りかける。
「アホな理由で、アホな祈りを、アホが捧げたんだろ。天罰で砕け散ればよかったのにな」
失敬な、なんて失礼なお嬢さんだ。サトリ妖怪なの? あたし、怖いわ。BBA溶解しろ。仮に俺が砕け散るならば、その砕けた欠片で貴様を必ず貫いてやるわ。
「まあ、でも何年かがんばってお勤めすれば、神様たちだってきっと許してくれるさ。この世界で生まれた全ての命を、温かく見守ってくださる方々だからね」
おふ、なんと慰めてくれているようだ。デレ期が到来したのかな。だがしかし、俺が異世界人の記憶を持っていることで、おめぇ魂が異世界産だから! おめぇに向ける目ねぇから! とか神様たちに言われないだろうか。
スキル『異界の農業知識』を見る限り、完全にばれているよね。ステータスとスキルに対する仕打ちを考えるとありえそうだ。オラ、ワックワクしてきだぞ。
ていうか、おばちゃんさ、何年かがんばってお勤めってどういうこと? 牢獄か鉱山にぶち込まれるのかな? 犯罪してないよ?
ちなみに、犯罪奴隷という制度が存在し、ミズーリの北西部に存在する山岳地帯で、過酷な労働に従事させられているよ。やっぱり、おばちゃんはこうじゃなくちゃね。優しいおばちゃんなんて幻だよ。イザナミだよ。
よっし、調子も戻ったところで、話題を変えてお話していこうじゃないのさ。
「ところで、おばちゃんさ。BBAに巨乳がついてるって誰得だと思う?」
殺気が膨れ上がる。どうやら話題選びを間違ったようだ。殺されるっ!!!!
そう感じるが早いか否か、俺は床に転がる。すばらしい反応だ。ほんの数瞬遅れて、パン!!! という紙鉄砲を打ち鳴らしたような音が上がる。
俺の頭があった位置には突き出されたおばちゃんの拳が!!! もしかして、空気の壁を破ったの?
大丈夫、おばちゃんはテーブル越しだ。逃げ切れる。うおぉぉぉっ!!! 食堂の床を滑るように走り抜ける。ドキャン!! 木が折れるような音がする。俺のすぐ傍に、イスが叩きつけられた音だ。大丈夫、ダイジョブ、オレハニゲキレル。
一か八か窓から飛び出そうとする。唐突に浮遊感。床が遠い、なんで?
どうやら、おばちゃんの尋常ではない反応により足を掴まれたみたいです。私はこれから食堂の床と接吻を交わすことになるでしょう。死にたくない、死にたくなーい!!
パグにめちゃくちゃ怒られた。一緒におばちゃんも怒られていた。イスと机の破壊、そして床の陥没はさすがにやりすぎだったらしい。
そうそう、スキルの中でまともなものがあったよ。
『上級魔力循環』だ。これは、かなり有用なスキルみたいだ。
自身の魔力を用いて、肉体の一部又は全身を瞬時に強化することができる者に表示されるスキルらしい。俺の命を繋いだスキルだ。いや、おばちゃんも殺す気はなかったと思う。信じている。信じさせてくださいお願いします。
普段から思いつくことは大体実行しているが、自分は上級魔力循環ができることを意識して、いろいろやってみよう。
循環させることだけに意識を向け、ひたすら循環させる。いつもは暖を取ることばかり考えていたしね。
そうすると、魔力の循環は、自分自身だけでなく武器や服など身につけているものにまで、影響を与えることができるのがわかった。その結果、なんとオリジナル魔術のようなものが実現できた。名付けて『レーゲンシルム』だ。
効果が気になるかい? なんと、なんと、大雨に打たれても水を弾くことで濡れないという効果だ。地味だ。でも有用だ。服も濡れないから雨の日でも農作業が捗るね。雨の日は休みだけど。
ちなみに『レーゲンシルム』はドイツ語で傘だ。効果はレインコートみたいなものだけど、かっこいいからこれにした。
『ミラクル★胃袋』も有用そうなスキルだけど、情報がない。胃袋を今以上に酷使するとなると、さすがに躊躇してしまう。それに、なんだよこの★はよぉ。おっさんが好きな、おっさん歌手を思い出しちゃうだろ。
『冷気耐性:中』は喧嘩を売っている。寒いのを我慢できるだけだ。
我慢できるのと、寒いのが平気だというのには大きな隔たりがあると思うよ。くたばれ。まあ、そのおかげか負の効果は存在しないみたいだ。我慢しているだけだからね。よかったね。くたばっちまえ。
来年のチェックでは準備中扱いだったスキルも確認できるのだろうか。楽しみ半分、恐ろしさ半分といったところだろうか。いや、永遠の準備中かもしれないけどさ。
次回、冬を乗り越えたよ。やったね、おっさん。
春は別れの季節、孤児院から卒院していく子たちも大勢います。俺も孤児院の最高学年(齢?)としてがんばろうかな。
そんな不埒な考えを読まれたのか、ついに初戦闘の機会が訪れる。
今回おばちゃんと戦ったみたいになっていたけど、蹂躙されただけだよ。