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迷い人  作者: ぴえ~る
第一章 異世界
21/83

1-20 思いを力に

 廃墟の真ん中、そこで勇斗は地面に横たわったまま、全身血だらけの状態で倒れていた。

 荒い呼吸を繰り返す勇斗は、医学のことなどよくわからないサラにさえ、危険な状態にあることがわかる。

 周囲を見渡すと、リザードマンの姿は見えないことから、やはり勇斗がリザードマンを退けたのだろう。

 迷い人たる勇斗の力に感動するサラだが、今はその感傷に浸っている場合ではない。

 サラは一呼吸おいて、自分がどのような行動を取れば勇斗を救えるのかと、考える。

(家に戻ってお姉ちゃんを呼んでくる?)

 アイナならば、治癒魔術を用いて勇斗を治療してくれることだろう。

「…………」

 勇斗の顔を覗き込むと、彼は青ざめた顔で、苦しそうに呻きながら荒い呼吸を繰り返していた。

 命の灯は今にも消えてしまいそうだった。

(ううん、家に戻っている暇はなさそうだよね……)

 そのうえ、アイナが家に帰ってきていない可能性もあるので、その選択肢は却下することにする。

 そうなると、選択肢はかなり絞られてくる。それどころか、サラ自身が勇斗の手当てをするという選択肢しか残されていなかった。

(私に、できるかな……)

 アイナが教えてくれる魔法はまだ初歩的なものばかりで、治癒魔術といった応用的な魔法はまだ教えてもらっていない。

 だけど、この間、アイナが大怪我をしていた大型犬を治癒魔術で回復させていた現場を目撃したという経験がある。あのときの見よう見まねができれば、なんとかなるかもしれない。

「――だけど」

 サラは自分の右腕に巻かれている、銀色の腕輪に目をやる。

 この腕輪こそが、サラの力を縛る力。まだ幼いサラが、間違った魔法の使い方をしないようにと、授業中以外の魔法を禁じるための腕輪。

 アイナが作成したものであり、腕輪を巻いている状態では、全身に流れる魔力を外に放出できなくなり、魔法の運用がいっさいできなくなる。

 少なくとも、この腕輪を装着している状態では、治癒魔術どころか、普通の魔法すら使えない。もちろん、本来ならば自分の意志で外せるものではなく、外すためにはアイナの許可が必要だ。

「うっ! うぐぐっ!」

 腕輪を外そうと思い切り引っ張るが、接着剤で固定されているかのように、びくともしない。

 サラの前に立ちはだかる姉の壁はとても大きく、どう足掻いたところで、サラはアイナに勝てないのかもしれない。

「やっぱり駄目なのかな……」

 サラは地面に両手と両膝をつき、ポロポロと涙をこぼすと、サラの頬からこぼれ落ちた涙が、勇斗へと注がれる。

 その後も何度か腕輪を外そうと試みるも、しっかりと固定された腕輪はびくともしなかった。

 ――サラの心は折れかけていた。

「私じゃ、勇斗さんを助けられない――」

「駄目よ! 諦めたら絶対ダメっ! これはアンタだけの問題じゃないのよ。アンタがここで諦めたら勇斗はどうなっちゃうの? アンタを助けてくれたのは誰? 勇斗でしょ。アンタは自分を助けてくれた人間を見捨てるつもりなの?」

「――えっ!」

 どこからともなく聞こえてきた女の子の声に、サラはあたりを見渡すが、人影はまったく見当たらない。

「なんだったんだろう。でも、今の声の人の言うとおりだ。私はお姉ちゃんにあらゆる面で負けてるかもしれない。いや、たぶん負けてる。だけど今、勇斗さんを救えるのは私だけなんだ……!! この場にいないお姉ちゃんには絶対できないんだから、私がやらなくちゃ、なんだ!」

 サラは気合いを入れ直して、両手を胸に当てて、身体中を流れる魔力の流れを意識する。

 眼下の勇斗は相変わらず荒い呼吸を繰り返しており、顔色もさっきよりも青白くなっている気がする。

(大丈夫、ゼッタイできる。自分の力を信じるしかないんだ……)

 自分に暗示を掛けるように言い聞かせて、アイナがやっていた治癒魔術の所作を模倣する。

 サラはその時にアイナが語ってくれた言葉を思い出していた。

『あなたが本当に目の前の人を助けたいと思うなら、その思いは魔法に伝わるはずよ。魔法は万能な代物じゃないけど、きっとどんな人もこの魔法で治してあげられるわ』

 絶対に助けたい。死なせたくない。その一心で、サラは祈りを捧げる。

(絶対に勇斗さんを助ける)

 すると、サラの体の周りがぼんやりと光を帯びた。

 体内を駆け巡っていた魔力が、魔法へと変換されていく感覚。

 サラはその力を両手に集め、そっと勇斗の身体へとかざした。

「――ぐっ!」

 一瞬だけ苦しそうに呻いた勇斗だが、その後はすう~、すう~、と穏やかな寝息を立てる。

 みるみるうちに、青白かった勇斗の表情に血色が戻ってくる。

「はあ……、はあ……、できたの……? よかった……」

 すべての力を使い果たしサラは、勇斗の隣にバタンと倒れこんだ。勇斗の首に抱きつくように寄り添って、彼の頬にそっと口づけをする。

「ありがとう、勇斗さん……。わたし、勇斗さんを助けられたんだよね……」

 どうして、腕輪を装着しているにもかかわらず治癒魔術が使えたのかはわからない。しかし、結果として勇斗を救うことに成功したサラは、極度の疲労感に襲われ、いつの間にか意識が途切れていた。

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