終章1 帰還
「……ここは?」
向こうの世界に行った時と同じように果てしないほどの落下が続いているうちに、勇斗はあの時とは違って途中で気を失ってしまった。
気がついたときには、落下も終わっとり、こうして地面に横たわっていたのであった。
「服も……大丈夫だよな」
向こうの世界にたどり着いたときにパンツ一丁になったことを思い出して、勇斗は自分の全身を確認する。
服装は向こうの世界にたどり着いたときにサラから受け取ったものではなく、こっちの世界から旅立った時と同じものになっていた。
とりあえず、パンツ一丁にならなかったことに、勇斗は安堵の息を漏らす。
体を起こし、辺りを見渡すと、そこには見慣れた景色が広がっていた。
「そうか……、俺は戻ってきたのか……」
背の高い木々が立ち並び、周囲には同じような風景が続いている。ここはまさしく、勇斗があの日に立ち入った森の入り口だった。
どうやら現在は昼ごろらしく、木々の葉っぱの影を縫って、太陽の光が勇斗に降り注でいた。
「あの世界での出来事すべてが、夢だった……。なんてオチはないよな」
何か確かめる方法はないだろうか、と考えて、勇斗は右肩をぐるぐると回してみることにする。
「痛くない……な」
二週間前、この森に入った時、右肩の傷の痛みは癒えていなかった。
しかし、この傷はあの世界で、サラの魔法の力によって完治したものなので、この傷が癒えているということは、つまり向こうの世界を漂流していたことが夢ではなかったことの証明になり得るだろう。
「ま、いつまでもここに居ても仕方ないし、とりあえず帰るか」
まったく人の気配が感じないその場所を後にして、勇斗は下宿先に帰ったのだった。
ロッドやリヒトに文句を言えないくらいに何もない自室に戻ると、最初に目に入ったのは、入口に立てかけられている自分のバッドだった。
バットの色はよくある銀色で、色はホープといっしょだが、もちろんまったくの別物であり、このバットはしゃべったりすることはない。
「よっ、久しぶりに帰ってきたぜ」
向こうにいたときの調子でバットに話しかけてみるが、予想通りバッドからの返答はない。
「久しぶりに実家にでも帰ろうかな」
伸びをして、窓を開けると、湿った生暖かい風が部屋の中に入ってくる。本来なら不快に感じられるその空気も、今の勇斗には妙に心地よく感じられた。