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僕と彼女の変態日記  作者: 水月さなぎ
8/21

3月22日 魔法少女とクラスメイト

 今日はそのはからの電話もなく、こっちからする気もなかった。

 たまには変態な日常から解放されてみたいと思ったのだ。

「む……」

 思ったのだが……。

 ベッドでゴロゴロと漫画を読んでいても、何だか落ち着かない。何かが物足りないと感じてしまう。

「ま、不味い傾向かもしれない……」

 そのはの変態性癖は徐々に影響を及ぼしてきているらしい。変態から解放されたら嬉しいはずなのに、変態要素がないと何だかそわそわするだなんて。はっきりいって今までの僕ならあり得ない。

「む、む、む……」

 そのはが変態なのは最初から知ってるし、その性癖も受け入れる意味で付き合い始めたけど、まさかいつの間にか僕まで変態に成り下がるとは……。うわあ、考えたくねえ。

 ぶるぶると頭を振ってベッドから跳ね起きて、窓の外を眺める。

「よし。外に出よう」

 引き籠もっているからもやもやしてしまうのだ。外に出て気分転換すればきっとスッキリするはず!


 スッキリするはず……だったのだが、

「何故こうなる……?」

 僕の足は何故かレンタルショップに向いていた。しかもそのはに勧められたロリ幼女アニメのDVDコーナーに。

「…………」

 しかも手に取ってじっくり観察してるし。

 パッケージには小学生低学年くらいの魔法少女風の女の子。若干パンツが見え隠れしているところがポイント高し。ぐりぐりの大きな瞳がじっと正面を見据えていて、はにかむ顔はストライクゾーンがっつりだ。

「ま、待て待て」

 いくらなんでもこれから高校生になろうという男が魔法少女モノは敷居が高すぎるというか……。こんなモノを借りた日には店員さんからどんな目で見られることか……。いや、案外大丈夫、かな? 本屋でしれっとエロ本買うようなものだし。本屋の店員はプロ意識からそういう態度を表に出さないし、そういう意味では見て見ぬ振りというか、無関心でいてくれるのではないだろうか。

 そのはが勧めてくれたのだから見ないのも悪い気がするし……。というかパッケージの少女だけでも興味が湧いてきたし……。しかも第3期くらいまであるあたり、人気もそこそこありそうだし……。

「うむむむむ……」

 色んな物を秤に掛けながら悩んでいると、40歳くらいのオッサンが横に立った。

「………………」

 オッサンは同じシリーズの第3期の前半部分5巻くらいを一気にケースから抜いてレジに向かっていった。

「………………………………」

 よ、40代くらいのオッサンが何の躊躇いもなく魔法少女アニメを……。ショックなような、開き直っても大丈夫なような、複雑な気持ちになった。

 い、いや! あんなオッサンに出来て僕に出来ないわけがない!

 借りるぜ魔法少女!

 僕は第1シリーズを全巻抜き取ってレジへと突撃した。

「破条君……?」

「え……?」

 怪訝そうな声で僕を呼ぶのは、同い年くらいの女の子。しかも見覚えがある。元クラスメイトの坂井由香里だ。

 状況説明開始。

 場所、レンタルショップのレジカウンター。

 目の前にいる店員、元クラスメイト、坂井由香里。

 カウンター上にあるDVD、魔法少女もの。

 向けられる視線、軽蔑の眼差し。

「………………」

「………………」

 し、しまった! 店員ならプロ意識で無視してくれるだろうと思ったが、知り合いが相手ではそうもいかない!

「は、破条君って、こういうのが趣味なんだ……」

「ち、ちがっ!」

 違う、と言いかけて止まってしまった。今更何を言い訳しようとも、レンタル料を払ってまで借りているのだから否定は無意味だ。

「そっか……。ロリコンだから彼女作らなかったんだね……」

 何故か悲しそうな声で納得する坂井。

「ちょっと待て! 誰がロリコンだっ!」

「だってこれ……」

 遠慮がちにDVDのパッケージを指さす。しかもその指がちょうどパンツあたりを指しているのは勘弁して欲しい。まるで僕が幼女のパンツだけに興味を持って借りているみたいじゃないか!

「これは僕の趣味じゃない! 知り合いが勧めてくるからちょっと試しに借りてみようと思っただけだ!」

「ヘー、ソウナンダ」

「うっわ! 何だその棒読み!? 絶対信じてないだろ!?」

「まあ他人の趣味にとやかく言う気はないけど、せめて犯罪行為には走らないようにね」

「走るかっ!」

 何故魔法少女モノのDVDを借りようとしただけでそこまで言われなければならないのだ! さっきのオッサンなんてとっくに借りて店を出ているのに!

「あ~あ、わたしもちょっとだけ破条君には憧れてたんだけどなぁ~」

「いや、それは初耳だ」

「告白しないで正解だったよ。いくら外見がよくてもね~。さすがにこんな趣味を持つ人とは付き合いたくないわ」

「心配するな。僕も坂井と付き合う気はない」

 すでに彼女がいる身だし。

 後ろの客が待っていることもあって、坂井はようやくバーコードを通してくれた。やれやれ。DVD借りるのに何でこんなに苦労しなければならないのだろう。不毛だ。

 それにしてもやっぱりこういうのは問題アリなんだなあと実感させられた。みんな態度に出さないだけで思っていることは結構酷いのかもな。

 それにしても坂井があんなところでバイトしているとは……。年齢でも誤魔化しているのか、それとも知り合いの店で大目に見てもらっているのか。どちらにしても今後、あのショップを利用しづらくなったのは確かだ。


 その後、家に帰ってDVD鑑賞。

「………………」

 少しずつ見るつもりだったのに、一気に最終巻まで見てしまった。

「………………」

 やばい。面白い。戦う幼女。いや、少女。迸る魔法。盛りあがる戦闘シーン。笑いあり、涙ありのワンクール! 何だこれ、滅茶苦茶面白いじゃんか! 幼女とか少女とか萌えとか抜きにしても話だけでも面白いぞ! 駄目だ! 続きが見たい! 第2シリーズ早く見たい! でもその為にはあのレンタルショップに行かなければならない! あそこには坂井がいる! こんなすぐに見てしまってさっそく第2シリーズなんて借りに行ってたら今度は何を言われるか! うわあ、どうしよう……。

「あ、そっか。そのはに頼めばいいんだ……」

 そのははその辺り気にするような性格じゃないし。もともとはそのはが勧めてきたんだからまさか断ったりはしないだろう。よし。じゃあ早速電話だ!


 その後、そのはに電話で第2シリーズを借りて欲しいと頼んだら、持っているから貸してやると言われてしまった……。

 早く言え――っ! 最初からそのはに借りていれば僕は坂井にあんな事を言われずに済んだんだよっ!

 と、ちょっとだけ理不尽な怒りを抱いてしまった。

 ちなみに僕は素直にストーリーに感動したのだが、そのはの視点は変身シーンの少女の裸にあったらしく、影でもいいからもっと細かい描写にして欲しかった、とか、せっかくの小学生アニメなんだからスクール水着とブルマーの描写を入れるべきだとか、そんな事を熱く語られてしまった。

 ……確かにスクール水着とブルマー、見たかったかも……。

 とか思う辺り、僕は確実に浸食されている。



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