第三話 ホビロンはトラウマ
3.
絶好の農作業日和だ。異世界生活3日目にして、ようやく一歩を踏み出そうとしている。
目の前には穿り返した土がある。その土の中に蠢く物を見つけた。大きなぁ。見た目はカミキリムシの幼虫に似ているな。知ってるカミキリムシ?植物の根っこを切るやっかいなやつさ。ていうかでかいなぁこれ、まあいっか、さぁ、逝ってみよう、ヤッてみよう。
パクッ、
「むーしゃ、むーしゃ」
土の味がする……
ふむ、まずいよ、まずい。妙にとろっとしているし、土つきだからじゃりじゃりするし、臭みというか痛みもあるし。しかしだ、これはねぇ。うん。もしかしなくてもだけど、ゴブリン肉より食えるね。幼虫。うん。これはもう絶対『味覚鈍磨』ゲットしているじゃないですかヤダ~。
俺がいったい何をしているかというと、それはもちろんスキルを狙っての行動だ。異世界チートしたいけど今のとこ当てが無いんだもの。努力するしかないよね。
ちなみに、狙っているスキルは『丈夫な胃袋』だ。これは読んで字のごとく胃袋が他人より丈夫だよってことだ。
前世で海外旅行をしたときに一番困ったことは食べなれないものを食べたときには、量にもよるが消化不良を起こしやすいってことだ。魔物が跋扈するこの世界で、のんびり野糞を何度でも。という分けには行かないだろうし、必須だと思ったのだ。
スキル本によると、食べなれないものをまめに摂取し続けることで『丈夫な胃袋』は得ることができるらしい。孤児の立場だ、様々な品目を摂取し続けることは難しいだろう。なので、虫!雑草!土!?なんかを口に入れることで訓練になるのではないかと思い至った。
ふと我に帰ってみると、周りの孤児仲間から
「まじか……ヒソヒソ」
「ついに頭が……ヒソヒソ」
「なんかうまそうじゃね?」
などの心無い言葉が容赦なくガラスハートを引っ掻いてくる。もう許さねぇぞ~。まあ、いいや。栄養不足?の体に染み渡るビタミン、ミネラル、虫エキス。
最高にいい気分になってきたぞ。どんどん行こうか。
「ガーツ、ガーツ、ムーシャムーシャ、もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ……」
気のせいか、監視の大人たちまで引いている気がするぞ。でも、作業速度を全く落とさないためか何も言ってはこない。
うん、今日はいい日だ、何気に昼飯が無いって生活はつらいと思っていたところだ。これからは孤児院の裏の藪や、農作業中の間食などでしっかり食べていこう。
「おごごごごごごごごごごごごgggggggggg……」
その日、深夜の共用トイレから不審な声が響き渡った。犯人は言うまでもなく俺だ。
でも、あたし、へこたれへんっ!!
突然だが季節の話をしよう、現在は7月にあたるらしい。なんとオスアナア大陸では日本と同じように四季があるらしい。といっても、ミズーリではほとんどが夏にあたるようだ。冬は1、2月の間だけだし、春と秋はあってないようなものらしい。
そんなわけで、今は夏の盛りだ。冷蔵保管(魔法って万能だなぁ)といったものは貴族くらいしか行っていないらしく、食品の衛生状態があまりよくないらしい。したがって、虫や土を食っている俺のほかにも腹痛を起こした連中がでてきた。孤児院の食事担当をしているおばさん曰く、
「体内魔力循環による健康維持がへたくそなガキども」らしい。
うむ、ファ○クだね。今度、虫と雑草の土ソース和えでもご馳走してあげたい。
というか、魔法に関する本で魔力を体内循環させることで肉体活性を起こすことは、生物ならすべからく行うことができるらしい。よし、これも練習内容に入れていこう。
今日も今日とて雑多な食事を腹に詰め込み、食べ物か怪しいものまで取り込んでいこう。
魔力を体内循環させるのはなんかできた・・・・気がする。気がしない?
今日は魔術の練習というか、そんな何かをしてみようと思う。やはり、異世界転生したからには魔法にあこがれるものがある。
ちなみに魔法とは魔力に関する様々法則のことをさしているみたいだ。魔術というものを自身の魔力を使って、自然界に存在する魔素に働きかけて現象を引き起こすことを言うらしい。
魔力はみんなもっているけど、魔術を使用する素養は5人に1人くらいしかないらしい。とりあえず、本に書いてあった方法を試してみることにする。
えっと、魔力を循環させて、発動させたい場所に集中して、詠唱は特にいらないけれど、イメージをしやすい方がいいと、お、行けそうじゃない?おし、よっしゃいくぞ!
「土よ!」
でない。なんで最初に土かって?火が出ると怖いじゃない。
「水よ!」
でない。
「火よ!」
でにゃい。
「か、風!」
でませんね。基本属性の4つはダメみたいですね。
はは~ん、なるほど、ここは異世界転生チートである特殊属性に決まっているね。いや、俺が今決めた。
「割れろ次元!」、「溶岩吹き上げろ!」、「凍れ世界!」、「なし汁プシャー!!」……
素養なかったです。思い出しました。今年の初めのステータス診断に魔術の素養なかったわ。というか、あったら覚えてるよね。