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2-10 男の決意
勇斗が帰った後、リヒトは生活感のない自室で、勇斗に配達してもらった木箱の中身を確認していた。
蓋を開けると、そこには中のスペースを目一杯使って、教会の女神を形取った石像が寝かされていた。
送り主は、隣町の教会だ。
さらに女神像の隣には、ナイフよと呼ぶには少し刀身の長い短剣が置いてあり、リヒトはその短剣も木箱から取りだした。
「もう二度とあの悲劇は繰り返さない。迷ってはいけない。疑わしき者には罰を」
短剣を胸の前で握りしめて、迷いを振り切るようにつぶやいた。
「…………」
ふうーっと一息つき、短剣を床に置くと、今度は女神像を床に立たせる。
「神様、私を、いえ、村の人たちをお救いください」
石像の前で膝をつき、両手を合わせる。
リヒトの眼前で、リヒトを見下ろしている女神像はどんなことにでも動じないかのように、心底穏やかに、そして、すべてのものを包み込むように優しく微笑んでいた。
当然、女神像からの返答はなく、リヒトの部屋は静寂に包まれた。