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ファンタジーにおける名探偵の必要性:再考  作者: 照菜咲
大樹が見つめた審判の問題 出題編
10/11

問答(1)

たいへん、たいへんお待たせいたしました……

 アリア達と分かれると、俺たちは足を森の方へ向けた。お互いすでに森に入ってはいるが、ここは広いし、相手がいるとなるとどこか風景が違って見える。


「しかし本当に広い場所だな、ここは」


「そうね、でも道がちゃんと示されてるから迷うことがなくていいじゃない」


 確かにその通りだ。俺がひとりで大樹に向かったルートとは別に、ちゃんと木々にロープを張った順路が作られている。それにそって、足場も人が通るためか歩きやすくなっており、獣道のような不安定な道ではない。


 森の中を少し歩くと、キリオはしゃがんで俺に手招きをした。どうやら何か見つけたようだ。


「これはね、皮膚にいい影響を与える、美容効果のある植物なの。葉を漬けたりして使うんだけどね。そしてこの花は、花びらから染料が作れるやつね」


 嬉しそうに、やけにギザギザな葉っぱやほんのりと紫がかった青い花を指さしながら俺に解説をしてくれるキリオ。前者は薬に関することだからまだしも、染料になるものまで解説されるとは思わなかった。随分と詳しいものだ。


「そんなによく知ってるな。俺は植物とか全部同じに見えてくる」


「近くで見たらけっこう違いがわかるわよ。それにね、今のはカーナさんの受け売りよ。エルワ森林公園にしばらく滞在しているだけあって、ここの植物については詳しいみたい。私の比じゃないよ」


 自分なんてまだまだ、と言うキリオだが内心で俺は舌を巻いていた。

 さすがというべきか、ここで薬師をしている彼女はそれほどまでに知識を蓄えているのかと驚いたのだ。だが、薬師というものは人の命を預かることにもなる大事な仕事だ。勉強しているに越したことはないのだろう。


 そう考えると、ますます横にいるキリオにも感心するものがある。


「ん? どうしたの」


「あ、いや別に。お前はすごいやつだなあって」


「どうしていきなりそんな思考回路になったのかしらね」


 やれやれと首を振っているが、内心まんざらでもなさそうなのが口元の緩みから見てとれた。

 そんな風に笑いながら歩いていると、ふと見覚えのあるような木の実が枝になっているのが見えた。キリオも気づいたらしく、俺の袖を引っ張る。


「ねぇねぇ、あれ」

「あぁ、本当にあったな」


 手のひらサイズの小さな木の実。葉っぱに覆われている状態だったのですぐにはわからなかったが、葉の間からは赤が見える。

 おそらくは先ほど食べたチコの実だ。アリアが自然になっているのがあると言っていたが、こんな風に実がつくのか。赤い色といい形といいイチゴに似てるなとは思っていたが、実を覆う葉っぱがイチゴのふさみたいだった。


「そういや、生でも食べれるって言ってたよな」

「え、やめなさいよ。確かにそう言ってたとは思うけどそのまま食べるなんて」

「大丈夫大丈夫」


 チコの実に手を伸ばして取ろうとするが、意外ととりづらい。葉っぱが実にしっかりからみついているし、葉っぱをはがしたらはがしたで茎からうまくとれない。力を入れて引っ張ってようやく取れたが、一部が枝に残りちぎれてしまった。


「さて、いただきます」


 キリオの静止は聞かず、俺はパクリと実を口にした。生だからかロイの店で食べた時ほど甘くはない。むしろ味が薄くてあまり感じられない気もした。




「ああああああああああああああああっっ!! 食べちゃったんですか!?」




 口にしてまもなく、後ろから大きな叫び声。

 俺とキリオが振り返ると、少し離れたところで頭を抱えて、こちらに向かってきているメガネをかけた男性がいた。


 その顔は焦りで満ちており、俺の方に来ながらしきりに吐き出せと叫んでいる。


 ……俺、やっちまったか?








 森から帰ったあと、俺は盛大に話のネタにされた。


「あっはっは! そうかい、それは危ないところだったねえ」


「まったく、ぎりぎり見える距離でしたが驚きましたよ」


 男性の名前はプラント、植物学者だそうで今日ここに来たばかりらしい。細身だが研究のためにいろんなところに足を運んでいるそうで、エルワ自然公園に来たのも植物調査のためだそうだ。


 で、俺が何をやらかしてしまったかというと。


「まさか、熟してないチコの実を食べようとするなんて……」


「ドリフの実じゃないだけ、まだましだけどねえ。でもろくに知識もなく木の実を口にするのは危険さね」


 どうやら、チコの実は熟していない状態だと体に害があるらしい。死の恐れがあるほど危険なのだとか。で、それを俺はパクリといただいてしまったようだ。幸いにも、熟した方を食べていれば免疫が働いて毒は中和されるそうだが。


……もう二度と、自然の中でつまみ食いはしないと俺は決めた。


「熟していないチコの実は、葉に包まれた状態で取りづらいんです。なので、本来なら無理に取ろうとする人はあまりいないんですけどね。覚えておいてくださいよ」


「あんた、気をつけなさいよ? 私が出る幕じゃなくてよかったけど、下手をすれば大ごとだったんだからね。キリオさんも、止めないと。殴ってでも」


「そうね。次からは殴るわ」


 カーナにいらないことを吹き込まれてキリオが怖い。バイオレンスな意味で。




 夕方6時。


 森から帰った俺たちは、宿屋で会話にふけっていた。現在いるのは俺とキリオ、プラント、そしてカーナ。ナガレもいるかと思ったがどうやらいないらしい。キースとアリアの二人も姿が見えない。ビッカーソはおそらく、まだ絵を描いているのだろう。そろそろ暗くなる頃だが。


