表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷い人  作者: ぴえ~る
第一章 異世界
19/83

1-18 成長の証

 周りがスローモーションに見えるその感覚は、そのとき味わったものと、まるで同じものだった。

「…………」

 すでに痛覚は消えており、垂れ下がっていた右腕を強引に引き上げてバットに添える。

「……かっとばせー、日野」

 熱に侵されたような様子で、勇斗は誰にも聞こえないような声量で呟く。

 スローモーションで迫ってくるリザードマンをボールに見立てて、勇斗はあの時と同じように、ほぼ左手一本で力みにないシャープに振り抜いた。

 右手はバットを支えるだけ。

 疲れ切っていて、余計な力みが入らなかったからこそ、勇斗のスイングは野球選手として、理想的なものだった。

「――なっ!」

 あれだけ満身創痍の勇斗が反撃してくるなど、まったく予期していなかったリザードマンは、驚きに表情を歪めた。

 直後、リザードマンの胴体は勇斗のバットによって一薙ぎにされ、その身体はそのまま上半身と下半身とに真っ二つに分離する。

「……シャ? なんで? どうして? もう力は残ってないはずなのに……」

 意味がわからないと言った様子で、リザードマンは己の下半身と勇斗とを交互に見定めてわめいた。

「シャ、シャアアアアアアアアアアアーーーーー!!!!!!!!!!」

 やがて、リザードマンは奇声を上げながら、その身体が粒子へと変化し、空気の中へと溶けてゆく。

 首にかけていたペンダントは、支えを失ったせいで地面へと落下し、その衝撃で粉々に砕け散ったのだった。

 完全に力を使い果たした勇斗は、立っていられなくなり、そのまま地面に倒れた。

「勇斗! やったわ! アンタ、ホントはすごい人間なのかもね!」

 リザードマンを両断したバットは、勇斗以上に嬉しそうに声を上げて喜んでいた。

 しかし、今の勇斗にはそれに構うだけの気力は残されていない。

 仰向けで地面に転がっている勇斗は、血の色と同じくらい真っ赤な夕日をぼんやりと眺めていた。

(そういえば、あのときは、打った瞬間気を失っちゃって、打球の行方を見届けられなかったんだっけ……)

 過去の記憶に思いを馳せながら、勇斗の瞼がゆっくりと閉じていく。

 今日の勇斗は、三年前とは異なり、自分のスイングがリザードマンを消滅させた、という結果を見届けることができた。

(あれから、少しは成長したってことなのかな……)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