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約束と少年

「いつまで寝てるつもり?

生まれたての赤ちゃん?それともご老人?あ、もしかしてもう死ぬ感じ?それならあんたのママでも呼んできた方がいいのかしら?御宅の息子さん死にますよーって?あたしは嫌よ?【サタナ狩り】をあたしの代わりに倒してくれたからって別にあんたに恩を感じてるわけじゃないし、あたしあんたと特別気が合いそうには思えないし、正直あんたがこの部に来なかったら一生関わらないだろうし、…ってマジでまだ寝てるの?」

そこまでいいきると、志英瑠は溜息をついた。

彼女は、かれこれ1時間は寝ているであろう彼、青に大声で話しかけ続けていたのだ。

先ほどの喧騒からは一転。今の保健室には彼女の声だけが響いている。その中で、沈みかけの太陽は、彼女の騒がしさとは正反対の雰囲気を醸し出していて、そんなミスマッチな雰囲気が青には堪らなく不愉快だった。

「…起きてますよ」

青は正直に彼女に答えた。声に少し苛立ちを含ませて。

「はぁ…だったらさっさと返事しなさいよね!大声出すのは疲れるのよ!」

「そんな怒涛の勢いで悪口を言われていて返事なんてできるわけないし、大声を出して欲しいと頼んだ覚えはないです。」

という本心は胸にしまって、彼は素直に はい。 とだけ答えた。

「わかればいいのよ」

彼女はそう言うと、満足そうに青の隣のベッドに腰掛け、深く溜息を吐いた。

「…で?どうゆうことなの?あれは」

「…は?」

唐突な問いに、青は腑抜けた返事をした。

「あれ、というのは…なんの…」

彼は、志英瑠を疑う様に問うた。

「何よ、とぼけるつもり?魔道書のことよ!あんた、あたしがまだ何も教えていないのに何故あんなことができたの?あの魔道書は誰の物?他人の物だとしたら、何故あんたが呼び出せたのよ?」

志英瑠は立ち上がり、彼の手首をベッドに抑えつけるように押し倒して問うた。その手首に込められた力強さ青は少し顔をしかめる。

彼女は、とても必死だった。

「あぁ…あれはやっぱり魔道書なんだ。」

それとは反対に、青は冷静に彼女の言葉を聞いていた。

「他人の魔道書っていうのは、呼び出せないものなんですか?」

青は、手首を抑えつけられ、押し倒されているという状況を無視するように、彼女にストレートに疑問をぶつける。

その行動は、まさに彼らしいものだった。

自分に飽きている。自分に興味がない。

彼が好むのは、刺激だったから。彼の知らない世界という刺激。

「…そうよ。まぁ、もし魔道書の持ち主に、波長が合う…というより魔道書の持ち主に近い存在が、その人の魔道書を呼び出すための呪文を、イントネーションとか、声の音っていうのかしら…うまくいえないけど、とにかく持ち主そっくりに言えたらまぁ、呼び出せない事もないかもね。そんなことができるのはーー」

「…持ち主の家族…とか」

青は、志英瑠の言葉を遮り呟いた。そして、夕日の方に目を逸らす。彼の感情の見えないその言葉に、志英瑠は彼の顔色を伺おうとするが、彼の表情は眩しい夕陽に照らされうまく隠れてしまっていた。

「…そうね。」

志英瑠は彼を気遣い、それ以上は言わなかった。

沈黙が部屋を占領する。夕日の眩しさが目に染みる。乾いた空気だけが、沈黙の空間の中で、夕日による暑さを含んで部屋を出入りしていた。沈黙。ただただ、沈黙。

どれくらい時間が経っただろうか。

沈黙を破ったのは志英瑠だった。

「…えっとさ、今、これ床ドンってやつなのかな?」

彼女は青の様子を見るため、当たり障りのない話題を振る。かといって、どうでもいい事ではない。彼女的には、いつ終わるとも知れない沈黙の中で、青を押し倒し続けるのは、正直、

(…超恥ずかしい!)

志英瑠は、心の中で叫んだ。それはもう、絶叫。

しかし、自分で急にやり始めた事だ。自ら自分の行動を途中で訂正するという事は、彼女の性格上堪らなく不愉快なことである。

そんなこんなで思い悩む彼女は、「やめてください」とそろそろ言ってくれるであろう青を見つめた。

「…そうなんですか?」

しかし志英瑠の想像通りにはならず、青は律儀にも普通に彼女の言葉に返事をした。

「はぁ?この状況で、普通に返事返すか?いやいや普通はあたしの行動についてまぁ、やめてくださいとか直接言うまでは求めちゃいないけどさ、少なくともそれとなくこの状況を批判するとかさぁ…それなのにそうなんですか?だって?…あたしを怒らせたいのかな?あたしの考えていることをわかって言ってるよね?性格悪っ」

っという本心は胸に…

「…性格悪くてすみませんね」

…しまえていなかったようで、青は苛立ちを込めて志英瑠に言った。

「…いや、別に…」

志英瑠は小さくそう言い、彼の手首を離し、隣のベッドに移った。

「…ごめん」

彼女は小さく呟いた。性格云々と散々言っていたのに、その言葉は彼女の口からするっとでた。

「別に大丈夫ですよ、」

青は起き上がり、志英瑠に笑顔を見せ言った。

そして、志英瑠は場の空気を一新するように深くため息をついた。

「で、話を戻すけど。…魔道書。

あれは、あんたの家族のもの。

…そうなんでしょう?」

志英瑠は、青を気遣うように、それでいて迫るように問う。

「…」

青は何も言わなかった。

それに答えること、それは決してできない訳ではなかった。

言えない ではなく 言いたくない。

(このことを言うくらいなら、俺は)

「……俺、この部入ります。

先輩に協力します。だから…この話。保留にできまーー」

「わかった。これからよろしく黒くん。」

ーー即答。

「……早いですね。あと俺黒じゃなくて青です。」

青は志英瑠に少し遠慮がちに声をかける。

「そりゃあ、ずっと魔法使いをやめることを目指してきたんだもの。さっき生じた疑問なんて正直どうでもいいわよ。あと、名前はわざと間違えました黒くん。

…とにかく、約束しましょ?あたしはあんたに深入りしない。あんたはあたしに協力する。」

志英瑠は、青と出会った頃のような快活さを取り戻し、手を伸ばして彼に同意の握手を求めた。

それを青は恐る恐る握る。あえて先程の言動には触れなかった。

すると、急に志英瑠の手を握る手が強くなる。

「あの…先輩。痛いです」

青は、彼女の笑顔を貼り付けたような顔を見つめ、助けを求めた。

「やっぱさ、あんたとさあんまり気が合わなそうなのよね」

彼女はその表情のままで、きつい言葉を放っていく。

「…あっと…そこら辺は、ちょっと我慢していただいて…って痛っ!!」

更に強くなる手に、青は声をしかめた。

「…そういう態度がムカつくの」

「……すみません」

青は、一向に変わらない彼女の表情に少しの恐怖心を覚えつつ謝罪した。


日はもう、落ちていた。







どうでもいい。というのは嘘だ。

本当は、気になって仕方がない。

「あいつは…一体何者なのよ」

月明かりの差し込む自宅の自室。

志英瑠は、少し不気味さも感じられる三日月を、じっと見つめ続けていた。

大変遅くなりました…

閲覧誠にありがとうございます。

あんまり約束してないのに約束とかいうタイトルですみません

次話からは、多分もうちょっと面白くなると思いますのでご期待ください。

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