4-3 禁断の地
「ちょっと! 勇斗。目がやらしいわよ。いったい何考えてるんだか……」
壁に立てかけられているホープが、タンスを漁っている勇斗に非難の言葉を浴びせている。
「るせえ、仕方ねえだろ。こちとら思春期真っ直中の健康男児じゃ。女性の下着を見て、少しくらい邪な気持ちを抱くくらい許せ!」
家主のいないアルバート家に戻った勇斗はアイナの言いつけ通りに彼女たちの着替えを用意していた。
居間のタンスに着替えの類が入っているということだったので、引き出しを開けて覗いてみると、そこにはサラの可愛らしい下着や、アイナの大人っぽい下着が詰まっていた。
その場所は本来だったら、絶対に触れることのできない禁断の場所なのだが、着替えを持ってこいと命じられている以上は、下着類も持っていく必要があるだろう。
禁断の地は、今や避けては通れない道となってしまっている。
そんなこんなで勇斗はイケナイことをしているような気分になって、顔を赤くしながらバッグにふたりの着替えを詰めてアルバート家を出た。
「それにしても、魔物に襲撃されたってのに、この周辺はよく何も壊されなかったわね」
バックを抱えて家から出ると、勇斗の肩にぶらさがっているホープが言った。
ホープの言うとおり、学校周辺は地面が抉れていたり、木々の幹が折られていたりと散々なことになっていたが、このあたりはこれといった被害が見受けられなかった。
「言われてみると確かにそうかも。ちょうどここには魔物が来なかったんじゃないかな」
「そうね……。ねえ勇斗、あのね……。今回の……。いや、やっぱ、なんでもないわ」
途切れ途切れに発せられるホープの言葉。
「………………?」
明らかにホープは何かを伝えようとしていたが、結局その先を口にすることなく黙ってしまった。
(勇斗、ゴメン)
ホープには今回の襲撃に関して何か思い当たる節があり、心の奥底でわだかまりのようなものが渦巻いていた。
けれど、ホープはそれを勇斗に伝えられなかった。
なぜならば、それを勇斗に教えてしまえば、勘の鋭い勇斗はある事実――ホープの正体に感づいてしまうかもしれないから。
それは、いつかはばれてしまうことなのかもしれないが、それでもできるだけ隠し通して起きたいというのがホープの本音だ。
結局、ホープは自分の正体に繋がるかもしれない事実を勇斗に伝えられなかったというわけだ。