02
しばらく間が開いてしまいました。
変な馬鹿男はさておき、下手に迷子になるといけないので学校の中を探索するのはやめにした。
そんなのいつでも出来るしね。
だが、あの明るい教室にはいたくない。
そうすればやることは一つ。
待つ、しかないわけだ。
教室のそばの階段に座った。
一応あたりを見渡してみる。
誰もいない。
「……ハァ。」
誰もいないのをいいことに私はさっそく真新しい制服を着崩す。
しっかり結んでいたネクタイをとき、ダランとぶらさげる。教師に素行の悪い生徒と見られないように下げていたスカートを上げる。うん、大分楽になった。
正直ここの広さには驚いたけれど、制服の種類の多さにはもっと驚いた。女子はセーラーとブレザー、男子は学ランとブレザー。シャツやブラウス、ネクタイは形、色、ともに基本自由。(式典や授業参観は全生徒統一)
「にしてもAクラス、騒がしすぎ……。」
「あら、普段はそんなことないわよ?」
一人言のはずなのに返事が返ってきた。
「誰っ!?」
もう一度見渡す。
「ここよ。あなたの後ろ」
言われた通りに振り向くと
居た。
数段上の段に私と同じように座り、頬杖をついた格好で見下ろしていた。
「ねえ、貴方が噂の転校生でしょ?」
「そうだけど……。」
少しムッとした声で答えてしまう。
「そう。私は貴方を迎えに来たの。」
「迎えに?」
思わず問い返す。
「ええ。」
クスリと笑って彼女は言葉を続ける。
「私は、炎黒羽者。Aクラスの委員長を務めているわ。だから迎えに来たのよ。」
ああ、なるほど。
意外と早く来てしまったな。
「行きましょうか。でもその前に制服、直した方が良いんじゃない?」
私はネクタイだけ直して立ち上がった。
「……行こうか。」
私が立ち上がったと同時に予鈴のチャイムが鳴り響いた。
「でも、凄いんだね貴方。最初からAクラスなんて。」
「……そうなの?」
予鈴が鳴ったことで慌ただしい廊下を二人は歩いている。羽者は静かな笑みを顔に貼り付け、私は恐らく無表情。第三者から見たらなんとシュールな光景だろうか。
「ええ。まずこの学園に転入生が来ること自体珍しいのだけれど。特別クラスに一度でも入ってしまえば絶対に落ちることはないわ。と言っても特別クラスに入れるのは優秀な人だけ。」
「……。」
――数分後、私達は3-Aの教室に着いた。
「じゃあ、私が呼んだら入ってきてね。」
呼ぶのは教師の役目ではないのか、と思ったが私は何も言わなかった。
『おはようございます。今日は転校生が来ています。』
羽者の声だ。教師の声ではない。
HRというのは、委員長が仕切るものなのだろうか。
『転校生の竜王さん入ってきてください。』
呼ばれた。行かなくてはならない。
一つ深呼吸して、扉に手をかけた。
この向こうには、私が付いていけない世界が広がっていることだろう。
騒ぐ生徒。
皆口々に私のことについて話しているのだろう。
ガラッ
「………。」
まさに予想通りだ。
……うるさいなあ……
多分これはあれだ。自己紹介をさせられ、席を勝手に決められた後、休み時間にならば、私に興味がある者共が私の机にたかってくるというパターンだろう。
――うるさいのは嫌いだ。
――馬鹿な奴は大嫌いだ。
ここは、これからの友好について考えるべきか。拒絶か。
私は歩みだす。視線が見えない圧力となって押し寄せてくる。
そして、羽者の隣に並んで、見たくない世界の方に体を向けた。
口を開く。
「竜王月です。親の仕事の都合で転校してきました。」
それだけ言って軽く礼をする。転入が決まって直ぐに考えていた(というかただの事実だが)文章を無表情で告げる。「よろしく」なんて友好的な言葉、私は言わない。無表情で言えば冷たいという印象など簡単に植えつけられ、誰も寄り付かせないことが出来るかと思っていたが……、どうやら甘かったようだ。
クラスメートはなかなか雑食だった。
「クールビューティー……!」
「ふむ……。あれが噂に聞くクーデレと呼ばれるものですか。」
「いや、違うと思うぞ。」
「わー美人ー。」
「どこから来たんだろー。」
『わーきゃー』と騒ぎ立ててうるさい。
なんだ、ここは。どこの異世界だ。
「随分と人気者ね。」
羽者が私に向かってぼそりと呟いた。
クスリと笑いながら。
私はこんなにも注目を集めるつもりはなかった。
それとも、あれか?転校生とは何らかの補正により、こんな珍獣を見るような目で見られるものなのか?
そのうち羽者は少し笑みを浮かべながら、
「大変ね。」
と私に言った。
何とも好きになれない奴だ。
というかそろそろ本当に視線が痛い。
クラスメートの輝く瞳がはっきり言ってウザい。
やめてほしい。私はその目が大の苦手だ。
そして羽者は言う。
「皆さん、静かに。竜王さんの席はー……そうですね……。」
少し間を置くと、すかさず、
「羽者!ココが良い!」
高い女の子の声がした。そちらの方を見る。女の子が立ち上がり、自分の席の隣をさしている。場所は一番後ろの窓側の席だった。
女の子は髪を2つに結んでいた。所謂ツインテールである。私が最も関わりたくない、可愛いキャピキャピ系の人種だった。
「……じゃあ、実優の隣で。竜王さん、貴方の席は手を挙げている子の隣よ。」
私は羽者に言われた場所に座り、隣席の人に軽く会釈する。
「私、田中実優!よろしくね、月ちゃん!」
最初から許可もなく名前呼びって……色々と有り得ない。
「それじゃあ、授業始めますよ!」
良かった。ここで質問タイムなんてものになった時には色んな意味で終わっていたところだった。
っていうか、先生いたんだ。
「教科書92ページ開いて~。」
その声を聞いて私もノートと教科書を用意して授業に臨んだ。
流石偏差値が高いだけはあって授業も難しい。
それに私は転入生だ。早く授業に追いつかなくては。
私は数字が規則正しく並ぶ黒板に意識を向けた。
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