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ファンタジーにおける名探偵の必要性:再考  作者: 照菜咲
大樹が見つめた審判の問題 出題編
8/11

大樹(2)

私がニコニコでみている「超幻想郷級のダンガンロンパ」が更新されていました。

だったらこちらも更新するしかないじゃない!

たとえストックが切れたとしても!

 日の光を浴びながら、俺は森の中を歩いていた。人の手が入ってない自然の形というのは、かつて生活していた村を思い出してしまう。考えてみれば、村と王都、生活する場が随分と変わったものだ。あの日俺を王都へ行かせてくれた両親には改めて感謝の気持ちがわいた。今度折りを見て帰ってみたいな。


 人の手が入っていない、ということは道も舗装されていないため王都の道に慣れていると早くも疲れてきそうだ。そこまでヤワではないが。


 幸い、木々の間にロープが張られている。おそらくこれは観光客用の、順路を表すものなのだろう。おかげで大樹までの道のりは迷わなくても済みそうだ。


 しばらく歩いていると、少し開けた場所に出た。木々がないここは川原だ。なるほど、確かにここは石や岩などが多いし、水が氾濫しようものなら木はあっという間に流されてしまうだろう。自然の流れによって出来たこの状態であると考えると、やはり自然の力の大きさに改めて感服してしまう。


 しかし、見たところ


「なるほど。こりゃ無理だわ」


 目の前には、地図に書いてあったとおり川が流れている。そして、メイラの行っていたことが誇張でも何でもないと理解した。

 

 まず、でかいのだ。この川。

 聞いていた通り幅が広い。両岸が近づいているところでさえ飛び越えようとするのは不可能だろう。深さもそこそこあり、岸の方はせいぜい膝程度だが、真ん中あたりはそうもいかない。俺ぐらいの身長じゃあ軽く全身が水の中に入るだろう。


 おまけに、流れが速い。さすがに泳いで渡るなんてことをわざわざする気にはならないが、だからといって泳ぐのもできなくはないが一苦労だろう。あれじゃあ凍らせて渡るなんて漫画みたいなことはできそうにもないな。


 辺りを見回すと、少し離れているところに橋が架かっているのが見えた。あれは地図に書いてあった方の橋だな。回り道もしてないし、広場から大樹の方角にまっすぐ進んできたからな。あの大きさは十分に周りの森から頭ひとつ飛び抜けており、目印としては申し分ない。

 そのまま、大樹の方へと俺はまっすぐ歩いていった。橋を渡り、大樹が見える方向へ木々に張られたロープに沿って進んでいく。






 しばらく歩いたあと、ようやく目的地に到達した。


「これは、でかいな……」


 目の前まで近づいた大樹は、もはや見上げないとその全体像が見えない。その大きさに俺は改めて嘆息を漏らした。

 でも、一方で不思議なことがある。


「なんだ? この壁」


 大樹を中心として、ぐるりと円状に巨大な壁がそびえ立っている。灰色の無機質な壁が侵入者を拒もうとしているかのように。しかし、この壁どこかで見たことがあるな。このコンクリートにも似たような壁を。


「あ」


 そうだ、思い出した。

 地下迷宮の事件で見た、合成壁に似ているんだ。


 合成壁。それは石の粉と水を原料に、土の魔術で作られる壁。たしか、あの時一緒にいた冒険者のシロナは「ディガーが掘った穴が崩れないように固める壁」と言っていたな。確かに頑丈ではあったはずだが、即席で作るものだとも言っていたように思う。


 即席でこんな高い壁を作れるものか?


 目の前の壁ははしごをかければ乗り越えられるなんて生易しい高さではない。建物で言うとしても10階建ての建物を超えるんじゃないかという規模だ。


 それに、壁の高さがあまりにも高いゆえに、遠くからでは大樹の幹や根を隠してしまいよく見えないだろう。景観としてはあまりよくない気もするのだが。


 唯一例外なのは、橋をわたってから道なりに来た今、俺の目の前にある部分。そこだけは壁を通ることができるようになったアーチ状の入口がある。高さは大の大人でも十分通れるほどで、横幅は大人5人が横に並べるくらいか。


 夜間などは通れないようにしているのだろう、木製の扉が備え付けられているが今は大きく開け放たれている。


「考えてばかりでも、つまらないな」


 俺はゆっくりと足を進め、門をくぐる。


 まっさきに目に入ったのは言うまでもなく巨大な大樹。


 その存在感に圧倒されそうにもなるが、一方でどこか神々しい感じもする。根をどっしりと大地にはりめぐらし、悠々と枝を広げて木の葉を風に揺らす様は気品が感じられるようだ。


