3-15 仲直り
勇斗はサラの姿を探して、校舎内の体育館へと足を運んだ。避難した村人がそこに集まってはと聞いていたが、サラの姿はなかった。
そこで、体育館に避難していた村人の一人にサラがどこに行ったか訊ねたところ、いつの間にかいなくなっていたと言われたので、とりあえず校舎を回って彼女を探すことにした。
廊下を歩いていると、魔物の襲撃によるものなのか周囲の窓は割れてしまい、壁がところどころ破壊されていた。
廊下の床は、カラスや瓦礫で足場が悪くなっているが、その中を勇斗は歩いて行く。
「――あっ!」
勇斗が廊下の角で曲がろうとした瞬間、向こうから歩いてきた人影とぶつかりそうになった。
なんとかぶつからずには済んだが、向こうからやって来たリンカは素っ頓狂な声を上げた。
勇斗はリンカの姿を見て一瞬だけ身構えてしまったが、彼女が身に纏っている雰囲気が柔らかくなっているのを察して緊張を解いた。
その表情からははっきりと敵意は消え失せており、彼女は言葉を切り出そうと口をパクパクとさせている。
「あ、あの……」
その先に続く言葉を躊躇うように、リンカは身体を震わせている。
「勇斗君、私――」
「ねえ、そうだ。リンカ、前に言ってたよね。いつぞやの賭けに負けたから、なんでも言うこと聞くってさ。それのことなんだけれど、今使っていいかな?」
「えっ? うん、それで勇斗君の気が晴れるなら。私、構わない。私はあれだけひどいことしたんだから、どんな罰でも受けるつもりだから」
リンカは何かを決意したように拳を握りしめて、勇斗を見つめる。悲壮な表情で、目の端にはうっすらと涙を浮かべている。
そんな表情を目の当たりにして、勇斗は自分がとてもイケないことをしているではないだろうか、という錯覚に襲われた。
「うーんとね、俺と仲直りしてほしいなって」
「――えっ」
勇斗の提案にリンカは、勇斗の言葉の意味がわからないと言わんばかりに、目を白黒とさせている。
「そのままの意味だよ。初めて会った時みたいに俺と仲良くしてほしい」
「いや、だってさ、それってなんかおかしいよ。だってさ、私が一方的に勇斗君に嫌な思いさせてるのに、勇斗君は私のこと嫌いになっても仕方ないはずなのに……」
感極まってきたリンカは、まくし立てるように言葉を並べた。
「人を嫌いになるのって結構難しいもんなんだよ。ましてや、一度好意を持った人間相手なら、なおさら一度ひどいことをされた程度で簡単に嫌いになれるはずがないんだ」
「いいの? 私を許してくれるの?」
リンカは胸に手を当てて、真っ直ぐに勇斗に視線を向けた。
「許すも何も、俺のほうがリンカに仲良くしてくださいってお願いしてるんだけどね。だから、むしろ俺はリンカの返事を待ってる状況なんだよ。っていうか、これだとなんだか、俺って、友だちいないやつみたいだよね。ははっ、まあ、実際あんまり多い方じゃないけどさ」
「うんっ! うんっ! 勇斗くん、こちらこそ改めてよろしくね」
勇斗はリンカと仲直りの握手をする。
目が潤ませているリンカは、人差し指で目の端に溜まっていた涙を拭った。
「ねえ、ところで、サラを探しているんだけれど、どこにいったか知らない? 体育館にはいなかったんだけど……」
「えーっと、確か、サラちゃんとはここまで一緒に避難したから、学校のどこかにはいると思うんだけどなあ……。じゃあ、私もいっしょにサラちゃんを探すよ」
仲直りをした勇斗とリンカはふたり並んで、学校の中にいるはずのサラの影を探した。