3-7 神父の葛藤
勇斗の目を覗き込みリヒトは、素直で真っ直ぐないい目をしているな、と思った。
リヒトは誰よりも命の重さを知っている。
魔物騒動の元凶であるかもしれない勇斗の命も村の人たちの命も同じだけ重いことも知っている。
だから、今まで悩み、勇斗を殺すという決断を下せなかった。いや、勇斗に短剣を向けている今この瞬間もリヒトは迷い続けている。
(本当にそれでいいのだろうか? 私の選択は正しいのだろうか?)
この十日間で何度もつぶやいた言葉だ。
悲劇を起こす可能性をひとつでも潰すというのが、あの時何もかもなくなってしまった街の前でリヒトが決意したことだった。
短剣を持つ手が震えている。
けれど、この十日間に村の中で魔物が二度も出現した。考えられる要因は何かといえば、勇斗という迷い人という存在が現れたこと以外には考えられない。
だって、それ以外は、レールの村に変わったことが起きていないのだから。異変が起きた原因としては、勇斗のせいだと考えるのが妥当と言えるだろう。
(この手を汚すことを恐れるな。私は村を救うのだ!!)
自分を鼓舞するように呟いたリヒトだが、ふたりの命のやり取りは乱入者の手によって、終わりを告げたのだった。