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ファンタジーにおける名探偵の必要性:再考  作者: 照菜咲
大樹が見つめた審判の問題 出題編
9/11

大樹(3)

 昼になったので広場に戻ってみると、治療院の近くですっかり頬を赤くしたキリオとカーナがいた。ふたりの表情や手に持つ沢山の植物を見る限りどうやら非常に満足したものになったようだ。


「よう。ずいぶんとたくさん集めたもんだな」


 俺の声に気づいて二人がこちらを向く。満面の笑みを隠そうともしないその表情にこちらとしても笑みが浮かぶ。


「ええ、大満足よ」


「私としても、王都の人からいろんな話が聞けて勉強になったわ。やはりここで独学じゃあいくらなんでも限界が出てきて当然ね」


都会行きたい、とカーナは首をふってため息をつく。

それから彼女は地面に広げてあるシートにもっていた植物の一部を並べていく。キリオもそれにならい同じような植物を並べていった。


「これは?」


「天日干しにしてるのよ。この植物は日光に当てて乾燥させてから使うの。これが朝言ってた処理ってやつね」


一通り並べると二人は治療院の中へ入っていく。


「ヴァンは先に宿屋に戻ってー」


「他にも魔術で凍らせたり、漬けたりしないといけないからもう少し時間がかかると思うわ。食事をするなりなんなりして時間を潰すのね」


カーナは言い残すと扉を閉めてしまった。別に焦らずとも午後にはキリオと歩く約束なので、まあいいかと思いながら足を宿屋へと進めた。


 宿屋に着くと、ナガレがむっしゃむっしゃと昼食をとっている光景がまっさきに俺の目に飛び込んできた。食事をしていること自体は別にどうでもいいのだが……その量が俺を驚かせる。すでに空になった皿がいくつか重なっているにも関わらず、まだ食べている。


「ずいぶんとまあこんなに食べますね」


「ん? あぁ、ヴァンさんッスか。前は職業柄あっちこっち移動したり体使うことが多かったッスからねー。食べれる時に食べれるのが癖なんスよ」


 吟遊詩人だって、意外と体使ってるんスよ? と彼女は笑って食事を続ける。その様子をメイラが満足げに見ていた。


「作った料理をおいしく食べてもらうってのは、作る側としては嬉しいもんだよ。量が量だからって追加料金もらってるのもあるけどねえ」


 ちゃっかり追加料金を受け取っていたようだ。この女性も経営者として抜け目ないところがあるのだと俺は思った。この宿屋を二人で切り盛りしている以上、その手腕は確かだとは思っていたけど。


 ミーシャの姿が見えないが、カウンター奥の厨房か、もしくは外にでもいるのだろう。


 俺は席に着くと、キリオ達が戻ってきたら昼食を持ってきてもらうよう頼む。その横でナガレは昼食を続けている。まだ食べるのか……。


「あら、早いのね」


 声がした方に目を向けると、アリアとキースが二階からこちらへ下りてきていた。キースは相変わらずの仏頂面であり、笑顔を浮かべるアリアと対照的である。


「昼食を終えたら、私たちとキリオさんと一緒に行きましょう。昨日のナガレさんの弾き語りに関連して、一つだけ教えておきたいことがあるの。そういえば、彼女はどこかしら?」


「今、カーナさんと薬草の処理をしています。干したり凍らせたり、いろいろあるんですねえ」


「だからこそ知人はぼやいてたんだけどね。あら、噂をすれば」


 アリアの視線の先には、やり遂げたという顔で少し汗をかいたキリオとカーナの姿があった。俺たちに気づくとすぐこっちに来て座る。まもなく、二人が来たことを確認したメイラが昼食を持ってきてくれた。