 大樹を中心に、円形の広場になっておりその周囲は俺が今しがた通った門の部分をのぞき全て壁で覆われている。


 そこには、二人の人影がいた。

 一人はビッカーソさん。わざわざ持ってきたのだろう、木製の……何と言ったか、台にキャンバスを乗せ、自分は石でできているらしい直方体の台に座り絵を書いている。遠目から見ても、そのキャンバスに描かれているのは目の前の大樹だとわかる。


 やはり昨夜見せてもらったナガレの絵といい、ビッカーソさんの腕前はなかなかのものだ。


 もうひとりは、小柄で黄色いローブを着た白髪の老人。

 俺が来たことに気づいてか、ゆっくりと振り向くその顔には多くのしわがあり、顎に生えた長く白い髭が本で読んだような老魔法使いを思わせる。目は細いが瞳は穏やかでこの人物の性格もあまり厳しいものではないとわかった。


 何より特徴的なのはその耳だ。丸みを帯びた俺のような耳ではなく、先が少し尖っているように見える。おそらく、エルフの血が濃く出ているのだろう。俺にもエルフの血が流れているそうだが、そこまで強く体には出ていない。


「おや、ようこそ大樹のもとへ」


「どうも、こんにちは」


 老人がこちらへ近づいて来る。見た目は相当年をとっているのだが、足取りは軽くそこまで老いを感じさせない。杖もついていないし、歩くのには苦労してない様子だ。


「ワシはローベルトと申します。このエルワ森林公園の、管理人をしております」


「どうも。ヴァン・ホームズです」


 深々とお辞儀するローベルトに、こちらも礼で返して名乗る。俺の名前を聞いて、ローベルトはわずかにその眉を動かした。


「そのお名前、もしや、ここらの新たな領主となった……?」


「そうです。といっても、まだまだ運営まで完全に手が届いているわけではないんですけど」


 突然領地を与えられ貴族になっただけで、まだ俺はほんの若造に過ぎない。ましてや領地経営のやり方なんて勉強真っ最中なのだ。


 一方でローベルトはしばらく俺をじっと見たあと、わずかに表情を緩ませた。


「どうやら、あなたは優しい方のようだ。前領主の方も素晴らしい人であったが、良くない人間が跡を継ぐことにならなくてよかった。いやはや、ワシはほっとしました」


 彼は大樹を見上げ、ぽつりぽつりと語りだす。


「この自然公園はたくさんの種類の植物が自生する、貴重な場所です。それにこの大樹も」


 言葉を切ると、彼は目の前にそびえる大樹を見上げた。今もなお木の葉を風に揺らすその姿を、目を細めながら眺めていた。


「ここが昔、火事で焼けてしまったことはご存知かな?」


「ええ」


 ひどい山火事だったらしい。辺りは全て焼け野原と化し、ここまで森が再び育ったのは奇跡とも言えるほどだったそうだ。


「その時、ワシはここにおったのですよ。まだ子供のころでしたがの」


 え、という顔をする俺に、笑いながらローベルトは自分が軽く100年以上生きていることを告げた。実際の年齢はすでに数えておらず覚えてないそうだ。この長命はエルフの血が強く出た先祖返りの結果だろうと彼は笑う。


 続けて、彼の子供時代、この地域が大火事になった時のことを話してくれた。大火事のことは文献で知っていたが、まさかその原因が子供によるものとは。もし俺がきちんと制御や注意を学んでいなければ、同じことを起こしていたかもしれない。持っている力が強いだけに改めてそう思えた。


「その時の木というのが」


「そう、この大樹ですじゃ。いやはや、ワシはこの大樹に命を救われたといってもおかしくはないのかもしれんのですよ。あのあと、気絶していたワシは救助されたのですが、起こされた時に周りを見て、かなり動揺したものです」


 それ以来、森林の再生にも力を注ぎここが自然公園となってからは管理人として過ごしているという。もっとも、けっしていいことばかりでもなかったそうだ。


「ワシの話を聞いた馬鹿な奴が、この木を燃やそうとしたこともありましての。魔術を使おうとしたもんじゃから、ワシが慌てて相手に土の魔術で妨害し、やめさせたのです。いやはや、あの時は本当に肝が冷えましたわい」


 そんなことがあって、彼は知人のツテでディガーに依頼し、大樹の周りを壁で覆ったそうだ。時間をかけて作ったためあの壁は通常の合成壁よりもはるかに高く、そして頑丈に作られているのだそうだ。


 その強度は魔術を放っても受け止められるほどのものだそうで、おかげで今まで大樹を守ることができたそうだ。たしかに、この壁があれば魔術を外から放っても防がれるし、直接魔術を起こそうにも外からは壁で見えない。中からではローベルトが目を光らせているだろうし、夜になれば入口の門を閉じて施錠するのだそうだ。


 どこか誇らしげに話す彼からは、いかにこの大樹を大事に思っているかがはっきりと見て取れた。


 その後もローベルトと話し込んでいたり、ビッカーソの描いている絵を覗き込んでいたりしていたらすっかり昼になってしまった。


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