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ファンタジーにおける名探偵の必要性:再考  作者: 照菜咲
大樹が見つめた審判の問題 出題編
7/11

大樹(1)

 翌朝。

 自分の部屋を出て下へ降りてみると、食事を用意するメイラと席に着き朝食をとっているナガレ、アリア、キース、そして見知らぬ女性が一人いた。


「あら、ヴァンさん。おはようございます」


「おはようございます」


 俺が降りてきたことに気づき、アリアが挨拶してくれた。それを見て、メイラは俺に朝食をすぐ取るか聞いてきた。おなかもすいていないし、キリオが来てから持ってきてほしいと伝える。


「彼女を待ってあげるなんて、紳士ッスねぇ」


「そんなんじゃないですよ」


 さっそくニヤニヤと絡んできたナガレを軽くあしらう。遅れて降りてきたキリオが不思議そうな顔でこっちを見ていたが、俺としては苦笑するしかない。


「なにかあったの?」


「いや、別に……」


 笑ってごまかしたが、こちらを見ていた女性からはクスリと笑われてしまった。ナガレはしたり顔をしているし、くやしいことこのうえない。


 キリオが降りてきたので、メイラに食事を持ってきてもらうよう頼み、キリオとふたり席に着く。食事が持ってこられるのを待っている間、これからのことを話す。


「今日はとりあえずゆっくり回ろうか」


「そうね、薬草とかいいのみつかるといいなあ」


「あら、あなた薬草に興味が?」


 話しかけたのはさきほどからこちらを見ていた見知らぬ女性だ。金髪に近い茶髪のウェーブで、どこか理知的な目つきをしている。俺より年上のようだが、背丈は俺より低く女性としては一般的だろう。


「私はここの駐在薬師してるカーナよ。それよりあなた、ここには薬草を探しに来たのかしら? 私ここで薬草使って薬作ったりしているからそこそこ詳しいわよ?」


「ほ、ほんとですか!?」


 興奮して早速どちらにどのような薬草があるのか矢継ぎ早に聞き始める。薬草の名前らしき言葉が出てくるが、あいにく俺にはどんなものなのかさっぱりわからない。こっそり話に耳を傾けていると、どうやらカーナは体がやや弱かったため、自然の多いこの自然公園で療養がてら薬師をしているらしい。


 同じ医術を学ぶ者同士通じるところがあったのか、もはや完全にふたりの世界に入ってしまっていた。俺が入る隙間などなく、まさかこの二人で自然公園を周り始めるんじゃないか、そんな不安を抱いたとき思わぬ援護が入った。


「こらこら、だめよキリオさん。ヴァンさんをほったらかしにしちゃあ」


 アリアだ。

 キースとともに朝食をとっていたアリアが、キリオのほうを見ながらほほえんでいた。


「せっかくヴァンさんと二人で来たんですから。薬草が目的ならカーナさんの話を聞きたいのもわかりますけど、大事なことは間違えないようにしないと、ね」


「う……ごめんなさい」


 バツの悪そうな顔をしたキリオにアリアは微笑む。


「カーナさんが薬草についてガイドをするなら、私は恋愛スポットのガイドでもしようかしらね? おなじ恋人での訪問者として」


「こここ、こいびととかっ、いや、その」


 面白いくらいにキリオが慌てふためく。その姿を眺めているだけで実にほほえましい気持ちになるのだが、ほうっておくと後が怖い。拗ねられたらなだめるのがたいへんだ。


「なんか失礼なこと考えてない?」


「いいえ滅相もありません」


 女性というのはなぜにこうも勘が鋭いのだろうか。女性の方が探偵に向いているのかななんて余計なことが頭によぎった。


「そうねえ、午前中はカーナさんに薬草のガイドをしてもらって、午後はヴァンさんと一緒に回るというのはどうかしら? 薬草を扱うなら、薬にするための処理の関係で時間を置くこともあるのでしょう? だったら先に薬草を集めて回って、その後待ち時間をヴァンさんと回ればいいのではないかしら」


 アリアの提案にしばし考え込んでいたキリオだったが、顔を上げると


「そうですね、ヴァンとカーナさんがよければそれがいいと思います。二人はどうかしら?」


 キリオは少し不安げな顔でこちらを見る。この提案通りに行くなら、俺は午前中手持ち無沙汰になる。その点が申し訳ないのだろう。だが、もともと森林公園に来た目的の一つが薬草だし、薬草に詳しいガイドがいるなら彼女に任せたほうがキリオにとっていいだろう。


「俺のことは気にするなよ。時間は適当につぶしておくから、キリオは気にせず行ってきな。一緒に歩くときいろいろ解説してくれると嬉しいし」


「ふあっ!? わ、わかったわよ。ありがとね」


 カーナからも了承が出たため、午前はキリオとカーナが一緒に薬草集めに回ることになった。その後昼食や薬草の処理の後、俺とキリオが回る。その時、アリアが案内したいところがあるとのことだ。