「母さんが今夕食の準備をしています。簡単なものでいいなら今すぐでも出せはしますが、もう少しお待ちくださいね」


 厨房にいるメイラに代わり、ミーシャがそれぞれに飲み物を配ってくれる。歩き回って疲れたあとだったので、飲み物は非常に心地よく喉を通った。


「いやー、皆さんいつのまにか揃ってるみたいッスねー」


 しばらくしてから、ナガレが楽器をもって二階からおりてくる。てっきり外に出ているものと思っていたが、どうやら部屋にいたようだ。そのまま席に座ると、マルピーの弦をいじりつつミーシャに食事を頼んだ。


「あ、食事はもう少し待ってください。もうすぐ出せますので」


「えぇー、今日もお預けッスかぁ・・・」


 机につっぷし、シクシクと泣き真似をしてみるナガレに、みんなが笑う。


 ふと外をみると、俺たちがここに来た昨日のように、外はすっかり暗くなり始めていた。わずかな明かりが広場を照らすだけで、森はだんだんと暗闇に閉ざされつつあった。






「お待たせしました、夕飯だよ」


 7時頃にようやくミーシャとメイラが料理をトレイに乗せて運んでくる。

 その頃にはキースとアリアが共に戻ってきており、さらにはビッカーソ、ローベルト、そしてロイも宿屋へ夕飯を食べにやってきた。


「随分遅かったですね、みなさん」


 料理を配るミーシャの言葉に、アリアは笑って答えた。


「私たちの場合は、キースがどこかにふらりといってしまってね。広い場所だし、行き違いになっても困るでしょう? だからずっと私は入口の方で待ってたの」


「実のところ、俺は森を歩いたあとしばらく大樹のところにいたんだがな」


 笑顔のアリアに対し、相変わらずキースは仏頂面のままだ。

 アリアが大皿から料理を食べ、そのあとでキースが自分の分を取る。こういうところでは彼女に遠慮でもしているのだろうか。


 別のテーブルで酒を飲んでいたローベルトも話に加わる。


「そうですな、ずっと大樹を見上げておられて……。ビッカーソさんは絵にかかりっきりじゃったし、静かなものでしたわい」


「話などしては……絵に集中できない……」


 ビッカーソが答えるが、肝心の絵はまだ完成していないようだ。もって帰ってきた時には布がかけられていた上に、一度部屋に戻って置いてきてしまったようだ。さすがに絵を見せて欲しいと部屋まで押しかけるわけにもいかない。


 昨日はナガレの人物画でさえ夕食前に描きあげたというのに、静物画の、しかも木の絵はまだ完成していないというのも気になる。もっとも、俺は絵に詳しいわけではない。案外、静物画のほうが難しいのかもしれないな。






 飲んで食べて、喋って。

 気が付けば2時間近くも経っていた。


「んじゃ、俺はいったん戻るぜ。また後でくるよ」


「まだまだぁこれからじゃろうに」


「私も戻るわ。薬草の処理がまだ残ってるもの」


 だいぶ酒が進んだローベルトが止めるが、ロイとカーナが席を立つ。もっとも、ロイの方はまた後で戻ってくる気らしい。そのせいかあまり酒は口にしていなかったようだ。


「私もそろそろ、部屋に戻りましょうかね。ではみなさん、また明日」


 プラントは丁寧に挨拶をすると、二階へとのぼっていった。


「なんんじゃい、つまらんのぅ」


 ムスリとしたローベルトはまだ酒を飲む手を止めない。正直、だいぶ酔ってそうだからやめたほうがいいと思うのだが……。

 声を掛けようとしたが、その前にミーシャが俺を止める。


「まぁまぁ、限界だなと思ったらこちらで止めますから。ローベルトさんはいつも大樹のことで気を張ってるところがありますし、お酒を飲みたい日もありますよ」


 なんだかなぁ、と思いつつローベルトの方を見る。そこで、彼の胸に何かが光っているのが見えた。


「あれ、ローベルトさんの胸にあるのは」


「あぁ、あれは鍵ですよ。大樹の広場って大きな壁に囲まれているじゃないですか? あそこの門もそれなりに頑丈な扉で、その施錠を魔術錠でしているんだそうです」


 魔術錠。

 ピックングの類であけることも、魔術で開けることもかなわない特殊な錠だ。開けるには対応した鍵が必要となる。万が一鍵が紛失した場合に備え鍵を開ける特殊な職業もあるそうだが、その職業の人でさえ時間をかなりかけなければ開けられないらしい。その作業には一日じゃ済まない時間がかかるとか。


 そういえば、確かに門を見た。木製の、それでいて重厚な扉。

 あれを開け閉めできるのが、今ローベルトさんの胸にぶら下がる鍵だということか。


「ローベルトさんは大樹を大事にしていますからね。なくしたりとられたりしないよう、肌身離さず持っているらしいです。付けていないところを見たことありません」


 ミーシャの説明を聞きながら、俺は鈍く光るその鍵を見つめていた。


皆様、お久しぶりです。

ここしばらく、更新できなくてすみませんでした。


プロットが甘かったと自省するばかりです。

書いては書き直し、の繰り返しでした。のちのちロジックエラーが出ても怖いですし。


そしてそうこうしている間に、原作の方では「ドラゴンイーターあるいは黄泉がえる首なし姫の問題」が始まり、そして終わってしまいました。


私としては名残惜しい限りです。

なので、読者への挑戦に溢れる方々、次はこちらで挑戦していただけたらな、と思います。原作者様もぜひ。


欲を言えば。まだまだ次の事件の話だって書きたい。

だからこそ、まずはこの話をきっちり進めていきたいと思います。


みなさま、どうかよろしくお願いします。

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