3-14 リンカの決断
勇斗とバジルは、突然魔物が消えたグラウンドに立って、状況を把握できずにあたりを見回していた。
「何があったんだ……?」
目映い光が視界を覆ったと思ったら、あれだけ猛威を振るっていた魔物がその一瞬のうちに全滅してしまった。あまりにも現実的ではない事態に、勇斗は逆に安心することもできずに困惑の表情を浮かべていた。
「魔物が消えたの……か? 理由はわからんが、それで合っているよな」
バジルがあたりを見渡し、勇斗に確認を求めるように言った。
「現にそうなってるもんな……。そうだ! サラは無事か?」
「たぶん、みんは、学校の中に非難していると思うぞ。心配なら、さっさと行ってこい」
「わりい、ちょっと行ってくる」
バジルの言葉を聞き終える前に、勇斗は校舎に向かって走り出していた。
バジルは勇斗の背中を見送って、グラウンドの隅で膝を抱えていたリンカへと近づいた。どこか呆けたような表情を浮かべている幼なじみを見下ろすと、彼女は潤んだ瞳をバジルへと向けてきた。
「ねえ、バジル。私はどうしたらいいと思う?」
「それはリンカが決めればいいことだ。俺が干渉することじゃあない。ただ、命の恩人に礼くらいはあってもいいんじゃないかと、個人的には思うぜ」
「ねえ私、勇斗くんに許してもらえるかな?」
「それは勇斗に聞いてみればいい。俺は勇斗じゃないから、アイツがどう答えるかなんてわからない」
「ははっ、アンタってば相変わらず気の利いたことが言えないやつだよね。私さ、ずっと前に整理がついていたと思ってたんだけど、やっぱり今でも迷い人という存在に怯えてたんだ」
リンカはそこで一度言葉を区切って空を見上げた。
「勇斗君が迷い人だってわかった瞬間、思わず私の心が勇斗君を拒絶しちゃった。でもさ、勇斗君は勇斗君であって、パラニアを滅ぼした迷い人とは関係ないんだよね。命を助けてもらってようやく実感できたよ」
「そうか。それだったら、リンカがやることはひとつだよな」
「うう~、それが一番怖い」
唸りながら頭を抱えるリンカ。
「リンカは、相応のことを勇斗にしたんだ。勇斗が許そうと許すまいと、それに耐えるのがおまえの義務だ。たとえ勇斗になんと言われようとな」
「う~、わかった。私やるよっ!!」
リンカが握り拳を作って、勢いよく立ち上がると、
「「あでっ――!!」」
腰を屈めていたバジルの額と、リンカの額が衝突し、ゴチン、と音を立てた。
リンカのほうは、額をさすりながら平気そうな顔をしているが、バジルは額を真っ赤に腫らしてうずくまってしまった。
「じゃあ私、行ってくるね」
「ちょ、待て――」
うずくまっているバジルを無視して、リンカは勇斗を探すために校舎へと向かった。
額を痛めたバジルは、その場から動くこともできずに、しばらくうずくまったままだった。
「くっ、石頭め……」
バジルは毒づいてみせるが、その言葉はむなしく空中を彷徨っただけだった。