第五十五話 銃後の守りなんて夢のまた夢
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先ほどから断続的に地鳴りが続いている。すごいなぁ。ここからでも土煙が見える。陸で起こる津波とは中々大胆な物だ。助けてください助けてくださーい!
どうしようかな~、逃げようかな~、まあ、丸太も持ったしやる気もビンビンだから一丁やるかぁ!! 皆はどう?丸太は、丸太は持ったの? 大丈夫? 丸太がないと大変だよ!
「丸太を持って魔物の大軍を迎え撃つのはお前ぐらいだ! 普通に武器使うぞ!」
キーちゃんの突っ込みは冴えわたっているなぁ。丸太なら普通の武器よりも丈夫に使えそうじゃない? そこら辺の柵に使われているから、補充も簡単だし。
アキちゃんは南区の威勢が良い連中を集めて来てくれた。今はマツオさんと顔を合わせている。どうやら、マツオさんに対して信の厚い者達が集まったらしい。
「マツアキよぉ……」
「マツオの親父……てっ、その格好なんだぁ!? あんた真面目にやる気あんのか?! ええい、今は魔物の撃退が先だな。親父、あんたとは後で話してぇ」
「そうかい、それじゃあ生き残らねぇとな。……カドマツはどうしたぁ」
「わかんねぇ、カドはゼンリに言われてあてとは別行動してたから……おそらく、ゼンリの側にいると思う、あてに対する保険みたいなもんさ」
などと、親子の会話が繰り広げられていた。お茶でも飲んでのんびりしたいなぁ~。
「何だ~、簡単に和解しちゃったんだ~、血で血を洗う争いにならなくて残念だなぁ~。殺し合いで殺し愛のほうが素敵なのに~」
ナクアさん……どうしてこうなってしまったのだろうか、これから血ならいくらでも見られるから大丈夫大丈夫。
周囲には戦える者達が集まって来ている。ゼンリとその一派はいないようだ。糞野郎共だな。もう、絶対に許さねぇからなぁ~。
しかし、絶対的に数が少ない、斥候が数人でたことで相手が十万近くの大群だとわかったためか、逃げを打つ連中が出ているのだろう。例年が数百から千程度の魔物しかやってこないらしいので、今回は大規模だ。だから、責めることはできないな、命は投げ捨てるものではない、特に自分のなら尚更だ。都市を捨てて未来があるのかはわからないがね。
それにしても大体十万か、マッドスキッパーの人口はどれくらいいるのだろうか。もしかして、十万はいないかもしれないな~。大群だこと。
最終的に十万対千とは中々厳しいものがあるね。大勢が遅参してくれることを信じたいが、そんなに甘くはないだろう。
「……都市内が冷静に動いてくれるのを期待するで候」
都市内からの援軍は送られてきていないようだ。それ相応の戦力を保有しているはずなのだが、籠城防衛戦を選んだのだろうか。数が多過ぎるから野戦での殲滅は無理と考えた上での作戦であれば良いのだが。
「そうね、この状況で足の引き合いとか、そこまでバカだと救いようがないわね。……そこまでのバカかも知れないことが恐ろしいけど、あのクーとグウェンちゃんがどれだけがんばってくれるかに懸っているわね」
グウェンちゃんとクーが上手い事してくれたら、俺達も一戦交えたのちに都市内での防衛戦に加えてもらいたいものだ。今は非戦闘員避難のためにも誰かが立ち向かい、少しでも時間を稼がなくてはならない。まあ、都市内に武器を持った連中を入れてくれるかわからないけどね。
人が壁をすることが前提の外周街だ、大した防壁はない。丸太作りの柵とちょっとした門があるだけだ。
北区や南区への魔物の流入を防ぐことはできないだろうから、それぞれの区に残った者達と戦闘が起こることは間違いないだろう、大人しく都市内へと避難してくれていれば良いのだが、自らの資産を投げ打って逃げることに戸惑いを覚える人は少なくないだろうな。
「それでは、目に着く魔物をドンドン狩るでござるよ! にんにん」
あの波を受け耐えきれるかは不明だがやるしかないか。半数は外周街の丸太柵防壁に守備隊と残し、それ以外の物は突撃する算段が付いている。どれだけ意味があるのは知らないが、少しでも数を減らし、勢いを削ぐために行く。
「よし、各員死なないでよ! 突撃するわ!!」
委員長の号令が響き渡り、戦意溢れる物たちは特攻を開始した。戦い、いや、戦争が始まった。
血が飛ぶ、肉体が弾ける、臓物がこぼれる、見渡す限りに魔物魔物魔物……潰しても潰しても涌いて来る。初めにぶつかった連中はゴブリンやオークモドキだった。
しかし、普段ぶち転がす連中と何かが違う、目だろうか?僅かに目が濁っている気がする。こちらを食ってやろうと言う食欲が感じられず、ただただ殺すために雪崩れ込んでくる。凄まじいまでの物量だ。
俺は使っていた丸太がボロボロになると目の前のオークの集団に投げつけた。丸太が弾け肉も弾ける。そして、近くにいたゴブリンの首を掴み、振り回しながら他の魔物を薙ぎ払っていく。
「ぜにぜに~!!!!」
うるせぇ! この豚野郎が! ズタボロになった元ゴブリンを騒がしいオークへと叩きつけ、こんどはオークの足を掴み大槌の如く使い始める。そして、奥へ奥へと突き進んでいく。
「シャーーー!」
ぐっ、こいつは砂蜥蜴だ。四足歩行で普通車ほどの大きさがあるガラパゴスオオトカゲのような姿を持つ砂地に生息する魔物だ。どこから来たんだ、こいつら!東にこいつらの生息地などあっただろうか。確か毒の牙を持っている、俺が優先的に相手をするべきだろう。
ぬおりゃ!!
