3-5 彼女の思い
リンカは一人、部屋の隅で膝を抱えていた。
幼い頃に両親を失ったリンカは、この村にやってきたときから、ずっと一人暮らしを強いられている。
村の人たちやバジルがいてくれたから、今まで不自由な思いをすることはなかったが、それでもこういうときは誰かにそばに居て欲しいと思う。
「嫌われちゃった……よね」
あのとき――勇斗が、自身が迷い人であることを告げた瞬間、リンカの頭が真っ白になった。
パラニアの町が滅びたときの記憶が一気に沸いてきて、気づいたときには勇斗に掴みかかっていた。
それだけじゃない。あふれ出る気持ちが抑えきれなくて、散々な言葉を勇斗にぶつけたりもした。
家に帰って少しだけ冷静になったあとで、バジルはリンカに向かってこう言った。
『あの迷い人と勇斗はまったくの別の人間だ。あいつは迷い人である前に俺たちと同年代の普通の男さ。迷い人という概念ではなく、勇斗という個人を見ろ。そうすれば何も問題はない』
そんなことは、リンカだって頭ではわかっている。
でもあの日以来、迷い人という存在そのものがリンカを苦しめているのだ。十年経った今でも、あのときの悲劇を鮮明に思い出してしまう。迷い人である勇斗を見ると、自然とそのときの記憶と結びついてしまうのだ。
真っ赤に染まった町、壊れた人形のように動かなくなった人間、涎を垂らしながら追いかけてくる魔物。もう忘れていたはずの記憶。
だからこそ、勇斗個人に対する憎しみはなくても、最初のときのように気軽な調子で彼に接することができなくなってしまった。
――それにもうひとつ。
いくら気が動転していたとはいえ、リンカは勇斗にひどいことを言いまくった。そのときに絶対に勇斗に嫌われただろう。
だって、勇斗からするとなんの覚えもないことに対して、いきなり胸倉を掴まれて罵声を浴びせられたのだから。勇斗がリンカを嫌いにならない理由がない。
(勇斗君、私のこと許してくれないよね……)
何かで締めつけられているかのように胸がキリキリと痛む。
リンカは今日も上の空のまま一日を過ごした。