4-11 勇斗の強さ
勇斗は今までにないくらい体が軽くなり、それに伴って、全身を支配していた痛みが少し和らぐのを感じた。
「ホープ、サンキュな。これで戦える」
右手のホープにしか聞こえないような声量で呟いて、勇斗は口元を吊り上げて相手を睨みつける。
一拍置いたのち、勇斗は今までと比べ物にならないほどのスピードで一気に相手に詰め寄り、右手のバットを振り下ろす。
勇斗が満身創痍だと完全に油断しきっていたリールは、勇斗のスピードに躱すことを諦め、両手をクロスさせて勇斗の一撃を受けた。
リールは衝撃で数歩分退くと、クロスした手の下から、どこか楽しそうにニヤリと笑って見せた。
「くくっ、やっとそれらしくなってきたな。でも、これだけじゃあ、まだ足りない。だってよ、勝ちが決まっている勝負ほどつまらないものはないだろ。なあ勇斗、今のおまえの強さは、所詮エスクリッドに力を与えてもらっているものにすぎない。今度は、おまえの本当の強さを見せてみろ。
『ナイトメアエクスキューション!』」
リールが勇斗に向かって手をかざすと、勇斗の周囲を黒い靄が包み始めた。
勇斗は黒い霧に尋常ならざるものを感じ、すぐさまその場から離脱しようとした。が、あっという間に、勇斗の周囲が黒い霧に完全に覆われてしまった。
「勇斗、これは駄目ッ! 気をつけて!」
霧から離脱しようと、勇斗は懸命にもがきながらバットを滅茶苦茶に振り回すが、霧は濃さを増すばかりでいっこうに晴れる気配を見せない。
「なんだっ! くそっ!」
吐き捨てるように呟くも、その言葉は霧に飲み込まれる。
「いーい? 勇斗、よく聞きなさい。強い意志を持って。絶対に負けないで」
「…………」
返事をしようとした勇斗はだったが、いつの間にか声が出なくなっていた。
やがて瞼が重くなっていき、勇斗の意識がどんどん薄れていく。
「ククク、いい夢を見ろよ。それは、おまえが望んでる夢なんだぜ。『迷い人』よ」
リールの言葉が脳みそに届いた瞬間、勇斗の意識は闇の中へと消えた。