2-15 決闘?
バジルの家はサラの家から三軒隣にあった。といっても、家と家との間にけっこうな距離が離れているので、たった三軒隣でも、ご近所さんと言えるような距離ではなかった。
バジルの家に入るとそこには、さまざまな形をした剣が壁に立てかけられて並べられていた。その中には有名な業物のレプリカなんかも持っているらしく、得意そうな様子で、バジルが勇斗に自慢してきた。が、そのあたりの知識がさっぱりな勇斗は、バジルの話に会わせて相づちを打つくらいしかできなかった。
とりあえずその話でわかったことは、バジルは本当に剣が好きなんだなということくらいだった。
コレクションの説明にかなり時間を要したが、その後、使い古した竹刀を一本ずつ手にとって、再び外に出た。
いくら家の前の道は人通りが少ないとはいっても、さすがに通行の邪魔になるどころか、通行人と衝突して怪我を負わせてしまう危険がある。ということで、ふたりは人の寄りつかない場所に移動することにした。
「まあ、あそこが一番適切だろうな。それじゃあ、移動するぞ」
そう言って、勇斗の前を歩き始めるバジルについていくと、やって来たのは勇斗にとって、もはやお馴染みになった迷いの森だった。
ふたりは森の入口で立ち止まる。
「まあ、怪我しない程度に頑張ってね~」
これまで勇斗の肩に掛けられておとなしくしていたホープだが、励ましの言葉をかけてくれた。勇斗は、その言葉にとくに反応することもなく、肩にかけていたバットを外して、近くにあった木の幹に立てかけた。
勇斗は、竹刀を握りしめながら、数歩分の距離を離れてバジルと向かい合った。バジルも普段の鋭い相貌をさらに鋭いものにさせて勇斗を見据える。
バジルの全身から発せられる威圧感をひしひしと感じた。
この前襲われたリザードマンから威圧感に近いものも感じたが、バジルはリザードマンとはまた違った種類の威圧感を発していた。
「フィールドはこの森全体だ。どんな手を使ってもいい。この竹刀を一撃でも相手に叩き込んだ方が勝ち」
てっきり純粋な剣術の勝負をするのだと思っていた勇斗は、バジルの提案に少し驚いた。
「それじゃあ、森の中に入って、影から不意打ちするのもアリってことになるのか?」
「もちろんだ。本当の戦闘になったら、正々堂々戦って死にました。なんてのは、なんの自慢にもならない。卑怯な手を使ってでも勝った人間が、文字通り勝者なんだ。だからこそ、戦場ではなんとしても生き抜くことを意識し、そして相手を殺すことを考える必要がある」
そう言って、竹刀の切っ先を勇斗に向ける。
「確かにこれは真剣ではないが、俺たちの真剣な勝負だ。この竹刀で切られたら殺される、くらいの緊張感を持って臨んだほうがいいぞ」
「訓練のときから、できるだけ実戦に形を取り入れる。その考えは、俺もよくわかる。それじゃあ、俺はこの剣ででおまえを切りつけてやるから覚悟しろよ」
「ふっ、返り討ちにしてやるよ。それじゃあ、まずはおまえが森に入るといい。ハンデだ。その中で、いろいろな策を考えるんだな」
口元に笑みを浮かべるバジル。
「どこから襲われるかわからないという恐怖。俺の影に怯えながら、俺の姿を探すんだな」
同じように薄ら笑いを浮かべた勇斗は、バジルに背中を向けて森の中へと消えた。