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迷い人  作者: ぴえ~る
第4章 帰るところ
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4-13 幼なじみのコンビプレイ

 その頃、リンカとバジルは、いきなり目の前に現れたトロルに苦戦を強いられていた。

「こいつ強いぞ! 昨日の奴よりもやばい!」

 大剣を振り回しながら、バジルが背中越しにリンカへと叫んだ。

 ふたりが朝早く河原にやってきて話をしていた時のことだった。

 何かあった時、またはこれから何かを成す時は河原に来て、水が流れる様を眺める、というのは、パラニアにいた時からふたりの間で決まっていることだった。

 今日の目的は、今後の魔物の襲撃に備えての決起集会をするということだ。決起集会を行おうとした瞬間に、目の前の空間が歪み、トロルが現れたというわけだ。

「そんなんは、言われなくてもわかってんの! 私だって、昨日戦ってたんだから!」

 そんな言葉を交わしているうちにも、トロルが二人が立っていた場所目がけて大きなハンマーを振り下ろしてきた。

 ふたりは俊敏な動作でその攻撃をかわすが、ハンマーが振り下ろされた地面を見てゾッとした。

 ハンマーによって地面は抉られてしまい、そこにあった草や砂利は跡形もなく消え去ってしまった。地面が変形したせいで、川の流れも少し歪に変化してしまっている。

「リンカ大丈夫だ。おまえは俺が守るからな。こう見えても、俺はいつも鍛えてんだ」

 リンカは、図体ばかりでかくなってまだまだ頼りないと思っていた幼馴染が、実は立派に成長していたことを、ここ数日で実感させられた。

 頼もしくなった幼馴染に、頼もしい言葉をかけられてしまい、リンカの顔が自然と紅潮する。

「う、うるさいわよ。アンタなんかに守られなくても私ひとりでなんとかできるっての! それにどっからどう見ても、鍛えているようにしか見えないっての!」

 自分の顔に帯びた熱を誤魔化すように、リンカは鋭い言葉をぶつける。

 ふたりが痴話喧嘩している間にも、トロルの容赦ない攻撃は続く。

 一撃食らったらゲームオーバと思われるほどの一撃が先ほどから続いているものの、巨体なトロルはその身体に相応しいほどに動きも鈍重だった。おかげで、攻撃を避ける度に寿命が縮むような思いに駆られるも、その一撃を避けられないということはなかった。

「よし、バジル。コンビネーション作戦Aで行こう!」

 お互いに背中を合わせる状態になり、リンカが背後のバジルに顔だけ向けて、小声で囁いた。

「な、なんだよ。コンビネーション作戦って?」

 打ち合わせなしの唐突なリンカの発言に、バジルは表情を困惑に染めているが、そんなことはお構いなしにリンカは話を進める。

「いいから! アンタと勇斗君で連携攻撃ができて、私とアンタでできないわけないでしょう? いいから行きなさい! 後は私がフォローするから」

 言うと、バジルは諦めたようにため息をついたが、それでもどこか楽しそうに口元を綻ばせた。

「ああ、わかった。俺たちのコンビネーションを見せてやろう」

 バジルは両手で大剣を握りしめて、それを振り上げながらトロルへと迫った。向かってくるバジルに対して、トロルが大きなハンマーを振り下ろすも、バジルは横に飛んでそれをかわす。

「今回はバジルを立ててあげるわ。いろいろ迷惑かけちゃったしね」

 リンカは、幼馴染に聞こえないような小さな声で呟くと、両手で火の玉を作って、それをバジルの大剣目がけて飛ばした。

 バジルが大剣の間合いに入ると同時に、大剣とリンカが飛ばした火の玉がぶつかり合い、バジルの大剣に灼熱の炎がまとわりつく。

「うおおおおおおおおおおおおおーーーーーー!!!!!!!!!!」

 バジルの力とリンカの力。二つの力が合わさった大剣を、バジルはトロルの脳天目がけてたたき付けてやった。

「うごっ――?」

 灼熱の炎に包まれ、身体が真っ二つになったトロルは、何が起こったかわからないといった表情で、そのまま灰となって消失した。

「かっこよかったわよ。バジル」

「…………」

 リンカは少し大きめの声で言ったつもりだったが、その声も幼馴染には届かなかったようだった。

「ねえ、バジル聞いてんの?」

「…………」

 確かに本当に聞かれていたら恥ずかしいことこの上ないが、リンカとしては勇気を振り絞って掛けた言葉だっただけに、それを無視されたとなると、やはりカチンとくるものがある。

 それでもバジルはリンカの言葉を無視して、バジルは一点を見つめていた。何か見えるのか、と釣られてリンカもそちらを見ると、バジルが何に気を取られているのかが簡単に理解できた。

 堤防の向こう側からトロル数匹がこちらに向かって進軍している。

「あはは、なーに……。あんなやつら、私たちにかかれば、簡単に捻ってやるっての……」

 冷や汗を流しながらリンカが呟くと、バジルがこちらを見て小さく頷いた。

 気心知れた幼なじみの顔を見ると、自分が口にした無理難題ですら、容易く出来てしまうような気がするから不思議なものだ、とリンカは思った。


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