表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファンタジーにおける名探偵の必要性:再考  作者: 照菜咲
大樹が見つめた審判の問題 出題編
2/11

プロローグ

「はあ、はあ、はあ……」


 少年は走り続ける。

 ゴホゴホと咳き込んではいるが、立ち止まっているわけには行かない。


 熱い。


 こんなことなら、なんとしてでも止めるんだった。






 きっかけは同年代の子供の一人が、魔術をこっそり練習しようと言い出したことである。危険だから大人の許可がなければ魔術の練習は禁止されていた。


「なぁなぁ、いいこと思いついたんだけどさ」


「なにー?」


「なんか遊びでもするのか?」


 言い出した彼はガキ大将とも言うべき存在だった。彼の誘いはある意味強制に等しい。そんな彼が言い出したことが、こっそり森で魔術を練習すること、だった。


「そんなことしたら怒られるよー」


「あぁ!? 文句があんのか!」


 嫌がる女の子に怒鳴りつけ、ガキ大将は意気揚々と森へ向かう。

 少年もまた、彼に無理やり同行させられた一人だ。行きたくはなかったがガキ大将には何も言えず、仕方がなく着いていく。


 それが、大間違いだった。


 彼が練習しようとしたのは……こともあろうに、炎の魔術だった。


 常識的に考えて、森で炎の魔術の練習など馬鹿げているにも程がある。

 だが、所詮は子供。さらに言えばガキ大将の彼は人の注意なんて聞く子ではなかった。だから、何がダメなのか、なんでダメなのか、ちゃんと考えてはいなかったのである。


「よーし、練習してもっとすげえ魔術使えれば、大人たちだって文句は言わねえよ!」


「ちょ、おま」


 そして、彼の炎の魔術は木に当たり、燃える。

 その火はまたたく間に広がっていき……少年の目に飛び込んできたのは、周りの木に飛び火し、あたり一面が炎の世界となった光景だった。


「うわああああああああああ!!」


 子供たちは慌てて逃げていく。少年とて同じだ、あんなガキ大将に巻き込まれて焼け死ぬなんてまっぴらごめんだ。しかし、火はどんどん広がっていく。






「ちくしょう、ちくしょうっ……」


 少年は走る。

 こんなところで、こんなことで死んでたまるかと。


 しかし、もともとなぜ森で練習しようなどという発想が出たかといえば、大人たちから隠れるためだ。

 そのため森の奥まで踏み込んでしまっており、村までたどり着くのはまだまだ時間がかかりそうであった。子供の足の速さなどたかがしれている。


「う……ゲホッ、ゴホッ」


 周りの熱で体力が削れる。おまけに煙で視界もよくはないし、さらにはどんどん苦しくなってきた。

 もう、だめかもしれない……頬をつたう汗をぬぐいながら、少年は足がだんだん重くなってきているのを感じていた。


 その時である。


 最初はついに幻覚まで見えだしたのかと、目をこすってみた。しかし、それはまぎれもなく現実だった。今もなお、変わらず少年の目の前にある。


「あれ、は……?」


 今、森はあのバカのせいで燃えているはずだ。どの木も燃えているはずだ。なのに、なんで……あの木は。

 今目の前に佇んでいる木は、なんで燃えていないんだろうか。


 木というよりは大樹と言ってもいいかもしれない。

 もはや何も考えられず、その木へと駆け寄っていく。


 大樹は周りが燃え盛っているというのにも関わらず、今までと変わることなく堂々とそびえ立っていた。

 周りの火の光を受けて輝いているようにすら見えるその木は、どこか神々しくて。


 ああ、もう、大丈夫だ。

 根拠があったわけではないが。少年はなぜかそう思えた。


 そして、もう彼には限界が来ていたのだろう、安堵したと同時にだんだんとその意識は薄れていった。その身は木の幹に受け止められるように倒れ、少年は燃え盛る炎の中で木にすっかり身を任せていた。


 少年が眠り続けているのを、唯一無事な木はただただ見下ろすだけだった。


 大樹は、何も語らない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