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【4】


        ❀ ✝ ❀



 ある秋風も穏やかな、過ごしやすい日。学校を出てから数分後、教室に忘れ物をしたことに気づき急いで取りに戻った。階段を登ると、まーちや他の女子生徒たちの話し声が内容まではわからないが聞こえてきた。多分クラスメイトの女子らとまーちがいるのだろう。特に何も気にしないで教室へと向かう。そして扉に手をかけようとしたその時……。

「ねえ、前から不思議だったんだけど。なんでまーちは飯塚さんと一緒にいるの?」

「そうそう。あの子……、悪い子じゃないと思うけど。ちょっと、特殊だし? うちらとも雰囲気が違うし」

(……)

 聞こえてきた声は、確かに聞いたことのある声で。まーちとよくつるんでいる隣のクラスの女生徒だった。彼女らの内緒話をしているときのような、声には楽しそうな響きがあった。(ああ、いまどきの女子高校生って感じだなぁ)なんて、「若さ」を実感しつつクラスの前について扉を開けようと手を伸ばしたその時――。

「だって、可哀想でしょう? 私がいなかったらあの子、いつだって一人なんだもん」

「!!」

 その、まーちの言葉が脳に重く響いた。きっと当人たちには何気ない会話で、今も笑い声が絶えず聞こえてくる。


「だって、可哀想でしょう?」

「私がいなかったら」


 私は一人が嫌だと、いつ言った……?

 私が可哀想だと、誰が決めつける?

 私はお前の所有物でも、傲慢に、目下に見られる立場にもいない。

 それは優しさか? 高慢か? 自己満足か?

 そのどれも、私にはいらない。すべてお前の勝手な思い上がりだ。


「……」

 わざと大きな音を立てて教室の扉を開いた。そして私がそこにいるのを認めた彼女らは、驚きと困惑と焦り、そんな様々な表情を浮かべ。松木に至っては顔面蒼白だ。それが無性に可笑しかった。一応彼女らにも、後ろめたい。自分たちの話していた内容が、決していいものではないということを自覚しているようだ。あの話が善意からのものではないということを、その表情が何よりも雄弁に物語っていた。

「……」

 無言で彼女らの傍を通り過ぎ、自分の机まで行って忘れてしまったノートを取り出し鞄に入れる。自分を凝視する視線は感じるが、あえてそちらを見ない。するべきことをして、無言で教室を去る。

 こんな奴の正体を知らなかったといえど、羨ましいと思った自分が愚かに感じる。ただただ怒りに支配され、スタスタと足早に廊下を歩き靴箱へ向かう。

 そして靴箱について靴を履き替えようとしたとき、ふと、ある考えが浮かんできた。

「――(さとる)さんも、もしかして」

 あの人も、もしかしたら私が可哀想だから好きだと言ったのだろうか。ついつい嫌な方向へ思考がいってしまう。それでも考えるのを止められなくて、怒りは収まり虚しさだけが心を占拠する。

 さっきまでとは打って変わって、意気消沈しながらとぼとぼと玄関を出て学校の敷地内を出ようとする。が、さらに運が悪いことに前から走ってきた人と正面衝突して転びそうになってしまった……。下を向いていたせいで、目の前から走ってくる人が見えていなかったために怒った不運な事故だ。

「え、わっ!」

 走ってきたその人も急いでいたのか、目前に迫ってやっと気がつき驚いて声を上げるが、間に合わず。そしてそのまま正面衝突をしてしまい、彼と私の荷物は地面にばら撒かれてしまった。

「ご、ごめん! 大丈夫だった?」

 なんとか転ばずに済んだのは、ぶつかった相手が咄嗟に支えてくれたからだった。

「あ、はい。大丈夫です。すみません、前を見ていなくて……」

「いや、こっちこそ本当にごめん! 急いでて俺も前、よくみてなかったから」

 彼は地面にばら撒かれた荷物を一緒に拾い集めてくれ、無事を確認する。

「本当にどこも怪我してない?」

「はい。それは大丈夫です」

「よかった。女の子に怪我でもさしたら大変だもんね」

「そんな。あなたのほうこそ怪我はありませんでしたか? 運動部の方なら、私よりも怪我には気を付けないといけませんし」

 そんな風に返すと、彼はほわっと笑った。人懐っこい、子犬のような笑みだった。

「俺は大丈夫だよ。毎日鍛えてるから丈夫だし」

「そうですか。怪我がなくてよかったです。それじゃあ、部活頑張って下さい」

 荷物を拾い終わり、それだけ言って去っていく。彼も自分の目的を思い出してそこに向かおうとして、自分が彼女の持ち物であろうハンカチをまだ手にしていることに気が付いた。

「――どうすれば」

 手にした白く綺麗に折りたたまれたハンカチが、そよ風に小さく揺れる。

 しばらくの間呆然とした後、ハッと自分の今の役目を思い出して駆け出した。ハンカチはズボンのポケットにとりあえずしまうことにした。




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