オークを叩きつけたが、オークが砕け散ってしまった。残念、強度が足りない!
「シャ! シャー! シャア!」
動きが速いが、海蜘蛛ほどではない。噛みつき攻撃に注意しよう、俺の食い千切ることはできなくても捕まって振り回されるのはごめんだ。
「シャーアー!!!」
胴体を回転させ、尻尾で薙ぎ払ってきた。
「借りるぞ!」
俺は『古王級魔力循環』を全開にする。周りの魔物を薙ぎ払いながら向かってくる尻尾を受け止めた。やったぜ、新しい武器を手に入れたぞ!うんうん、すばらしい手触りに何とも丈夫そうな皮だ、今度の武器は長持ちしてくれそうだ。ところで、コレは鈍器なのかしら?武器扱いのスキルは活かせているのだろうか。
ぬおりゃあああああ!!!!
「「ブギョラバシャァアアア!!!」」
周囲の砂蜥蜴を砂蜥蜴で叩き潰していく、うぅん! サイコーじゃん! 砂蜥蜴が砂蜥蜴で潰せない道理は存在しないよなぁ~。気分上々だ。トカゲの割には尻尾が千切れないのも評価したいね。
砂蜥蜴をある程度片付けると、奥からはオーガがやってきた。オーガか、ミズーリで何度か戦ったことがあったが、二本足で立つ牛の様な外見をしており、大きく発達した顎が特徴だろうか。今俺の目の前に居る個体は斧を手にして、皮鎧を身につけている。
「邪魔なんだよ!!!!」
思いっきり、砂蜥蜴を叩きつけてやると、避けることもできずに難なく潰されていくオーガ達。くそっ、多すぎる。ミズーリやク・リトゥ・リトゥでも闘い続けることは多々あったが、今回の数は異常だ。一度にこれだけの数が現れるとなると、持久力が持つだろうか。俺は持ったとしても、皆は……。
どれだけ殺しても終わりが見えない。潰す潰す潰す! 少しでも数を減らさなければ!
立ち止れば囲まれる、俺は前へ前へと進んでいくが周囲の者はそうはいかない。立ち止り魔物の波に飲み込まれていく者達、砂蜥蜴に食われる者、逃げようとしてゴブリンに組み付かれ倒され、そのまま潰されていく者。人の数は少なからず減って行く、魔物の数は……減った気がしない。
ナクアさんを中心にしたクームと委員長のトリオや、カロちゃんとキーちゃんのコンビは安定して戦えている。マツオさんとアキちゃん達はすでに下がり始めている、無事に防壁まで引きつけながら下がれると良いのだけれど。それ以外の物たちは、まばらに散ってしまいどこにいるのか、生きているのすら定かでは無くなっているな。
おっさん? おっさんはアレだね、無双してるよ! 無双乱舞だよ!こ んな血と臓物と排泄物に塗れた無双乱舞やだ! おっさん、やだっ! 久しぶりの長期戦でたのすぃー、いや、長期戦とは違うのかな? 一人で戦場ど真ん中たのすぃー、でいいか。数を数えるのも面倒だ、寄らば潰す、寄らなくても潰す!
