3-17 その真相
――これは勇斗がサラの元へと訪れる少し前のこと。
「それにしても、あの神父が迷い人に手をかけようとするはな」
「彼は以前から迷い人を危険視していましたし、あのような行動に走る兆候もありました。けれど、彼の性格から考えて、実際に行動に移すとは思っていませんでしたが……」
その教室の一角には、ひとつの影があった。しかし、その影からは二種類の声が発せられていた。
さっきまで外が騒がしかったが、魔物がいなくなったおかげでこの周囲も二人の会話の音が以外は静かなものだった。
「だけどよ。神父が罪もない人間を殺すって、それはギャグだろ。迷える子羊を導くんじゃなかったのかよ。あひゃひゃ。そうだ。このことを誰かに教えてやろうぜ。そうだな……。迷い人と一緒にグラウンドで戦っていたあのでかい男なんてどうだ? 正義感の強そうなヤツだったし、きっとおもしろいことになるぞ」
「それは構いませんが、期待してるようなことは起きないと思いますよ」
「キヒヒヒヒ。別にいいんだよ、何も起きないなら起きないでもな。起きるかもしれないっていう期待感が楽しいんだからな。さて、そんな余興の話はいったん置いておこうか」
今までふざけたいた感じの声が、そこに至って急に真剣な口調になる。
「まさかなあ、こんなあっさりと俺の手下たちが全滅しちまうとはな。さすがの俺もこんなふうな攻撃をされるなんてのは予想外だったぜ。とはいえ、魔力を村中に拡散させたせいで、俺にまでは攻撃が届かなかったみたいだけどな」
「これからどうしましょうか? 今日消費してしまった戦力の補充には時間がかかりそうですが……」
「なに心配する必要はねえ。とにかく、こうして俺も村の中に侵入できたことだしな。手駒は少なくなっちまったが、まあまだなんとかなる程度には残ってるさ。それに、一番厄介そうなヤツは、今日の巨大魔法のせいでしばらくは魔法も使えずおとなしくなるだろうしな。明日にはすべて終わってるさ。くかかか、さてこれを達成すればおまえはまた救いに一歩近づくぞ。せいぜい頑張れよ、ま、俺も他人ごとじゃないんだけどな」
「はっ。リールさま。ふたたび私をお救いください」
一つの影が恭しく頭を下げると、リールと呼ばれたもう一つの声が、内緒話をするように声を潜める。
「どうやら、ねずみが盗み聞きしていたようだな。まあ、処分はおまえに任せるよ。今さら、誰も俺の計画は邪魔できないからな」
影が教室の入口を振り返ると、扉の端から金髪のツインテールがぴょこんと動く様子が見えた。影はすぐに金髪ツインテールの持ち主に近づくと、彼女の肩を掴んで捉えた。
「………………っ!!」
肩を掴まれた少女は、全身を強ばらせながら、ゆっくりとこちらに振り返った。
影が少女の顔を知っていると同時に、少女も影の顔を知っているはずだ。
この村に来てから迷いの森と呼ばれる場所でこの少女と初めて会い、それからお互いに迷い人の話などで盛り上がったりもしたからだ。
見慣れたはずの少女の顔だったが、今は寂しさと恐怖と驚き、さまざまな感情が混じった顔をしており、まるで別人のような顔になっていた。
いつものような愛らしさも、今は陰を潜めてしまっている。
「サラさん、今はゆっくりと休んでください。次にあなたが目覚めるのは、すべてが終わった時です」
影が少女の目を覗き込むと、少女の目から光が失われ、焦点がぼやける。
「ねえ、どうして。ロッドさん……」
悪夢にうなされているかのように、少女は小さくぼやいたかと思うと、そのまま意識が途切れてしまった。
少女は、いつもと同じようにかわいい寝息を立ててスヤスヤと寝息を立て始めた。
影はそんな少女を残して、教室を後にしたのだった。