4-18 教会の神父とシスター
すっかりボロボロの内装になってしまった礼拝堂の中で、リヒトはロッドを羽交い絞めにし、ロッドの首筋に短剣の切っ先を近づけていた。
教会の周りにも二桁近くに及ぶトロルが現れていたが、そのすべてをリヒト一人でやっつけ、ロッドとの戦いも制した。
礼拝堂の象徴となっていた大きな十字架は、壁からずり落ちて地面に倒れており、等間隔で並んでいた木製の椅子も、破片となりそのあたりに散らばっている有様だった。
その惨状がこの場で起きた戦闘の激しさを如実に物語っている。
「初めて人を裁くときは、この短剣でと決めていました」
額からは血を垂れ流し、口の中は血の味で満たされてている。が、苦痛に顔を歪めることもなく、リヒトは淡々と告げる。
「もうこの辺りには魔物の気配を感じなくなりました。この勝負、完全にあなたの負けです」
「…………」
短剣の切っ先を、ロッドへとさらに近づけるが、ロッドはそれに反応することもなく、リヒトにもたれかかったまま、虚ろな瞳で虚空を見つめている。
「よろしければ教えていただけませんか? あなたがリールさんという魔族を慕うことになった理由を」
リール、というワードに反応したのか、ようやくロッドは反応らしい反応を見せて、背後のリヒトを振り返った。
それっきり下を向いてしまったロッドだが、おもむろにぽつりと自身の生い立ちを話し始めた。
「……このロッドという名前だって、実際は私の本当の名前ではありません。私が親からもらった名前はクリスいいます。けれど、あのころの日々と決別するために、私はクリスという名を捨てて、ロッドと名乗っているのです」
「…………」
「私の家は、元々貴族の家系でした。お金持ちの家で生まれた私は、何一つ不自由することなく、親の愛情を目一杯注がれて育ちました。けれど、幸せというのは本当に唐突に呆気なく崩れ去るものなんです。あれは、私が七歳になるころでしょうか……、私の両親は強盗に殺されました。両親は敵を作るような性格ではなかったので、単純にお金目当ての盗賊に、本当にたまたま両親が狙われたのです。そして両親を失った私は、そのまま強盗に誘拐され、ノービス家という金持ちの家に売られました。それが、両親を失うよりも辛い、地獄の始まりだったのです」
リヒトに聞かせるというよりも、自分の日記を音読するように、彼女は自分に聞かせるように彼女自身の過去を語り始めた。