《サタナ》と少年
青が目覚めたのは夕日の当たる保健室のベッドの上。彼はとりあえず体が重く起き上がる余裕もなかった為、この状況に至った顛末を考えることにした。
(確か…変な箱から赤い宝石が…《サタナ》とか言うよくわからない…)
「目、覚めた?」
青が疑問符ばかりの思考と格闘していると、不意にすぐ隣から志英瑠の今までとは少し違う、落ち着きのある声が聞こえてきた。保健の先生が見当たらない為、青をここまで運んだのは彼女だろう。
「はい…すみません、迷惑かけてしまって」
「本当よ、魔力解放しただけで倒れるとか…あんた見た所あんまり体強くないでしょう?あたしの協力するならもっと頑張りなさいよね」
協力するとは言ってないんだけどな… 青はそう思いながらも小さく返事をした。
「それにしても…体弱いのに《サタナ》はちょっとキツイかもね」
志英瑠は先ほどの命令口調から急に真面目な様子になる。
「あの、さっきから言ってる《サタナ》って何なんですか?」
青は少し躊躇しながら志英瑠に問うた。
すると、志英瑠は小さくため息をつく。
「ほんっとに魔法に関する知識はないのね!…まぁ良いわ、説明するつもりだったしね」
志英瑠はそう言うと、手のひらを青へと向けた。すると青はゆっくりと起き上がる。これも、志英瑠の魔法だろう。
「人間は多かれ少なかれ、誰しも『魔力』詳しく言うと『魔力を貯める袋』みたいなものを持っているの。魔法を使うごとに、袋から魔力は減っていき、空っぽになると自動的に空気の中から魔力を吸収する仕組みなの」
スラスラと説明する志英瑠だが、青は志英瑠の口から出る不思議な事実に動揺していた。
「そして《サタナ》、そう呼ばれる人達は普通よりも美しい容姿を持っているっていう特徴もあるんだけど、一番の違いは体内で『魔力を、常時作れる』というところ。だから普通よりも大量に魔力を持ち、魔法をたくさん使えるのよ。そして、あたしもその《サタナ》の1人」
志英瑠はそう言って、青に少し悲しそうな笑顔を向けた。
「そして、《サタナ》は『魔王後継者候補』」
「…魔王…?」
青は小さく志英瑠の言葉を繰り返した。
「えぇ、【アリスィア】と呼ばれる言ってしまえば《サタナ》の究極形のような力を持ち、空気中に魔力を送っている人、その後継者候補が《サタナ》、そしてあたし、そして…須賀崎 青、あんた」
志英瑠はそう言って青を今までのように指差した。
「あたしの知ってる《サタナ》の正体はこれくらい。次はあんたの番よ、ねぇ、
『何で魔法の存在を知っていたの?』」
夕焼けが照らし出し、2人のいる保健室は赤く染まっていた。あの《サタナ》を示した宝石のように。
チートになりたい(切実)