 そういえば。


「そういえば、よくアリアさんは薬草の処理のことについて知ってましたね? 俺まったく知らなかったです」


 薬にするために薬草には処理がいるものもあるとか初めて知った。昔読んだファンタジー小説みたいにただすり鉢でゴリゴリするだけとかそんな楽なものではないらしい。


「あぁ。キースが冒険者だというのは昨日話したわよね?」


 朝食を終えたキースは黙ったまま座っている。鋭い目でこっちを見ているが動く気配はない。彼を手で差したままアリアは説明を続けた。


「私もね、昔は冒険者だったのよ。その縁でキースと知り合ったの。で、薬草についてだけど、当時パーティーを組んでいた医術師がよくぼやいていたのよね。処理が面倒だー!って」


「へぇ、アリアさんも冒険者だったんですねえ」


 キリオはそうなんだ、という口ぶりだが俺としては非常に驚きである。かつて迷宮の事件で多くの冒険者と知り合う機会があったが、男女問わず皆どこかギラギラした雰囲気が感じられたのを覚えている。


 事実、彼女の夫であるキースからは鋭い雰囲気がよく感じられる。なのにアリアからは全くそれが感じられない。穏やかな雰囲気でとてもあの危険と背中合わせの日々を送っていたようには見えなかった。


「意外かしら?」


「ええ、とても」


 ニッコリと笑うアリアだが、その笑顔が昨日とは違って見える。


「さて、今日の予定は決まったかい?」


 そこで俺とキリオにようやく食事が届く。


「申し訳ないけど、話し込んでいたようだったからね。食事を持ってくるのは待たせてもらったよ」


「いえいえ、ありがとうございます」


 カラカラと笑うメイラだが、随分と気がきくな。さすがは宿を切り盛りする女将といったところだろう。食事を終えたもの達の後片付けをしているミーシャもなるほどといった視線で母親を見ていた。


「とりあえず、昨夜来た二人にはこれを渡しておこうかね」


挿絵(By みてみん)


 そう言ってメイラが俺たちに渡したのは地図だった。

 昨日は暗くてわからなかったが、トンネルのそばには広場があり、それを囲むように今俺達がいる宿屋、雑貨屋、管理小屋、治療院、そして現在使われていない宿屋などがあるらしい。もっとも、現在使われていない建物はすべて施錠されているらしいが。


 あと、地図によるとどうやら川が流れているらしい。途中には池もあるようだが。


「ああ、その地図にある川だけど、けっこう幅がある上に流れがあるからね。飛び越えようなんて思わないでおくれよ」


まぁ、見たらわかるだろうね、とメイラは笑う。


「ってことは、この橋を渡るしかないってこと?」


「いえ、その地図には一つしか橋が書いてありませんけど、実際には池を挟んで反対側の方に橋がかかってはいるんです。ただ、この地図では見切れたところにあるんですよね。だから大樹にいくなら地図にあるほうの橋を使ったほうがいいです」


 キリオの質問に答えたのはミーシャだ。やはりこのあたりには詳しいようで、地図から見切れているという橋の場所をだいたいこの辺と教えてくれた。どうやら地図にある川から延長してしばらくといったあたりだ。


「ちなみに、外出ればわかると思うけど、ここは森や山に囲まれたような場所だから、あまり森の奥には行かない方がいいわ。一応木々にロープやテープが巻かれていて広場のある方向を矢印で示してはいるけど」


 最後にカーナが念を押す。そういやかなり深い森になっているって本で読んだな。ここがかつて山火事になった場所とはとても思えないほどだ。


「さて、二人の食事をこれ以上遅らせるのも悪いし私は一旦治療院に戻っているわね。キリオさん、用意ができたら来てくれるかしら」


 そう言って宿屋からカーナは出ていった。俺もキリオもようやく朝食をとり始める。






 さて、朝食をとったらどう時間をつぶしたものか。キリオとカーナが話だけであそこまで盛り上がっていたとなると、結構時間をかけるかもしれない。別に俺のことを気にしなくてもいいのだが。


「ヴァンさん、この後どうする予定ッスか?」


 のんびり食事を取っていたら、今までずっと楽器をいじっていたナガレが声をかけてきた。ちなみにキリオはすでに食べ終えて一旦部屋に戻っている。用意か何かがあるのだろう。


「いや、正直どうしようかなと。とりあえずぶらぶら歩くのもありかなと思っていましたが」


「せっかくだから、大樹でも見に行ったらどうッスか? ここの目玉ッスよー」


 そういえば、地図に大樹と書かれていた場所があったな。あそこだけなぜか円で囲まれていたから気にはなっていたけど。


「ここ、壁に囲まれた広場になっているッス。まあ詳しくはここの管理人さんに話を聞くといいッスよ。たぶんそこにいるッスから」


「へぇ。じゃあ、そうしようかな」


 食事を終えて、一旦部屋に戻る。

 下に降りると片付けをするメイラとミーシャしか残っておらず、俺も二人に一礼すると外に出ていった。


 外は到着した時とはすっかり姿を変え、一面木々の緑で埋め尽くされている。王都の建物ばかりの光景とはあまりにも差が感じられた。ふと、目を凝らすと遠くの方に周りの木々とは差をつけて大きくそびえる木と、それを取り囲むような壁?が見えた。


 なるほど。

 あれが、大樹か。


今回ついに地図出してしまいました。

どうか許してくれ、これが限界だったんだ……。


でも推理はこれで可能だと言っておきます。


感想も随時お待ちしています。

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