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普通と少年


晴天。

それはもう絵に描いたような、気持ちの良い朝。

そんな空の下、彼『須賀崎 青』は昨日の摩訶不思議というべきか、面白くもあった出来事を一人、歩道を歩きながら思い出していた。


どうやら、自分は《サタナ》とかいう存在らしい。詳細は不明。


そんなことをいうと、彼は変な人だと思われてしまうかもしれないが、残念ながら、これはれっきとした事実。

そのことを、彼の先輩で彼と同じ《サタナ》である少女「甘木 志英瑠」と、二人を狙ってきた妙なロボットこと【サタナ狩り】の言葉や存在が肯定していた。


だからといって、彼自身それを鵜呑みにしているわけではない。

だからとりあえず、妥協点として自分は魔法使いらしい。という事にしてみよう。


そして、本日から遂に天木志英瑠の魔法使いやめたい願望を叶えるべく協力することになったのだが、


(何をするか皆目見当がつかない…)

彼は1人、考え続けていた。


そんなとき

「あれ?青君!今日遅いんだね〜」

青は、後ろからそう彼を呼ぶ快活な声を聞き、振り返った。

そこには、小柄な高校一年生の少女が1人。

何故高校一年生とわかったのかというと、その小柄な少女は、青と同じクラスであるから。

『終 フィオレンティーナ』

彼女はイタリア人の母と日本人の父を持つハーフで、胸のあたりで綺麗に切り揃えてある赤毛や、グレーの瞳は生まれつきのもの。

…と、一昨日の自己紹介で言っていた。

「終さん おはよう」

「フィオでいいよ〜」

彼女はそう言いつつ、彼の隣に並んだ。

「今日遅電?いっつも速いのに」

彼女は不思議そうに青に尋ねる。

「いっつもって、まだ学校始まって1週間くらいしか経ってないのに」

「…あ!そっか〜」

彼女はそう言うと、恥ずかしそうに笑った。高校生にしては無邪気な笑顔に、少しばかり癒される。

「そういえば青君はもう学校慣れた?」

「慣れた…っていうか、同じ中学の人が多いから、高校生活の始めの時期としては新鮮味に欠けるかな」

青は持ち前の人受けの良い笑顔で答えた。

「そうなんだ〜

私は今年からこの街に住んでるから、今こうやって歩いているのも、授業中の窓の景色も、ぜーんぶ新鮮なの」

彼女は、キラキラした瞳で言った。

彼がとうに失くしてしまった感情を、まるで周りに振りまいていくように。

「フィオさんって、楽しい人だね」

「そーお?ありがとぉ〜!」

彼女は笑っていた。



あっという間に放課後だった。

青は、これから志英瑠のもとで起こるであろう事を考え、溜息をつく。

「じゃーなー青ー」

「うん、また明日ー」

彼は、一足先に身支度を整え終えた友人にそう言うと、自身も志英瑠のもとへ、重い足を運んでいく。




志英瑠はまだ居なかった。

よく考えれば、昨日だって居なかったのだから、彼女は教室で友達とずっと話をしているような輩なのかも知れない。

彼はそう思いつつ、近くのパイプ椅子に腰掛け、彼女の到着を待った。


その間に考えてしまうのは、やっぱり魔法の事。


昨日、須賀崎青は一体、何をしでかしたのか。


それは正直なところ、彼自身よくわかっていなかった。


(確か、不思議な本を出して…)

でも、どうやって出したかはわからない。


(そして、呪文みたいなのを唱えて…)

でも、何を唱えたのかはわからない。



所謂、無意識の行動なのだと思う。


昔、記憶喪失の人が、無意識に記憶を失う前の習慣を行う。というような話を聞いた事がある気がする。


それほどまでに、無意識でも行ってしまう事は、自分の体に染みついているのだろう。


そして、彼にとってそれは


(…間違いなく、あの時のーー)


「須賀崎青!」

彼の思考は、唐突に現れた志英瑠の大きな声によって絶たれた。急いで来たのか、少し息が上がっている。

「…こんにちは」

青は、そう小さく呟いた。

「相変わらずノリが悪すぎるわね…まあ、別にそれはいいや。」

志英瑠はそう言うと、荷物を乱雑に床へ置いて、青にグイと近づいた。

「…須賀崎青。」

「…なんでしょうか」

青の背に、変な汗が流れる。

そして、彼女は言い放った。


「…勉強するわよ!」

「…え?」

意外に普通な内容に、青は間の抜けた声を上げた。

「え?じゃないの。君はね、相当な無知なの。だからね、勉強するの。」

「いや、あ、はい。わかりました。」

青は小さく安堵の溜息をついた。

彼女のことだ、いきなり突拍子もないことを言い出す…とばかり思っていたが。

「案外普通…」

「…何か言った?」

「…いいえ」

青は小さく首を振り、志英瑠の方を見て一礼。

「是非ともご教授ください。」

「よろしい」

彼女はそう言って笑った。が

「って思ったんだけど、準備したいことがあるから…君の質問等々にはこの『なんか色々教えてくれるんですくん』が答えます。」

と言い、ポケットから手のひらほどのサイズのグレーの箱を取り出した。

デジャブか

「じゃ。」

そして彼女はまるで何の問題もなかったかの様に、そそくさと教室を出て行った。

「…わけがわからん」

前言撤回。彼女は普通ではない。


そんな訳で、小さな箱だけ託された青は、とりあえずそれを手に取る。

「昨日の白い箱は確か、力を込めただかなんだかで使ったんだっけ」

そう呟き、青は右手を箱にかざし力を込めようとするが、昨日力を込めた後意識を失った事を思い出し、右手を引っ込めた。

そして思い出されるのは、昨日の志英瑠の言葉。


「あんた見た所あんまり体強くないでしょう?」


(…そんな事、わかってる)

「俺が、一人で逃げたせいだって」

青は小さく呟き、溜息を吐いた。

そして、その溜息を拭うように、彼は再び右手を箱にかざす。

(きっと昨日は、いきなり力を込めたのがいけなかったんだ。ゆっくり力を込めれば…)

彼はそう思い。徐々に手に力を込めたいった。

すると、箱は段々と白く発光していく。それは、箱の色がわからなくなるほど。

そして、それは直視できないほど輝きを増し、とうとう風船のように破裂する。

「うわっ!」

その衝撃で、青は倒れこんだ。

昨日同様、立っていられなかったのは少し悔しいが、今は少し疲れてはいるが、昨日みたく意識を失うほどではないので良しとしよう。


そして、一呼吸ついた彼は、破裂した箱の方を見る。

するとそこに箱の破片はなく、代わりに一冊の本があった。

青が恐る恐る近づくと、その本のタイトルが


『猿でも分かる魔法の初歩』


であることが視認できた。

「いや、なんか色々教えるんですくんが本でいいのかよ」

彼は少々のイラつきと、恐ろしい物でなかったという安堵感から溜息をつく。


彼はその参考書的な本を拾い上げ、中をパラバラとめくった。

「…え」

すると青は、小さく声をあげる。

その本の中身が…日本語でなかったのだ。

(英語…いや、イタリア語?まあどっちにしろ)

「読めるかよー!!!!」

青は、志英瑠に届くようにと大声で言い放った。


超遅くなりました。

志英瑠ちゃんは自由人です。

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