4-7 異形の悪魔
「リールね……」
勇斗が自転車を漕いでいると、唐突にホープがその名を呟いた。しかし、自転車の運転に集中力を割いている勇斗は、その言葉をはっきりと聞き取ることができなかった。
「……ん、ホープ。どうした?」
ものすごい勢いでペダルを回転させている勇斗は、自身の自転車最高速度を一日ぶりに更新するスピードで森を目指している。
「いえ、なんでもないわよ。それよりも、あの女のことを簡単に信じてしまっていいの? もしかしたら、勇斗から逃げるために、迷いの森に元凶がいるなんて、適当な嘘を並べたのかもしれないわよ」
「そうかもしれないけどな。けれど、俺から逃れるためだったら、そもそもロッドさんは最初から自分の正体を話す必要はなかったんだよ。少なくとも、言い逃れのための嘘という線はあり得ない。それに、俺はこの世界に来て三回魔物の襲撃を受けた。そのすべてがあの森の中で出現した魔物だった。あの廃墟が召喚と相性がいいって話は、イマイチよくわからんかったが、とりあえずあの場所を確認する必要と価値はあるはずだ」
足の疲労と引き替えに、勇斗はあっという間に森の入口にたどり着いた。
森の中は相変わらず静かで、風を切り裂いて進む勇斗には、小川が流れる音も葉が擦れ合う音も聞こえない。
立ち並ぶ木々を、視界の後ろに流しながら進んでいると、やがて森の奥――廃墟へとたどり着いた。
何度来ても、その場所は森の中では異質な空間だった。
さらに廃墟の中央で待ち構えている存在が、この場の異質な感じをさらに強く引き立たせているかのようだった。
「…………」
その生物は、背中に羽根が生えていて、全身が青く染まっていた。シルエットと大きさは人間とそんなに変わらないはずなのに、どこにも人間らしさを感じないという奇妙な気配を醸し出している。
「よう。待ってたぜ」
その化け物は、口元を邪悪に歪めながら、勇斗の姿を認識するなり、待ち合わせをしていたかのように親しげに話しかけた。
その声が鼓膜を通って、脳みそに届いた瞬間、勇斗の背筋に冷たいものが走り、化け物からは圧倒的なほどのどす黒い負のオーラを感じた。
「まあ、そう硬くなるなよな」
化け物の背後には、青、赤、緑の三色の水晶が浮かんでいる。
(あの、水晶は……)
見覚えのある装置を目にして、全身から嫌な汗がぶわっと吹き出す。
「クククク」
どこまでもどす黒い笑みを浮かべる化け物に対して、勇斗ははっきりとした恐怖を感じ取った。