4-10 力を合わせて
気合を入れなおした勇斗は五回攻撃を仕掛けたが、その攻撃は五回躱されて、さらに勇斗は五回投げ飛ばされて地面を転がった。
ホープは、相棒である勇斗の無残な姿をただ眺めていることしかできなかった。
自分の正体が元魔族であるということが勇斗にばれてしまったホープは、気が動転してしまっていた。
ホープの正体を知った勇斗が、ホープに対してどのように思ったのか、ホープには察することができないが、嫌悪の感情を持たれたのは間違いないだろう。
リールという具体例を見てわかるとおり、魔族というのは人間と敵対関係にある。実際にホープは魔族だったころ、他の魔族たちと同様に数えきれないほどの人間をこの手で殺めた。そんな自分が勇斗に認められる資格はない。
そして何より、人間である勇斗は、元魔族のホープと交わることなかったはずなのだ。
ホープがうだうだと考えている間にも、勇斗がふたたび地面を転がり、体中に新しい痣を刻み込んでいる。
そんな様子の勇斗を見て、リールは勇斗を挑発するような言葉を並べながら、村にトロルを送り込む。村に送り込まれたトロルの数は二桁になっていた。
(アタシがなんとかしないと……)
これまで勇斗は何度か魔物との戦闘を行ってきたが、戦いがまったくの素人である勇斗が魔物相手に引けを取らずに立ち向かえたのはひとえにホープのおかげである。ホープがバットという媒介を通して、持ち手である勇斗に力を分け与えていたのだ。そのおかげ戦闘中において、勇斗の戦闘能力が飛躍的に向上していた。
しかし今日に限っては、ホープの心がかき乱されているため、持ち手である勇斗との調和が上手くいかず、勇斗に力を与えられずにいる。
(なんで、上手くいかないのよっ!!)
焦れば焦るほど、ホープの心はさらにかき乱され、勇斗との調和は上手くいかない。
それでも、ホープの力の恩恵をまともに受けられない勇斗はリールへと向かっていくが、呆気なく返り討ちに遭い、またしても地面を舐めた。
身体全体で無傷な箇所を流すのが難しいくらいになっても、それでも勇斗は自分の力で必死に立ち上がる。
「ふう、覚悟しろよ、クソ野郎!」
両鼻と口元からは血があふれ出しながら宣言する勇斗の様子は、どっからどう見ても負け犬の遠吠えに過ぎない。だけど、すり切れた勇斗の気持ちをつなぎ止めるために、それは必要な言葉だった。
(勇斗は全然諦めてないのね……。アタシがまったく力を分けてあげられていないのに、それでも、諦めずにリールに立ち向かっている。そうね、諦めたらダメよね。その言葉は、以前アタシがサラちゃんに言った言葉じゃない! そうよ。アタシが勇斗を助けるのよ!)
勇斗はふらふらになりながら口元の血を拭うと、リールはその姿をつまらなそうに眺めている。
(アタシは決めた。アタシは差し違えてもリールを殺すわ。アタシが命を投げ打ってあいつを殺すことで、アタシが魔族の時に殺した人に対する罪滅ぼしになるのかもしれない。それに、この約十五日間、アタシは人生で初めて充実した生活というものを体感できた。それも全部勇斗のおかげ。そんな時間を与えてくれた勇斗を、アタシは死んでも守る。それがアタシに課せられた使命よね!)
心の中で思いを吐き出すと、ようやくホープの中にわだかまっていたもやもやとした気持ちが吹っ切れた。
すると、ホープは勇斗の感覚が掴めるようになってきた。
それは今までの戦闘と同じ感覚。だとすれば、ホープがすべきことはその感覚に調整して、勇斗に力を流し込むだけだ。
今までよりもさらに強く、ホープは勇斗と一体になっている感覚を味わっていた。