「あはは~この数! 奥に行くと質も上がりそう~! ちょーたのしぃーよぅ~!! あはははは、ズク、じゃないモズタローくんもすっごく楽しそうだよぉ~。クーム、カタリアさん、さっさと追いつこうね!!」
『感覚魔術』で自身の強化と、相手の阻害をしているみたいだ。飛んでいる魔物がボトボト落ちているのが見える。すごい戦い方をするなぁ~。
「ひょえ~、ナクアは元気かも知れぬでござるが、これは尋常ではないでござるよ! いかん、いかん、あぶないあぶないでござる、にんにん」
余裕があるのは良いことだな。ナクアさんは動けなくなるまで突っ込むだろうから、クームがスタミナ管理の役割をしていそうだな。最悪、ナクアさんを担いで逃げ切るだけの余裕がありそうだな。
「何だかんだであなたも余裕そうじゃないのよ、私は愛用の槍が二本とも折れたわよ! このオーガ! さっさとその鉈渡しなさい!! そして、死ねぇい!!」
委員長は少し不安だったけど、図太くなったものだ。武器も槍にこだわらず何でもある程度は使えるようになっているみたいだし、ナクアさんが危険な連中を優先的に排除していることを差し置いても、次々に仕留めているな。
「モズタロー、強くなってやがんなぁー。ちっくしょうが、この半年、別にだらけていた分けじゃなかったが、こうまで差ができちまってると、さすがにむかつくぜー。さっさと、くたばりやがれ!」
砂蜥蜴をバラバラにしながら、先を目指すキーちゃん。
「……某らも、強くなっているで候。……しかし、モズ殿はどのような修練を積んできたのやら、あれほどの膂力があろうとな」
触手剣を使って、……まだ使っていたの!? 気に入ったんだ!! 次々とヒクイドリの首を刎ねて行くカロちゃん。空を駆けている。いいなぁ、そのスキル何? 俺も欲しい。それに俺がすごいのは膂力なの? もっとあるでしょ、・・・ないか、そうだね。
先ほどまで、頂点に達していた太陽がいくらか傾くまで闘い続けた。今はおやつの時間くらいだろうか。
ワイバーンの群、泥造形の大軍、ヒクイドリの集団、毛水牛の一団、などなどを殴り捨て潰し捨て打ち捨て使い捨てながらがむしゃらに前進したところ、魔物の大軍から抜けてしまった。てっきり大物がいるのかと思ったが、姿を見かけない。それに、黒石魔物も見ていないな。魔物達は指揮など無い状態で大きく横にも縦にも広がっての突撃だったのだ、すれ違いになっていることは十分考えられる。少し休憩するか。
ふぅ、東区から大分離れてしまったな。ボス級は突撃してきた魔物の中に混じっていたのだろうか、それとも端から存在しないのか。いや、例年のことを考えると先導者がいたと考えた方が自然だろうな。
後ろを見渡すと、外周街東区はとっくに壊滅している。そして、都市の防壁を挟んでの戦闘へと場所が移ったようだ。
南区と北区へも魔物の流入が始まっており、被害は拡大しているようだ。東区が存在していた場所でも戦闘が起こっているようだな。生き残りがいるのだろう。
どうしようかな、俺以外抜けてきた者はいないようだ。皆はどうしているのやら。誰を探して援護に向かおうかな、普通に考えたら黒石魔物の位置をカロちゃんに探ってもらうべきなのだろうけど、カドちゃんも気になる。南区へ走って行くのもありだな。
俺は南区の方向へ魔物を素手で引き裂きながら急ぐことにした。
…………あたしはいつのまにか、魔物に囲まれていた。
オークにオーガだ、どれだけの数がいるのだろうか、これだけ魔物が揃うと壮観な眺めになっている気がする。そんなことを考えていた。
「こいつぁ、呆けてやがらぁな。もともとがこんな奴だから、しかたぁねぇなぁ~、マツアキ! イッパツ締めてこいやぁ!!」
「うっす、諒解だ、親父! カドっ!! 呆けんじゃねぇよ!!! おらぁ!!」
魔物の壁が崩れたと思うと、いきなり殴られた。暖かい男と鏡がいた。
あては知っていたんだ。カドに自分がなくて、全部どうでもいいと思ってるのをさ。でもさ、カドと長いこと一緒にやって来てさ、それはカドの本質とは違うってのがわかったんだよ。
これはさすがに親父だって気づいちゃいないさ、親父はカドが空っぽだといまだに思ってるさ。あれ?待てよ・・・うーん、どうかな~、もしかしたら親父も気づいていたかな。まあ、今は置いておこうか。
あてのことを自分の生活用品くらいに思っていても、あてにとっちゃカドは大事な奴なのさ。自分では演じてると思っていた自分がとっくにカドの本質になっちまってるんだよ。
カド、自分ってのはな、意識するものじゃないよ。誰かが見てくれて始めて生まれるんだよ。
だからさ、カド、しっかりしろや! 生き残っぞ!!
南区についた俺が見たのは、何か三人で抱き合っているマツオさん達だった。無事を喜んでいるのだろうか。
あんな年端もいかない少女達とハグするスキンヘッドで眉なし親父はぶっ飛ばしても良いのだろうか。罪にならないよね?
次回、戦闘回が続きます。