「先に食べていてくれても良かったのに」


「そういうわけにもいかないだろ。せっかくの機会なんだしさ」


 フン、と顔を背けたキリオに苦笑しながら食事をとる。その顔が赤くなっていることなんて、見るまでもなかったから。






 食事が終わると、カーナはまだやることがあるからと治療院へ戻っていった。


「ふふ、お邪魔するわけにはいかないからね。それじゃあ」


 むしろ、最後に残した言葉が本当の理由だろうが。


 とはいえ、せっかくのキリオとの時間だ。彼女が気を使ってくれたのも実にありがたい。まずはアリア達と合流しないと。


「えーと、あれ?」


 さっきまでそこで食事をしていたのに。キース共々いなくなったアリアの姿を探してキョロキョロしていると、俺たちの皿を片付けたメイラが声をかけてきた。


「おや、彼女たちならとっくに外に出ちまったよ。あんたらがイチャイチャしてるもんだから、『雑貨屋で待ってる』と言伝して先に行っちゃったよ」


「い、イチャイチャなんてしてませんから!」


 毎度のごとく真っ赤になったキリオが否定する。あ、ちょっと涙目だ。しかし先に外に出てしまったか。あまり待たせるわけにも行かない、早く行くとしよう。






「あら、来たわね」


「お待たせしてすいません、アリアさん」


 風に金髪をなびかせたアリアが、笑って俺たちを出迎えた。その横にはキースの姿もある。雑貨屋に来た俺たちに彼女は店の方を手で示した。


「まずはお買い物をしましょうか。ロイさん、チコの実を4人分、お願いします」


「あいよ! なるほど、2組用にですか。優しいなあアリアさん」


 威勢良く返事をしたのは雑貨屋の店主。少し禿げかかった赤毛の、中年の男だ。大柄で少し日焼けした肌の彼は笑いながら奥の棚をごそごそしていた。


 取り出されたのは手のひらサイズの実。それが袋から鉄板にドバっと入れられるとロイは魔術で火をともし、実を加熱し始めた。


「別に生でも食べられるんだけどな。加熱したほうが甘くなるんだ」


 熱されて実は赤から薄い桃色へ色を変えていく。綺麗な色の変化だと思うが、よく考えるとイチゴみたいだ。実の形も大きさもイチゴに似ているし。


「よしできた、さあどうぞ」


「ありがとうロイさん」


 そう長く加熱していないが、色がすっかり変わったチコの実をロイが木で出来た容器に4つぶん、分けて入れていく。

 料金を払うとアリアはニコニコしてまずは二つ、それぞれ両手にもった容器を俺たちに差し出した。


「はい、どうぞ。ヴァンさん、キリオさん」


「あ、どうも」


「ありがとうございます、アリアさん」


 俺たちが受け取ったあと、残る2つを持ち、そのうち一つをキースの手に無理やりもたせる。キースは嫌そうな顔をしていたが、アリアはまったく気にしない。


「いや、俺はいい。わかっているだろう?」


「なによ……」


 そこで彼女は、初めて顔をしかめてみせた。今までの明るさがすっかりなくなり、どことなく厳しいようにも見える。


「見たらわかるでしょ、桃色になってるし問題はない。なんなら私のものと交換する? 毒なんて入っていないわよ」


 さすがに彼女に厳しく言われたためか、キースはそれ以上拒もうとはしない。しかし、その手に持っているだけで実を手に取る気はなさそうであった。


「さあ、食べて食べて。おいしいわよ」


「ああ、味は保証するぜ!」


 アリアとロイの後押しを受け、俺たちは実を一つとると口に入れた。

 これは、ほんとにイチゴみたいだ。甘さの中に酸味もある。しかし、驚くべきことに普通のイチゴよりはるかに甘い。そう、すでに練乳をかけているかのようだ。


「わあ、おいしいです!」


 キリオはとても気に入ったようで、次から次へと口に運んでいる。

 しかし、チコの実というと。


「チコの実って、そういえば昨日のナガレさんの話に出てきた、アレですよね。まさかここで食べれるとは思っていませんでした」


「森の中に自然に成っているわよ? あとで探してみるのもいいんじゃないかしら」


 パクパク食べながら昨日の話を思い出す。確かこの実、キリオが昨日食べたそうにしてたんだっけ? ええとなんだっけか、あの時アリアは確か。






『チコの実はね、あの伝説から想い合う二人で食べてお互いの気持ちを確認できるっていう風習があるのよ』






……あ。

思い出した後には遅く、もういくつか食べてしまっている。隣のキリオを見るとチラチラとこちらを見ながら食べていた。俺が手を止めると、キリオも手を止める。その頬は、若干赤い。


 それをニコニコと見つめるアリア。微笑みながらも、どこか寂しそうに一人でチコの実を食べていた。


お久しぶりです。

遅くなって本当に申し訳ないです。やはりストックがなくなったとたん一気にペースが……


事件が起こるのも間近。

せめてそこまで早くたどり着かねば。

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