少女の魔法と少年
「あたしは、魔法使いをやめたい!」
彼女、「甘木 志英瑠」は彼、「須賀崎 青」を指差しながら言い放った。
言い放った本人は満足なようで、その後10秒程度その体勢を維持していたが、いつまでたっても言葉をかけられた青は無反応であった。
「あたしは、魔法「すみません、ちゃんと聞いてました。」
志英瑠が再び叫ぼうとしたとき、やっと青は口を開いた。
「魔法使いやめたいんですか、頑張ってください」
青はそれだけ言うと、帰り支度をし教室の扉へと向かった。
「え、まっまって!」
志英瑠は慌てて引き止める。
「あたしに協力しようとか思わないの⁈」
「協力って、俺魔法とか使えませんし…」
青が小さくため息をつきながら言うと、志英瑠はそれを鼻で笑い、青を指差した。
「じゃあ、あたしがあんたを魔法使いにしてあげる!」
「…は?」
志英瑠のこの発言には、流石の青も驚きを隠せなかった。
「そしたら、あたしに協力しなさい!」
「すみませんお断りします。」
そう言って青は教室を去ろうとする。
「まちなさい!」
志英瑠はそう叫ぶと、右手を上に上げブツブツと唱え始める。その不思議な光景に、青は思わず足を止めた。
「ヴォラーレ」
志英瑠が何かを唱え終わりそう叫ぶと、急に青の体は宙へ浮かんだ。
「え、ちょっちょっと!何ですかこれ!」
青が慌てる様子を見て、志英瑠はクスッと笑い、上げていた右手を下げた。
すると、青はゆっくりと床に降りていく。
「魔法の存在を知ってても魔法の知識はないのね」
志英瑠はそう言って、青を見つめた。
「あたしの話だけでも聞いて、それからあたしに協力するか判断してちょうだい。」
志英瑠が青に向かいそう言った瞬間、無機質なチャイムの音が教室内に響く。完全下校のチャイムだ。
そのチャイムを聞き、志英瑠はそそくさと帰り支度をすると、青を指差し言った。
「明日も来なさい、でないと…」
志英瑠はそう言いながら、右手の親指を上げ、その親指をゆっくりと下に回していく。
「失礼いたしました。」
志英瑠の親指が真下になる前に、青は教室をそそくさと出た。そして、魔法撲滅部から一刻も早く離れたいかのように、駆け足で学校を後にした。
須賀崎 青 は魔法を信じていても、お化けやら、妖怪やらの類は一切信じていなかった。理由は単純、魔法は存在し、お化けやらは存在しないと教えられたから。
現に、魔法はさっき志英瑠のを目撃した。
だからより一層、青の中でお化けやらは存在しないものという考えは事実である。ということになっていた。
だから、いつも何となく感じる視線も気のせいである、と考えてしまっている。
その視線が人や動物でない事は確かだ。そのことは何年も前に検証済みである。
だとすれば、彼の中での心当たりは一つ。
魔法使いだ。
けれど、魔法使いが自分をつける理由が無い為これは違う。
だとすれば、自分の気のせいだ。
彼はそういう結論を出していた。
そして彼は今日も、気のせいという名の視線に追われて家路につく。
「対象ヲ発見、指数ハ現時点デハ不明デスガ、《サタナ》デアルコトガ判明、引キ続キ調査ヲ続行シマス」
「了解、任務を続行してください。」
青の背後100m、そこで抑揚のないロボットの声と少女の声がした事を、青を含め、誰もが知らなかった。
更新おそくなりました。2話です。