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【12】

        ❀ ✝ ❀


 雪華が店を後にした次の日。

「あぁ~あ、何でこの仕事してると恋愛ごとが多いんだろうな」

「まぁそれだけ人が強く想えて、愚かになる。って証拠なんだろう」

 お客様が誰もいない店内で、カウンター席に座ってテーブルに顎を乗せてぶつぶつ愚痴を言っているウィル。正面にはグラスを磨いているイサナ。ネイナスは店内の掃除を念入りに黙々とこなしている。フォードはと言うと、一人窓際で外を見ながらぼんやりしている。

「久しぶりの”外”の世界はどうだった?」

「すっごく綺麗だった。桜が咲いて、風に舞って…・・・。雪華がいたのは昨日の出来事なのに、もう外では雪華が去ったあの日から、二年経ってた。今でもこの感覚には慣れないよ」

 そうウィルはおどけてみせる。

 この店と外の世界、現実世界では時間の流れが異なっている。その為、この店では一秒後でも現実世界では一月、一年、と経っている場合がある。もちろん店の中の流れは現実世界とは切り離されているため、隔離して何の違和感もなく店を訪れた迷える人()を現実世界へ還すことなど造作もない。雪華があの日、大学で見たのはウィルだった。本当は雪華の導人しるべびとであるフォードが行くのが妥当だったのだが、本人がどうしても行きたくない。だけど、様子が気になるからと。ウィルに行かせたのだ。

「それにしても綺麗だったよなぁ、雪華。性格だって良いし、何であんなに自信ないんだろう」

「まぁ、外見が良いだけじゃ恋愛は上手くいかないって良い例だろう?」

 ぶつぶつまだ何か言っているウィルに、イサナは苦笑を漏らすしかない。すると突然ウィルがバシン! と両手で勢いよく机を叩きながら立ち上がった。

「でも今回はあいつの慧っていう、彼氏が悪いだろう! 過去をオレだって見てみたけど、彼女置き去りにして、しかも他の女に愛を囁く? ふざけんなっ! って話だろう!!?」

「人は失敗を繰り返して、学習して、やっとみつけるんだ。自分だけの真実ほんとうを」

 憤慨ふんがいしているウィルを宥めるように、イサナは落ち着いた口調を崩さない。

「彼女もきっと、次はいい恋ができるさ」

 すると、小さな声が窓際の方から聞こえてきた。

「あいつも、きっと幸せになれるだろう」

 そう、珍しい人物からかなり貴重な言葉を聞いた面々は、思わずそちらの方を向いてしまった。フォードは思わず、といったように、きっと本人も無意識のうちに言っていた。イサナの穏やかな声に、まるで誘われるように言葉が引き出されたようだった。

「なんだ、フォード。お前がそんな顔して、そんなこと言うなんて珍しいな」

「別に、どうもしない。ただ、少し…優しくて、嬉しくて、羨ましいと思っただけだ」

「お、なんだなんだ。まさかお前、雪華にちょっと惹かれてたのか~~」

「……」

「イッテ! 何すんだよ!」

 そうにやにやとした顔つきで近づいてきたウィルの無防備で、いかにも叩きやすそうな頭頂部を遠慮なく、テーブルに置かれたままだったメニューで叩いた。バシッ! といい音がし、フォードは少し満足げに頷きながら言った。

「トリ頭に何言っても無駄だ」

「誰がトリ頭だ! どこに羽が生えてんだよ!」

「……阿呆あほう

「何だと――!!」

 イサナはやれやれという視線をネイナスに投げかけ、ネイナスは苦笑して返す。きゃんぎゃんと騒ぐウィルだが、言われているフォード自信はどこ吹く風で明日の下準備をしている。まだ傍で騒いでいるウィルを無視し、フォードは再び外を見る。


 もう逢うことはないだろうけど。

 どうかこの店に訪れるような後悔はないことを願うよ。

 俺も、イサナもウィルもネイナスも、皆お前の幸せを願っているから――。


 

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