2-8 仕事が一段落
一日の中で気温が一番高くなるようなころ、ふたりは倉庫に戻ってきた。
倉庫の中は、午前中にやってきたときと同じように相変わらず散らかっている。
「ひょっとして、倉庫にあるものを全部運ぶの?」
午前中かけてたった二個しか運べなかったにも関わらず、これだけの量を運ぶとなるとどれだけの時間がかかるのか、と考えて勇斗は少しうんざりした。
「そんな馬鹿な……。それはさすがに物理的に無理だよ。この場所はみんなが倉庫として、利用してるんだよ。だから、ここには、配達物以外の荷物もいっぱいあるんだよ」
「ははは……、それならよかった」
「この倉庫の本来の役割は、村の外から村の人宛てに届けられる荷物をとりあえず保管しておくことと、商店街の商品を保管しておくことってのが主な役割かな。いろんな商品が保管されているけれど、ここに盗みに来ちゃダメだよ」
「いや、そんなことはしないよ……」
「ならいいんだけどね――っと、そういえば、教会宛に村の外から運ばれた荷物を預かってたんだっけ……」
「教会宛の?」
「そうだよん。んじゃ、今度はこれからそれを届けにいこっか?」
「おーい、リンカ。帰ってきたんなら、ちょっとこっちを手伝ってくれねえか?」
荷物の山の中から野太い声が聞こえてきた。声の主の姿は荷物に隠れて見えなくなってしまっているが、この声はどう考えてもギルのものだ。
「なになに、どうしたの?」
リンカは声のする方に駆け寄っていく。
その間に、勇斗は壁にもたれかかって少し休憩していた。
(これから、どうしよっかな……)
改めて、これからのこともそろそろ考えなきゃいけないな、と思いつつも、考えてどうにかなるもんでもないな、という気持ちが対峙している。
そんなことを考えているうちに、話を済ませたリンカが戻ってきた。
「ごめん。私ちょっと用事できちゃった。悪いんだけどさ、教会まで、荷物届けといてくれないかな?」
リンカは両手を合わせて、舌をぺろりと出す。
「いいよ。教会なら、一度行ったことがあるから場所も知ってるし、それで、荷物はどれ?」
「えーっとね、それだよ」
キョロキョロと辺りを見回したリンカは、黒色の長方形の木箱を見つけて、そこを指差して視線を定めた。
その木箱は、さっき勇斗たちが運んだものとは、外見が違っていた。外側に金色の十字架が施されており、ちょうど人がひとりほど入りそうな大きさだった。
棺桶、という単語が脳内をよぎり、少しだけ嫌な想像をしてしまった勇斗だったが、それを振り払うように首を振る。
さまざまな荷物があるこの倉庫の中で、ひとつだけ物々しい雰囲気を醸し出していた。
「なんかさ、ここに置いといたらバチが当たりそうだね」
「そうなんだよね。だから、勇斗くん、罰が当たる前にお願いね」
「ま、そういうことならわかった。そうだ。自転車使っていい?」
「いいよ。それじゃ、リアカーに積むのは手伝ってあげるね」
「うん。ありがと」
ふたりで木箱の前と後ろを持って、倉庫から外に止めてあるリアカーまで運んだ。さらに、自転車の後ろとリアカーの取っ手をつなげる。
「んじゃあ、あとはよろしくね。神父さんに骨抜きにされないように」
勇斗は昨日会ったあの神父のことを思い出す。
なんともつかみ所がなくて、不思議な雰囲気を纏った人だった。
「言いたいことはわかるけどさ。骨抜きってのは、なんか使い方間違ってるような気がするんだけど。リヒトさんなら前に会ったことあるから大丈夫だよ……。たぶん」
きちんと言い切れないのは、リヒトという人間に得体の知れない何かを感じているからだ。
とはいえ、怯えていても仕方がないので、勇斗はリンカに手を振り、教会へ向けて自転車をこぎ出した。




