1-5 小さな背伸び
サラは透き通った白い透明な肌を湯につからせながら、水滴が張り付いている天井を見つめて、ぼんやりと考えごとをしていた。
「…………」
勇斗がこの世界にやってきたことで、サラの中ではとても大きな――端から見れば、とても小さな変化が起きた。
いつも、サラは姉のアイナとともに入浴し、サラの長い髪はアイナの手で洗ってもらっているのだが、今日はひとりお風呂に入り、髪も一人で洗った。
この変化に関しては、至極単純な理由が存在する。
ひとりで髪を洗えないというのは、なんというか、とても子どもっぽいことだと、サラは思ったのだ。
小さな背伸びしたい年ごろであるサラは、ひとりでお風呂に入れないということを勇斗に知られたくなかった。
とはいうものの、これまでしてこなかったことをやろうとした結果、当然それなりの代償もあった。
実際、一人で髪を洗ってみると、シャンプーは目に染みたりもしたし、シャンプーをすべて洗い終えたと思ったら、まだシャンプーが髪に付着していたり、と散々だった。それでも女の子の意地を発動させて、悪戦苦闘の末に目標を達成した。
「よしっ! これで、私も大人の仲間入りかな」
といった感じで、一種の達成感に酔いしれたサラは、洗い場の大きな鏡を見つめて、腰に手を当てて平坦な胸を張った。
それが数分前の出来事。
そのまま現在に至ったサラだったが、時間が経つにつれて、そんな些細なことに達成感を覚えていた自分の子供っぽさに嫌気が差したのだった。
「はあ~、私ってまだまだ子供っぽいのかな……」
ため息をついて、サラは自分の身体へと視線を落とす。
視線の先に映っている自分の身体は、十歳という年齢相応の体つきをしている。ずんぐりとした幼児体型の体型だ。
「私も、いつかはお姉ちゃんみたいになれるのかな……」
姉の持っている抜群のプロポーションは、身内贔屓をなしにしても村で一番と言えるだろう。
引き締まった腹部とほっそりとした首の間に大きな膨らみが二つほどあり、どの部分を見ても女性としても魅力が詰まっている。
自分も姉の血を引いているのだから、数年後は姉のような体つきになれるのかもしれないが、現状の自分の身体を鑑みるに、とてもじゃないが楽観的にはなれない。
サラはまだ十歳なのだから、これから成長の余地はいくらでもある。しかし、ちょっとでも背伸びをしたい年ごろのサラは、一刻も早く姉のような女性らしい体型になりたいと切に願っていた。
女の子ではなく、女性として見られたいという複雑な心境。
「はあ~、勇斗さんは、当然、私みたいなお子様よりも、お姉ちゃんの方が魅力的なんだよね……」
サラは小さな身体をさらに縮こませて、口元まで湯に浸かり、口から放出される空気が水面でぶくぶくと泡立てる様子を眺めていた。
その泡に早く大人になりたいという願いを込めるも、泡はすぐに弾けてしまった。