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迷い人  作者: ぴえ~る
第二章 不吉な予兆
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2-6 優しいお婆ちゃん

 林を抜けると、そこには村全体を一望できるような丘が広がっており、その頂上に、ポツン、と煉瓦造りの家が一軒建っていた。

 家の隣にリアカーを止めて、二人はその中から木の箱を取り上げて、入り口の扉へと向かう。

「セラさーん、きたよー!」

 リンカはノックもせずに、勢いよく入口の扉を押し開けた。

 玄関から入ると、その先にはかなり広めのリビングが広がっていた。その部屋の丁度真ん中にパーマがかかった白髪のおばあちゃんが木の椅子に座っている。

 おばあちゃんは、不躾な訪問者の存在に気づくと、優しくこちらに微笑みかけて、手に持っていた編み物を近くのテーブルに置いてこちらに歩み寄ってきた。

「あら、リンカちゃんじゃない。いつも悪いわね。そちらは?」

「こちらはね、新しい仕事仲間の勇斗君だよ」

「勇斗です。最近この村に来ました」

 勇斗は木の箱を床に下ろして自己紹介をする。

「私はセラピアよ。村の人たちからは、セラって呼ばれてるわ。よろしくね。勇斗くんはアイナちゃんの親戚なんだってね」

 さすが田舎というだけあって、民家から離れているところで暮らしているセラピアでも、勇斗の噂は届いているらしい。

 自分が知らないところで、自分の噂が流されているというのは、なんともむず痒い気分だった。

「ねえ、リンカちゃん、新しい友だちができてよかったわね」

 セラピアはにっこりと微笑む。表情全体から優しさがあふれ出ているかのような、どこまでも人のよさそうな笑みだった。

「ふふん、でもね、仕事仲間で友達ってのは、実は建前なんだよ」

 なぜか胸を張って得意そうな態度を見せるリンカ。その先に続く言葉に、勇斗は言い知れぬ不安を覚えながらも、黙って耳を傾けていた。

「ほんとは私の新しい恋人なんです!」

 リンカは勇斗の周りをぐるっと一周して、セラピアに見せつけるように勇斗の肩に手を置く。

「はいはい、もうその手には乗らないよ」

 人間という生物はどんなことに対しても、耐性が備わっていくものだ。さっき散々からかわれ尽くした勇斗は、リンカの口から発せられる性質の悪い冗談にも動揺しなくなっていた。

 勇斗は呆れたように肩を竦めて、肩に置かれているリンカの手首を掴む。その時に掴んだのリンカの手首は、ずいぶんと女の子らしくて細い手だな、と勇斗は思った。

「あらら~、振られちったか」

 リンカが肩をすくめて落ち込んだふりをする。

「うふふ、リンカちゃんも相変わらずのようね」

 孫を見るおばあちゃんのような視線で、セラピアはリンカを眺めていた。

「ねえ、勇斗さん?」

 セラピアの視線が勇斗へと向けられる。

「はい。なんでしょうか」

「私からこんなこと言うのも変だけど、リンカちゃんと仲良くしてね。それとバジル君ともね」

「もちろんですよ。僕も友だちがひとりもいない中で暮らすのは嫌ですから」

「あはは、勇斗君が私たちと仲良くするのは義務であり、世界の真理なのだ。それに逆らったらキミは死ぬ」

 リンカが勇斗にぴっと人差し指を突きだす。

「というわけです。僕はまだ死にたくないですから」

「そうね。それなら大丈夫そうね。まあとにかく、立ち話もなんだし、座ってちょうだい」

 セラピアは椅子に座り直し、勇斗たちはテーブルを挟んでセラピアの向かい側に座った。

 テーブルに座って一息ついたところで、室内には何かを焼いているような香ばしい匂いが充満していることに気がついた。

 その匂いに反応するかのように、勇斗のお腹がぐう~、となると、リンカとセラピアは揃って笑みをこぼした。

「ふふっ、そうだ。ふたりとも、お昼ごはん食べていきなさい」

「やたっ。ありがとう、セラさん。バジルの荷物を運んだせいで、お腹空いてたんだよね。ねえねえ、メニューはなに?」

「そうねえ、メニューは出来上がってからのお楽しみってことにしておきましょうか。ついでに、ふたりが持ってきてくれたものも、メニューに加えてしまいしょう」

 セラピアは立ち上がり、木の箱を開ける。

 勇斗もその中身はこの時に始めて見たのだが、中にはトマトやトウモロコシといった夏野菜が並んでいた。

「成長期のふたりに野菜だけってのもねえ~、そうだ。この間リンカちゃんに、お肉を持ってきてもらったでしょう。実はそれがまだ余っているのよね。ひとりで食べるにはちょっと多すぎるから処理に困ってたんだけど。ちょうど良い機会だし、ふたりに協力してもらおうかしら」

 セラピアは台所まで歩いていくと、床に膝をついて床板をパカッと開いた。そこはちょっとした収納スペースとなっていて、中から勇斗たちが持ってきた木の箱と同じような木の箱を取り出した。

 その中には、漫画でよく見かけるような骨つき肉が何個か入っており、それだけでなくひとりで食べるにはとうてい不可能なほどの量の肉が箱に詰められていた。

「じゃあ、さっそく準備に取りかかるから、ふたりはそこでちょっと待っててね」

 セラピアはそのまま調理台に立ち、料理を開始した。

(なんか、この前、シチューをごちそうになったときと同じ予感がするぞ……)

 嫌な予感を覚える勇斗だったが、昼食をご馳走してくれるという、セラピアの好意を無碍にすることなどできるはずもなく、テーブルでリンカと会話をしながら、昼食が出来上がるのを待っていた。


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