4-5 穏やかな朝
翌日、勇斗は朝日が昇ると同時に目を覚ました。
家の中も外も、昨日の騒ぎが嘘のように静まり返っている。
太陽は村の様子なんてなんのその、といった感じで、今日も脳天気なほどに陽気に晴れ渡っていた。
「あら? 今日はずいぶん早起きなのね」
勇斗が体を起こすと、壁に立て掛けられていたホープがそれに気づいて話しかけてきた。
「ん? まあね」
返事をして、勇斗は大きく身体を伸ばす。
「すげえ、どうでもいいことなんだけどさ。ホープって寝たりするの? あんまりそういうところ見たことないけど」
「そりゃあ寝るわよ。寝ないと寝不足の人間の目みたいに、全身が真っ赤に充血して、赤いバットになっちゃうんだから」
「そうかい」
ホープの冗談なのか本気なのかわからない軽口は、適当に流すことにした。
「勇斗もどう? 髪を赤く染めたりすれば、女の子にもてるかもしれないわよ」
「俺はやめとくよ。きっと俺には似合わない。それに赤い髪ってさ、なんか血みたいだし――あっ!」
自分の発言の中に、昨日の夜に感じたもやもやとした何かを実体化させる鍵があった。その鍵を見つけると同時に声を漏らし、勇斗はその感覚を逃すまいと、必死に脳内を駆け巡り、一つの答えに達した。
(そうか。そういうことだったんだ)
「ホープ、教会に行くぞ! 今すぐにだ!」
「ちょ! 急にどうしたのよ?」
抗議の声を上げるホープを無視して、勇斗はホープを担いで家を飛び出した。家の前に置いてあった自転車に飛び乗って、全速力でペダルを回して教会へと向かう。
「それで、何かわかったの?」
自転車を漕いでいる間、勇斗の様子を察したホープはそのことについて訊ねてくる。
「赤い髪だよ。リザードマンとの戦いの後、迷いの森に行っただろ。そのときにさ、ロッドさんの髪が不自然に落ちてたんだ。その時は気にも止めなかったけれど、今そのことを思い出したんだよ。そして、俺はリザードマンと戦った時に彼女の幻影を見た。これって冷静に考えれば、無関係なはずがないんだよ」
「ええ、そんなこと知ってるわよ。けれど、彼女は結局無事で、勇斗が見たもののは幻影だった。それでこの話は終わりじゃなかったの?」
「ああそうだ。俺はそれで、ロッドさんの無事な姿を見て一安心したんだ。『なあんだ。魔物が俺に幻影を見せていただけなんだな』って具合にさ。だけど、肝心なことを忘れてた。確かにアレは幻影だった。だけど、どうして魔物が俺にロッドさんの幻影を見せたのかってことさそ」
「あっ……。それじゃあ――」
何かを察した様子のホープだが、勇斗は自転車を漕ぐ足を緩めることなく言葉を続ける。
「もしかしたら、ロッドさんが魔物に命を狙われている可能性があるんじゃないか。あの幻影は、今度こそ本当にロッドさんの命を奪うっていう警笛だったのかもしれない。早く行かないと!」
「――えっ!」
ホープと勇斗は、推理を共有しながらも、まったく正反対の結論にたどり着いたのだった。
それは勇斗の思考が狂っているのか? それとも、ホープの思考が「彼ら」に近いせいなのか? それは誰にもわからない。